第18話 入学式前

 今日は待ちに待った入学式だ。

 

 あれからメルヴィンとは何度か一緒に採取依頼を受けて小銭を稼いだ。確かに採取依頼では身入りが悪く、討伐依頼を受けたいというメルヴィンの気持ちがわかった。


そしてその間に僕は八歳になった。年越しを挟んだからだ。この世界では年越しにみんな一斉に歳をとる。

前の僕が居た世界では誕生日があったらしいが、この世界にはない。



 

 今日の入学式ではテディーに会えるだろうか。合格しているといいな。そしたら一緒に冒険に誘おう。

 真新しい制服に身を包んで、僕はワクワクした。

『にゅ~がくしき~たの~しみだなぁ』

 アオはシロの上でずっと歌っている。シロもリズムに合わせてしっぽを振っている。

 

 リビングに行くとお父さん達が入学おめでとうと言ってくれた。

 みんなに頭を撫でられてちょっと気恥ずかしい。

 

 学園にはメルヴィンと一緒に行くことにしている。メルヴィンは年上だからか僕をよく気にかけてくれる。今日も家にむかえにきてくれるんだ。

 朝食を食べてしばらくすると、メルヴィンがやって来た。

 僕は行ってきますとお父さんたちに手を振ると、アオとシロと一緒に玄関を出る。

「おはよう!やっと入学だな、楽しみすぎて眠れなかったぜ」

 メルヴィンは満面の笑みで言う。

「おはよう!僕はいつもより一時間も早起きしちゃったよ。ずっと制服着て待ってた」

 二人で楽しみだと笑い合う。クラスが違うのが残念だけど、今日から一緒に学園に通えるんだ。

 

 学園の門が近づくと、門の前でキョロキョロと周囲を見回してる子がいた。

「テディー!」

 僕は駆け出して飛びついた。

「エリス!ああ良かった、やっぱり合格してた!」

 テディーは僕を探してくれていたようだ。嬉しくて二人で飛び跳ねる。

「クラスは?」

「僕はブラックだよ」

「同じクラスだ!」

 僕はテディとハイタッチしてはしゃいでいた。

「お前ら仲良いな」

 後ろからゆっくり付いてきてくれたメルヴィンが笑っている。

 

「そうだ、テディー紹介するよ。休日に一緒に冒険者をやる事になったメルヴィン。レッドクラスだよ」

 メルヴィンとテディーは互いに挨拶しあった。テディーは試験の時的を素手で破壊した子だと覚えていた。

「休日一緒に冒険する仲間を探してんだ、テディーも一緒にどうだ?」

 メルヴィンがテディーを冒険者に誘う。

「休日に冒険者……いいね!僕バイト探さなきゃって思ってたんだ。でも冒険者の方が楽しそう!」

 やった!テディーも一緒に冒険できる。

 僕は嬉しくて、思わず隣にいたシロに抱きついた。

 

「よし、後は試験の時的壊してた女の子達だな!」

 彼女達も合格しているだろうか。見つけたら勧誘しよう。

 

 

 

 入学式が行われるホールに入ると、新入生がクラス毎に分けられていた。見事にクラス毎の特色が出ていて、テディーと顔を見合せて笑ってしまう。

 レッドクラスの場所はかなり賑やかで、イエロークラスの場所はきちんと整列している。ホワイトの場所はまとまって和やかに談笑していて、ブラックの場所はなんと言うかそれぞれ自由だった。


「じゃあ、また後でな!」

 メルヴィンと別れて、僕らはブラックの場所に向かう。その場所で、探していた女の子を見つけた。

 待機場所の後ろの方で一人俯いているその子は、水の魔法で的を貫いた、僕と同じ歳くらいの子だ。

 テディーと二人で声をかける。

「ひゃい!?」

 女の子は驚いたようで目を丸くしていた。

「え、あ、わ、私ですか?」

 相当驚かせてしまったみたいだ。

 僕らは自己紹介をした。

「あ、私はグレイス・コービンです。よ、よろしくおねがいします」

 グレイスは未だオドオドしていた。こういう子なのかもしれない。

 

 僕らは早速話を切り出した。

「僕たち休日に一緒に冒険者活動できる仲間を探してるんだ。グレイスの魔法が凄かったから、一緒にどうかなって思って」

 そういうとグレイスはキョトンとしていた。

「私の魔法を見て誘ってくれたんですか?」

 テディーがそうだよと笑う

「うん、凄かったね。あの魔力操作技術、相当練習したんじゃない?見てびっくりしたよ」

 グレイスは少し嬉しそうな顔をしたけど、また俯いてしまった。

「でも、私『まじない師』です……お役にたてないと思います」

 僕たちはよく意味がわからなかった。

「なんで?僕なんて『鑑定士』だよ冒険にジョブは関係ないでしょ」

「それに『まじない師』ってかなり役に立つと思うけど、戦闘前とかまじないかけてくれたらすごく助かると思う」

 僕たちの言葉にグレイスは泣きそうな顔になった。もしかしたらジョブのことで誰かに何か言われたのかもしれない。

「私でいいんでしょうか?……私やってみたいです。冒険者、自由で楽しそうで憧れてました」

 グレイスはそう言って笑った。僕とテディーは勧誘成功のハイタッチをして、ついでにグレイスも巻き込んだ。

 グレイスは目を白黒させていたが、楽しそうに笑ってくれた。

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