第19話 入学式

 テディーとグレイスと三人で話していると突然ホールの照明が落ちた。真っ暗な中新入生達はザワつく。

 

 するとホールに設置されていたランタンに順番に火が灯ってゆく。火が灯りきると、ホールの中央にいつの間にか仮面の人が立っていた。

「皆さんようこそマルダー魔法学園へ、学園は皆さんを歓迎します」

 ホール全体に声が木霊する。僕はワクワクした。いかにも魔法学園といった感じだ。


「私は学園長のマルダー、ここに集った四十名の皆さんは、今日からこの歴史ある魔法学園の生徒です。その自覚を持ち勉学に励むように。これは皆さんに私からの贈り物です」

 

 そう言うと長い杖を床に突き立て魔法陣を展開した。その瞬間、全てのランタンの灯りが消え、代わりに光の粒子が空から降ってくる。それは幻想的な光景だった。誰もが感嘆の声を上げ、空から降る光に目を奪われている。

 

「それでは新入生諸君、君たちの未来に幸多からんことを」

 そう言うと、学園長の姿が消えた。どんな魔法を使ったんだろう。

 

 いつの間にか、それぞれのクラスの待機場所の後ろに、上級生と思われる人が立っていた。

「僕らがクラスに案内するよ、着いてきて」

 黒い腕章をつけた上級生はそう言うと、飛び立った。僕らより少し上空を飛んで先導してくれる。

 教室に着くと、席に座って待っているように言って上級生は帰っていった。机には年間行事予定表や時間割などが置かれている。シロとアオが居るからか、僕の席は窓際の一番後ろだった。ちなみにクラスに他にテイマーは居ないようだ。隣の席がテディーでちょっと安心した。

 

 

 

 しばらく待つと先生がやって来た。

「今日から君たちブラッククラスを受け持つことになったギャガンだ」

 先生は黒髪のまだ若そうな男性だった。

「お前らは去年のブラックのように教室を爆破してくれるなよ」

 何があったんだ、去年のブラック。

「今年はブラックにしては大人しいのが揃っているようだが、油断は出来ないからな。何かやらかしたら直ぐに俺を呼ぶように」

 ブラックって問題児の集まりなのだろうか。僕はちょっと不安になった。

「ダレル・フリンは居るか?」

 先生がいうと、一人の男子生徒が手を挙げた。

「僕です」

「お前がクラスの級長だ異論は認めない」

 級長って強制なのか、僕は彼を哀れんだ。それに今気づいたけどこのクラス、女子はグレイスしか居ない。ちょっと可哀想だなと思った。なるべく一緒に居てあげるようにしよう。


「さてお前たちはこれから週三日この学園に通う訳だが、この学園の講師は全員が第一線で活躍する、もしくはしていた魔法使いだ。彼らの貴重な時間を無駄にさせないように予習復習を常に忘れるな」

 

 この世界の暦は大体前世と似たようなものだ。週七日の内三日しか授業が無いのは講師たちの時間が取れないためである。ここの講師は腕のいい魔法使いばかりだ。

 因みに担任の先生は一般教養を受け持つためその限りでは無い。

 他には働きながら学園に通うものが多いという理由もあるかな。領地持ちの貴族の子息なんかもこの学園には多くいる。彼らは魔法以外にも学ぶことがたくさんあるんだ。

 

「後は働きながら通う予定の奴はちゃんと学園に申請するように、冒険者も領地経営もだぞ」

 領地経営とは兄さんのような貴族の跡取りの事だろう。

 後で冒険者として働くと申請しないと、あとは回復薬を納品してる事もだ。テディーが隣で僕に目配せしている。あとで一緒に申請しに行こう。

 

「よし、他には無いな、あとは各自配った紙を見ろ。授業は明日からだ。今日はこれで終了する。各自気をつけて帰るように」

 なんともあっさりとした説明をして先生は帰って行った。

 他のクラスはまだ説明が続いているようだ。

 

「どうする?先に職場申請しに職員室に行く?」

 テディーが机に置いてあった申請用紙を手にして聞いてきた。

 グレイスも申請用紙を手にこちらにやって来た。

 三人で申請用紙に記入すると、僕達はもらった地図を見ながら職員室に向かった。

 

 

 

 ギャガン先生に申請用紙を提出すると、納品できるほどの回復薬を作れるのかと聞かれた。

 僕は素直に大魔女の弟子だと話す。グレイスが驚いていた。

「なるほど、規格外の生徒がいると思えばあの人の弟子か、大魔女様の回復薬には俺も冒険者時代にだいぶ世話になったな」

 先生は納得したようだったが。僕たちは先生が元冒険者だったことに驚いた。

「お前たちと同じだよ。ここじゃないが学校に通いながら冒険者をやってたんだ。討伐に行くなら気をつけろよ。油断すると怪我じゃすまないからな」

 先生の言葉には実感が篭っていた。僕たちは神妙に頷いて職員室を後にする。

 

「エリスは大魔女様の弟子だったんですね、道理で凄いと思った」

 グレイスが尊敬の眼差しで僕を見る。

 僕はただの弟子だから、僕にそんな目を向けられても困ってしまう。

 グレイスはおばあちゃんのファンらしかった。大人しそうなグレイスが破天荒なエピソードの多いおばあちゃんのファンとは意外だ。

 

 僕たちはメルヴィンと合流するため教室の方へ戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る