第14話 入学試験
その日僕は緊張していた。今日は待ちに待った学園の入学試験の日だ。
お母さんが作ってくれた着心地のいい服を着て、勇気を貰う。今日のために兄さんには沢山勉強を教えてもらったんだ。きっと大丈夫だと自分に言い聞かせる。僕は硬い顔のまま食堂へ行った。
食堂に行くと笑われてしまった。僕が緊張してるのがわかったんだろう。みんな大丈夫だと僕の頭を撫でてくれる。
少し緊張が和らいだ気がした。
『テイマー』である僕は、試験会場に必ず従魔を連れていかなければならないらしい。従魔の種類と様子も試験材料になるそうだ。それを聞いてシロとアオが気合を入れている。二匹とも強いとは言えないけれど、お利口だからきっと大丈夫だろう。
試験会場は人で溢れかえっていた。こんなに多くの人が受験するのに、ほんのひと握りしか受からないなんて……僕はますます緊張してきた。
一次試験である筆記テストの会場に向かう。その途中だった。
「ねえ、君待って!」
柔らかそうな緑の髪をした男の子に話しかけられた。
「そのフライングシューズ、ネリー・クーリエのフライングシューズだよね!君それ乗れるの!?」
男の子は興奮していた。僕はただ飛んで移動するだけなら出来ると答えた。
「本当に!?凄いな!僕、吹き飛んでいっちゃって全然乗れなかったんだ」
どうやら男の子は試したことがあるらしい。最初はみんな吹っ飛んでく物なのかな。
「それにその従魔も凄いよね、どっちもレア種だ!」
畳み掛けてくる男の子に僕は目を白黒させた。すると僕の困惑に気づいたのだろう。驚かせてごめんと謝ってくれた。
「僕はテディー・ヘリング。テディーって呼んで。ジョブは『鑑定士』なんだ。大魔女様のフライングシューズを装備してたからつい話しかけちゃった」
なるほど鑑定士だからシューズに気づけたのか。悪い子じゃなさそうで、僕はホッとした。
「僕はエリス・ラフィンだよ。エリスって呼んで。入学試験を受けに来たんだよね。一緒に行かない?」
僕がそう言うとテディーは嬉しそうだった。
「良かった、僕地方から来たからこっちに友達いなくて、人いっぱいで緊張してたんだ」
友達がいないのは僕も同じだ。お互一緒に行動するのに支障はない。僕はテディーと試験会場に向かった。
そこは大きな講堂だった。
「君、従魔は試験の間預からせてもらうよ」
講堂前にいたお兄さんに言われて二匹を預ける。
「いい子にしてるんだよ」
二匹は勿論!といい返事を返してくれた。
講堂の中に入ると席を探す。基本的に紙が置いてあるところならどこでもいいらしい。
僕らは端っこの方に座った。
「緊張するなぁ」
テディーが忙しなく指先を動かしながら言う。席に置かれた紙には今日の試験日程が書かれていた。
午前中が筆記、午後が実技と、後は細かい注意事項が書かれている。午後の実技では課題の魔法と得意魔法を披露するようだ。
僕らは開始時間ギリギリまで復習をした。ついに試験が始まる時、お互い顔を見合せて大きく息を吐く。
先生が教壇に立つと注意事項の説明が始まり、それが終わると問題用紙と解答用紙が各席に飛んできた。流石魔法学園。試験のはじめ方もカッコイイ。
合図とともにみんな一斉に問題を解き出す。基本問題は大丈夫だ。しかし最後の自由回答の問題でどうしようか迷う。
今の魔法を用いた移動手段のあり方をどう思うか、なんて森育ちの僕にはちょっと難しい。迷っても仕方が無いので、転移ポータルの商業利用に関して、前の僕が大学で書いていた論文のように書いてみた。
最後に長文を書いていたら見直しの時間がかなり削られてしまった。途端に大丈夫なのか不安になる。ギリギリまで見直しして、筆記試験は終わった。
解答用紙が回収されると僕はどっと疲れてしまった。隣でテディーも突っ伏してしまっている。
「はー、分からない問題があったよ、エリスはどう?」
机に突っ伏したままテディーが言う。
「僕は最後の自由回答が不安だよ。何を書けばいいのか分からなくて……」
「あー、まさかあんな問題があるなんて思わなかったもんな。僕もすごく不安」
入口でアオとシロを引き取ると、二人でテストのことを言い合いながら食堂に向かう。お昼を食べたら実技試験だ。
食堂のご飯は安くて美味しかった。アオとシロも従魔用のご飯を美味しそうに食べている。食堂を見回すとかなりの数の従魔がいた。
「テイマーってこんなに多かったんだね」
僕の言葉にテディーも周りを見回す。
「ホントだ、結構多いんだね。でも、見た感じアオとシロが一番レアだと思うよ」
「そんなに珍しい?」
テディーは頷いて説明してくれた。
「アオはヒールや浄化が使えるスライムでしょ。シロはウルフの突然変異種、しかも二匹とも強制テイムじゃなくて任意テイム。すごいことだと思うよ。レア種に好かれる才能があるのかも」
テディーがからかうように言う。
実はテイマーには強制テイムという方法を取る人達がいる。弱らせて無理やり契約を結ぶのだ。僕はおばあちゃんにそれだけは絶対するなと言われた。僕自身も従魔が可哀想だからやりたくない。でも最近はそれが主流な様だ。周りにいる従魔に強そうなのが多いのはそういう事なのだろう。
僕はアオとシロを見る。二匹とも望んで僕に付いてきてくれた。強制テイムされて辛い目にあっている従魔がいなければいいなと思う。
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