第13話 魔法の杖
今日の僕は朝から興奮していた。お父さんが入学試験のために新しい魔法の杖をプレゼントしてくれるのだ。
かなり古めかしいが、おばあちゃんにもらった杖もあるので遠慮したら、子供の道具を揃えるのは親の義務だと言われてしまった。
だから僕は甘えることにしたのだ。将来沢山稼いで恩返ししようと思う。
僕はアオを抱えてお父さんと一緒に街を歩く。足元では僕に合わせて体を擦りつけてくるシロがいる。
僕が上機嫌だからか二人のテンションも高かった。
『ま、ほ、う、のつえ~、あたら~しいつえ~』
アオがまた謎の歌を歌っている。お屋敷にある魔法の蓄音機で音楽を聞くようになったからか、最近歌が上達してきた気がする。元々才能があるのかもしれない。
お父さんが楽しそうにしている僕に笑いかけてくれる。
「今日行くお店の職人さんは目利きで有名だから、きっとピッタリの杖が見つかるぞ」
杖にも色々な種類がある。大きなものから小さなもの、指輪型なんてのもある。魔法には杖にハマっている魔法石が必要不可欠だ。魔法石以外の部分には、補助機能だったり強化機能だったりが搭載されているんだ。
だからとても大きな杖もある。そういうのはとんでもない威力があって。国が保有しているらしい。
僕らは店の扉をくぐると、感嘆の声を上げた。店中に並ぶ杖に圧倒される。
「いらっしゃい」
店の奥にいる武骨そうな男性が声をかけてくれた。
「この子の杖が欲しいのだが」
店員さんは僕を手招くと水晶のようなものを出した。
「ここにゆっくり魔力を流し続けろ」
寡黙な店員さんだなと思いながら、水晶に触れてゆっくりと魔力を流してゆく。すると水晶が光った。
驚いていると水晶の方から抵抗を感じた。僕は慌てて魔力が乱れ無いように制御する。
この水晶はなかなか難敵かもしれない。僕が四苦八苦しながら水晶と戦っていると、店員さんにもういいと言われた。
「坊主に合う杖はこれと、これ、後はこれか。特殊なものだとこれと、これ……これもいけるか」
あっという間に店のいたる所から杖を持ってきてくれる。十種類くらいある。
「多重展開は出来るか?」
僕はできますと答えた。お父さんは隣で目を見開いていた。
すると店員さんは指輪型の杖を持ってきてくれる。
多重展開とは右手と左手で同時に違う魔法陣を描くことだ。僕は小さい頃からおばあちゃんに教わっていた。前の自分の世界に例えるとピアノを弾く感じだろうか。
「試してみろ、坊主」
店員さんが選んでくれた杖を持って、店の奥に案内してくれる。そこは試し打ちができるようになっていた。
僕は一本一本杖を試してゆく。正直驚いた。前の杖とは段違いだ。確実に威力もスピードも上がっているし、なにより魔力操作が簡単になった。
杖一本でここまで変わるんだなと感動した。
僕はそこから一本の杖を選ぶ。威力重視ではなく繊細な操作ができる杖だ。いちばん僕に合っていると思った。その杖は銀の金属で出来ていて、持ち手の部分に綺麗な草木の模様が掘られている。細身で軽い杖だ。
そしてもう一つ、左手にはめる指輪型の杖だ。銀の金属に透明な魔法石が嵌ってシンプルな作りになっている。
僕はこのふたつに決めた。
杖の材質から結構高額になるんじゃないかと思ってお父さんを見ると、お父さんはいい杖が見つかってよかったなと笑った。
甘えても大丈夫らしい。
『すごいの!カッコイイの!』
アオが杖を見て飛び跳ねている。
『いいなぁ、僕も杖で魔法を使ってみたい』
シロは魔物だから杖がなくても魔法が使えるのに、余程かっこよく見えたらしい。残念そうにしていた。
ついでに杖を身につけるためのホルダーも買ってもらって家路に着く。
「やっぱりエリスはあの店員さんに気に入られたな」
お父さんが不思議なことを言った。
「あの人は気に入らない客には商品を売らないんだよ、追い返してしまうんだ。目利きは確かだから、それでも店を続けてられているんだよ」
僕は驚いてしまった。一体僕の何が気に入られたのだろう。魔力操作の練習を頑張っていたからかな。
でも店員さんの選んでくれた杖は本当に僕に合っていた。また杖を新調するならあそこに行こうと思う。
もうすぐ学園の入学試験だ。試験までこの杖で頑張って練習しよう。
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