エピローグ
「……よし、行くか」
「はい、そうですね」
朝、玄関先でスーツ姿の海と司は頷き合う。そこに小学生ほどの少女が近づいてくると、二人は少女の姿に笑みを浮かべた。
「
「うん、“ばっくん”見てた」
「一咲は本当にあのバクのぬいぐるみが好きですね。まあばっくんという名前をつけて一咲にあげたのは私達なんですが」
「不思議とそういう名前が浮かんだんだよな。まあ何の気なしに立ちよったおもちゃ売り場にばっくんがいたから仕事の時とは違った司の姿に気づけたんだけどさ」
「そうでしたね。その時の海さん、私の姿を見て驚いてはいましたが、私がばっくんの姿に不思議と目を惹かれているとそれを贈って下さったんですよね」
「当時は年下とはいえ上司だった司にぬいぐるみを贈るなんてだいぶ緊張したけどな。でも、ばっくんを見る司の姿はいつものクールでバリバリ仕事をこなす司とは違って可愛らしい女の子だったからあげたくなったんだよ」
海の言葉に司は頬を軽く赤に染める。
「それから海さんとは仕事外でも話すようになり、その内に海さんから告白をしてもらい、今のように結婚もして一咲も生まれてきてくれました。まあ私もまだまだ働きたいので共働きという形を取っていますが、やはり一咲には申し訳ないと思っています」
「大丈夫だよ、お母さん。たまに二人の仕事が遅くなって家に一人でいる時はあるけど、ばっくんだっているし、いつもは二人で学校とか図書館まで来てくれるからね」
「一咲は俺達の大切な娘だからな。愛してるからこそ大切だと思うし、大切にしたい。それは司だって同じだからな」
「はい、私もいつも同じ気持ちです。さて、団欒も一度ここまでにして、そろそろ行きましょうか」
「ああ」
「はーい」
三人は仲良く家を出ると、そのまま歩き始めた。その様子を一機のドローンが見ており、その映像を画面の中のばっくんはにこにこ笑いながら見ていた。
『あの二人、あれからも幸せそうでよかったばく。まあ超絶イケメンバクのばっくんが引き合わせたし、夢の実の味的にも相性は抜群だったからそれは当然ばく。あの二人は本物のばっくんの事やドリームマッチ内での出来事は代替の記憶で置き換えられているけど、やっぱり少しは残っちゃうばくね……まあそれはご主人様に報告して、今後の運営に生かしていくばく』
ばっくんはドローンからの映像を切ると、両手を軽く広げた。すると、ばっくんの目の前には様々な人々の顔写真が現れ、ばっくんはそれを見ながら頷いた。
『世の中にはまだまだいっぱい自分に合った相手と出会えていない人がいるばく。そんな人達を引き合わせて、絆を結ばせるのがばっくんのお仕事ばく。これからも頑張っていくばくよ。ふんふんふふーん♪』
薄暗く様々な書類や機材などが置かれ、まるで物置のようになっている一室にそんな機嫌が良さそうな鼻歌が響く。しかし、鼻歌の主は変わらず室内にはいなかった。人どころか生き物の姿はない室内に備え付けられたコンピューターの画面の中で鼻歌の主は上機嫌で仕事に励み続けた。
ドリームマッチ 九戸政景 @2012712
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