第14話

 最終日、夢の中の家の中では海と司がソファーに並んで座っていた。お互いを見つめる目は甘く、それぞれ片手を絡ませながら座っていたが、その前にばっくんが音もなく現れた。



『やあやあ、お二人さん。遂に最終日ばくね~』

「ばっくん。そうだな、突然ではあったけど良い一週間だったと思うよ」

「私も同感です。好きな人と二人きりで過ごせる時間を確保してもらえただけでも幸せなのにお互いに想い合う関係にもなれ、その上身体を重ねる事も出来ましたから」

「こんなに幸せで良いのかって思うよな。ところでばっくん、俺達の能力ってどうやって決めたんだ?」



 ばっくんはクスクス笑ってから口を開いた。



『名は体を表す、という言葉を知ってるばく?』

「その物の姿、ありのままの姿が名前に現れているという意味の慣用句ですよね?」

『大正解ばくー。基本的にはその人が選んだ能力をあげてるんだけど、なんでも良いと言った人の場合はその人の名前や性格に沿った能力をあげてるんだばく。だから、二人はあの能力になったわけばくね』

「私は暴走をして危うく全てを台無しにしかけましたけどね……」

「まあ今となっては良いだろ。それで、ここに来たって事は最後の選択の時間になったわけか」

『そうばく。まあ聞かなくてもわかるけど、お二人の今後はどうするばく?』



 海と司は顔を見合わせる。しかし、そこには迷いなどはなく、その代わりに希望などで満ちていた。



「もちろん、現実でもこうしていたい。司とは恋人同士として生きていくよ」

「この機会を逃してはいけないと思いますし、海さん以外の方との今後なんて考えられませんから」

『わかったばく。それじゃあそろそろ二人も現実に戻る時間ばく』

「ああ。そういえば、このアプリってどうなるんだ? 俺達にはもう必要ないけど、残り続けるのか?」

『ううん、ちゃーんと消えるばくよ。そして、ここでの記憶も』

「え?」

「それって、どう……いう……」



 海と司は揃って意識を失った。突然の事であったにも関わらず、絡まった二人の手はほどける事はなく、その姿を見たばっくんは満足げに頷いた。



『お二人さんは熱々ばくね。そこまでの愛があれば今後も問題はないばく。もうここも二人には必要ないし、ここでの記憶だっていらない。だから、ばっくん達はあなた達の前から消えるんだばく』



 すやすや眠る二人に毛布をかけると、ばっくんは外に出る。家の横には見事なまでの木が立っており、ばっくんが木に近づくと、上から一つの果実が落ちてきた。



『出た出た、夢の実。これが成ったって事は、二人の愛はたしかな物って事ばく。ではではー、いっただきまーす』



 ばっくんは長い鼻を使って夢の実を掴むと、そのまま口へと運んだ。咀嚼の度に辺りには芳しい香りが広がり、小気味の良い音が鳴り続けた。そして咀嚼し終えたばっくんはゴクンと喉を鳴らしながら飲み込むと、合掌するように前足を合わせた。



『ごちそうさまでした。今回の夢の実も本当に甘くて美味しかったばくね。さて、そろそろ二人も消える頃ばくね』



 ばっくんが家の中に戻ると、海と司の姿は光の粉のようになりながら消え始めており、やがて二人の姿は音もなく消え去った。



『ばいばーいばく。もうばっくん達が会う事はないけど、二人とも仲良く暮らしてほしいばくよ。そうじゃなきゃここまで色々やった意味がないばく。さて、そろそろばっくんも帰るばく』



 海と司のように家や木が光の粉のようになりながら消えていく中、ばっくんは鼻から小さな虹色のシャボン玉を幾つも吹き出した。そしてそのシャボンはばっくんを覆っていき、やがて小さな音を立てながら次々に消えていくと、そこにはばっくんの姿はなく、海と司の世界は程なく全て消え去った。

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