第11話

 翌日、海と司はリビングで向き合って座っていた。しかし、そこに和やかな雰囲気はなく、二人の表情もどこか険しい物だった。



「なあ、今日の態度は絶対よくなかったと思うぞ」

「そんな事はありませんよ。後から海さんの良さに気づいた人達が近づき始めたのでそれに対して少し怒っただけです」

「別に司との関係についてバレるのは良いけど、あまりにも態度が変わりすぎると司の今後にだって関わるだろ? 俺はそれだって心配なんだよ。司が他の人と関係が悪くなるのは嫌なんだ」

「……そんなのどうだって良いです」

「え?」



 不思議そうな海に対して司は目を赤くしながら体を前に倒して両手を海の頬に添えた。



「“私には貴方さえいれば良いんです。そして貴方には私さえいれば良い。それで良いじゃないですか”」

「つ、司……」

「“私の恋心は貴方だけの物で、貴方の恋心は私だけの物。そうですよね? あ・な・た?”」

「つ、かさ……」



 囁くような司の声を聞きながら海の目は次第にとろんとしていき、その目に光が無くなると同時に司は嬉しそうに笑った。



「これで夢の中だけでも貴方は私の物ですし、現実でも私の事ばかりを考えてくれるようになる。これが私が得た能力、司配者しはいしゃですから」



 嬉しそうな司に対して海は司の頭に手を伸ばすと、頭をゆっくりと撫でた。



「つかさはいつもがんばってるし、おれのことをずっとあいしてくれてる。それはほんとうにうれしいし、そんなつかさのことがおれもすきだ」

「ふふ、ありがとうございます。この司配者は本当にスゴい能力ですね。能力について聞かれた際に特にほしい物はなかったのでばっくんさんにお任せしていたのですが、こんなに強力で好きな人を独り占め出来るような能力を頂けるとは思っていませんでした。ばっくんさんには本当に感謝しないといけませんね」

「つかさ、きょうもミッションをすすめよう。おれたちのすばらしいみらいのために」

「そうですね、あなた。あなたと私の輝かしい未来のためにミッションを進め、最終日にはばっくんさんにしっかりと伝えましょう。私達は今後も恋人であり続けると」



 幸せそうに司が言う中、家の外ではばっくんがため息をついていた。



『あーあ、案の定能力に飲まれちゃってるばくねー。あの能力は本来は色々な物を司ってそれを自分の好きなように出来る能力だから相手の気持ちや恋心を司ればあんな風に出来る事は出来るばく。けど、そうやって無理やり縛り付ける形にした気持ちや恋心なんて絶対に成就しないばく。説明はしてなかったけど、司られてる間の記憶は残ってるし、無理やり気持ちを引っ張ったりなんかしたら後々が怖いばくからね』



 ばっくんは木の根本をチラリと見てからシルクハットを脱いだ。



『さて、ばっくんはそろそろ帰るばく。夢から覚めるまでその楽しい時間を過ごすと良いばくよー』



 そう言ってばっくんが消える中、木の根は少しずつ黒くなっていき、そこからは腐臭を放つ黒い液体が流れ始めていた。

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