第8話
「こ、これって……」
「……恐らく想像しているような事だとは思いますが……というか、どうしてこれをわざわざ読み上げたんですか? 他にもミッションはあったというのに……」
「わ、わざとじゃないって! 最初に目についたのがこれだっただけで……!」
「……海さん、カラーバス効果ってご存じですか?」
「カラーバス効果……?」
海が不思議そうにしていると、司は軽く頬を赤く染めながら答える。
「自分が意識している情報が自然と目に飛び込んでくるという現象の事です。海さんも街中を歩いている時は趣味に関連した事や興味を持っている事に自然と目が行きますよね? 簡単に言えばそういう事です」
「なるほど……司、よく知ってるな」
「私はこういった心理学みたいなものが好きで、大学でも専攻していたんです。まあその話はさておき、それを考えると海さんはそういう事を意識していたからそのミッションが初めに目に入ったという事になります。つまり……」
頬を染めた司が少し警戒したような視線を向けると、海は慌てた様子で首を横に振った。
「だ、だから……!」
「……まあ、良いです。あくまでも私達が想像しているような物がそれであって、お互いに言葉を交わし合って愛を確かめるという意味の可能性もありますから。想像しているような物であれば私達の関係ではまだ早いだけですし、その時が来たら別に私も拒みはしません」
「……え?」
「私にとって愛というのはそういうものだと思っていますから。もちろん、大切な人に対して愛情をこめて何かをするというのが愛ですが、その何かの中に男女の関係になる行為が含まれるのならば私にとってそれは愛ある行動です。当然相手は選びますが、それが海さんになるのは嫌だとは言いません。まだ私達の関係では早いだけです」
「司……」
「海さんはどうですか? 貴方にとって愛ある行動とはどのようなものですか?」
司の真剣だがどこか緊張したような目に見つめられながら海は息をついてからその問いかけに答えた。
「……俺だってそうだ。まあこれを始める前に入力したデータ的には司みたいな人が好みなわけだし、そういう関係になれたら良いなと思う。でも、そういうのは双方の合意があっての事だし、自分の欲求に流されてそういう事をするのは違うと思う。そういう事をするなら、まずはお互いの事をよく知って、その上でお互いに相手とそういう事をしても後悔しないと思えるようにならないといけない。そう俺は考えてるよ」
「……それを聞く事が出来て安心しました。その点に関して意見は一致しているようなので、このミッションについてはおいおい考えるという事で──」
その時、二人の携帯電話から陽気な音楽が流れだし、二人の視線は携帯電話に注がれた。
「な、なんだ……」
「ミッション達成……いつの間にか何かのミッションを達成したようですね」
「でも、何のミッションを……って、これは……!?」
画面には達成したミッションが記されていたが、それを見た海はどこか残念そうな顔でため息をついた。
「愛を確かめ合うってそういう事かぁ……」
「……本当に言葉を交わし合って愛を確かめ合うというものでしたね。この場合は愛の定義について確かめ合った形でしたが」
「だな。けどまあ、いきなりミッションを一つクリア出来たわけだし、幸先は良いのかもな」
「……そうですね。とりあえずその木という物を見に行ってみましょう。どのような物か気になりますから」
「そうだな。よし……それじゃあ行くか」
海が立ち上がり、玄関に向けて歩き始める中、司はポツリと呟いた。
「……少し、いやかなり残念ですけどね」
そして静かに立ち上がると、海の後に続いて司も玄関に向けて歩き始めた。
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