第7話

「さて……それではお話を始めましょうか」



 家の中に入ってから数分後、ダイニングキッチンが併設されたリビングの椅子に座って司が口を開くと、海はビクリと体を震わせ、その姿を見た司は小さくため息をついた。



「伊吹さん……貴方の方が年上なんですからもっと堂々としていて良いんですよ? ここは会社ではなく、私達しかいないという夢の中なのですから」

「そうなんですが……やはり上野主任を目の前にすると少し緊張してしまうというか……」

「そうですか……」



 司はため息混じりに言い、その姿を見た海が表情を暗くしながら俯いていると、司は決心がついた様子で海に話しかけた。



「……仕方ありませんね。“海さん”、貴方がこの夢の中では指揮を執ってください。もちろん、敬語はなしです」

「え……というか、俺の下の名前を……」

「伊吹さんと呼ぶと恐らく会社での関係を想起してしまうでしょうからね。それと、私の事も司と呼び捨てにしてもらって構いません。それくらいしないと恐らく貴方はただ怖じ気づいてしまってこの七日間も実りある物にはならないと思いますから」

「す、すみま……じゃなかったら、ごめん……」

「それで良いんです。あと、基本的には自室を使うようにしますが、ここから目覚めてしまう一時間前には先程二人で見回った共有の部屋で話をしましょう。一時間もあれば色々話は出来ますし、その中で二人でしてみたい事やミッションの件についても相談は出来ますから」

「わ、わかった……でも、そこまで色々指示出し出来るならやっぱり司がリーダーになった方が……」



 海が自信無さげに言うと、司は小さくため息をついた。



「良いんですよ、貴方がリーダーで。中途採用ではありますが、あくまでも貴方が私よりも年上ですし、多少失敗はあったとしても日々の仕事はちゃんとこなせています。それならば、後は仕事のやり方などを見直すだけで私なんかよりも上の役職に就くのも容易いと思いますし、実際そうであってほしいです」

「司……」

「少し偉そうな言い方にはなってしまいますが、私はこれでも貴方の事をしっかりと評価しているつもりです。辛そうにしながらも頑張り続ける根性も間違ってしまったところを後で反省して見直している努力家な一面も。そんな貴方だからこそもっと上の役職に就き、他の人からも認められてほしいんです」

「そ、そんな事を思ってくれてたんだな……」



 海が驚きながら言うと、司は少し哀しそうに笑った。



「貴方からすればいつも厳しい上司という印象しかないとは思いますが。実際、部長や課長からはもう少し優しくしても良いんじゃないかと言われる事もありますし。ですが、それもまた貴方により成長してもらいたいからです。これからは私も少しやり方の見直しをしますが、それでも色々言わせてもらうので会社でもこの夢の中でもよろしくお願いします、海さん」

「……こちらこそ、司。司が色々な事を考えているのを知る事が出来て良かった。だから、改めてこれからもよろしくお願いします、上野主任」

「……ええ、こちらこそ改めてよろしくお願いします、伊吹さん」



 二人が笑い合い、リビングに和やかな雰囲気が漂い始めたその時、二人の携帯電話がブルブルと震え始めた。



「あれ、なんだろう……」

「もしかしたら例のミッションというものかもしれませんね。通知によるとドリームマッチのアプリ内に来ているようですし、まずは見てみましょう」

「あ、ああ」



 二人は携帯電話を手に取ると、ドリームマッチのアプリを開いた。そして起動したアプリのメニュー画面に運営からの通知という名前で送られてきた内容に目を通した瞬間、二人は驚いた様子を見せた。



「え……」

「これがミッション……」



 そこには多くのミッションが表示されており、海はその内の一つを口にした。



「ふ、二人の愛を確かめ合う……」

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