第6話

『……はい、という事で説明は以上ばくよ』



 ばっくんの説明が終わると、海と司は納得顔で頷いた。



「つまり、ばっくんがいなくなった後に生み出される家を拠点にして一日八時間半の生活を七日間送って、その間に色々なミッションを達成してもらいたい、と」

「ミッションの多くは小さな物ばかりですが、それらをこなしていく毎に家の横に植えられた木が育っていき、それが最後まで育てばその人達は相性抜群という証拠になる。それで良いですか?」

『その通りばく。そこまで行ったらもう相思相愛って事で交際開始しても良いと思うけど、それでも自分達の関係を元に戻したいって言うならそれはそれで良いばく。その時はばっくんが貴方達の関係も記憶も元通りにするから安心してほしいばくよ』

「そこまで行ってても元に戻したいってだいぶだと思うけど……まあ良いか。因みに、時間の経過ってどうなってるんだ? どちらかが来た時点でその人は八時間半が始まるのか?」

『二人とも揃ってから始まるばく。ただ、先にどちらかが来た場合は二人揃うまで時間は経過しないけど、物を動かしたり何かをしたりは出来るからそれを一人の時間として利用するのはありばく。ここは現実とは隔絶された場所だし、ばっくんを除けば貴方達二人しかいない空間だから第二の自分の家だと思って好きにしてくれて良いばくよ』

「第二の自分の家、か……それで家の中ってどうなってるんだ?」



 海の問いかけにばっくんはニコニコしながら答える。



「必要な物はだいたい完備しているし、貴方達の自室はしっかりと再現もしていて、後は二人で過ごしたいと思った時用の部屋だってあるばくよ。それを使うかどうかはお二人に任せるけど、せっかく用意したからには一回でも良いから使ってみてほしいばく」

「それに関しては追い追い考えます。因みに、何か途中で質問があったりお願いがあったりした場合は、ばっくんさんを呼べば良いんですか?」

「その通りばくー。だから、必要な物があったり何かこういうのがないかと聞きたりしたくなったらその時は遠慮なく呼んでほしいばく。これでだいたいは説明したと思うけど、他に何か聞きたい事はあるばくか?」



 ばっくんの言葉に対して海達が首を横に振ると、ばっくんは満足げに頷いてからシルクハットを静かに脱いだ。



「それじゃあばっくんは帰るばく。これからかわいこちゃんやレディー達とのデートがあるんだばくー」

「あ、ああ……」

「ばっくんさん、お疲れ様でした」

「うむうむ。ではではばくー」



 優雅に一礼をするとばっくんはシルクハットを被った後に口から虹色のシャボンを生み出した。そしてシャボンはばっくんの体を静かに包み込むと、ばっくんはシャボンをどこからか取り出した針で割り、その瞬間にシャボンと共にばっくんは姿を消した。



「な、なんか不思議な帰り方をしたな……」

「そうですね。さて、家は……なるほど、これが件の家ですか」



 司の言葉を聞いて海が振り返ると、そこには豪邸とまではいかないものの庭付きのとても大きな一軒家があり、その見た目に海は圧倒された様子で口をポカーンと開けた。



「デカイな……こんなに良い家なんて俺の人生の中でも買えるかどうかまったくわからないな」

「たしかに大きいですね。さて、こうなった以上はまずは家の中に入り、改めて自己紹介をしましょう。時間は有限ですし、無駄にはしたくないですから」

「は、はい……」



 司の声に海が少し怯えた様子を見せると、司はどこか哀しげな表情を浮かべた。



「……私が見たいのはそんな顔じゃないのに」

「上野主任、何か仰いましたか?」

「……何でもありません。行きましょう、伊吹さん」

「はい……」



 海が答えた後、二人は家のドアをゆっくり開き、そのまま中へと入っていった。

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