第1話

「はあ……今日もうまくいかなかったなぁ」



夕暮れ時、スーツ姿の男性がため息をついていた。身に付けているスーツやネクタイにはシワ一つなく、履いている靴もしっかりと磨かれている事で夕日を反射して光っていたが、それとは対照的に男性の表情は曇っていた。



「前のブラック企業からどうにか転職して今の会社に入る事が出来たけど、上司には怒られてばかりだし、もう嫌になってきたなぁ……」



男性の口からは大きなため息が溢れる。



「はあー……俺ってどうしてこうもうまくいかないことばかりなんだろ。職場自体に文句はもちろんないし、同僚や上司にも恵まれてるけど、小さいミスを重ねてしまう上に今日だって少し前に教わった事を忘れてて上司を怒らせてしまった。このままじゃ職場でもうまくやっていけないし、プライベートだって充実させられないよ」



街を歩く人々の中を男性は重そうな足取りで歩く。その様子はとても辛そうであり、それを証拠付けるように男性は再び大きなため息をついた。



「転職したからには今まで作れなかった恋人くらいは作りたいと思ってるのにそんな余裕もないし、そもそも出会いもない。はあ……何か良い方法はないのかな……」



男性が三度目のため息をついたその時、スーツのポケットの中が震え、男性は不思議そうにポケットを探った。そして携帯電話を取り出して画面を見た瞬間、その表情は不思議そうな物に変わった。



「なんだこれ……“ドリームマッチ”? なんだかヘンテコな動物がアイコンになってるけど、こんなアプリ持ってたかな……? そもそもこれってどんなアプリなんだ?」



男性は画面を見ながら幾度も首を傾げたが、その答えは出ず、男性は首を横に振った。



「……ダメだ、まったくわからない。たぶん害がある物じゃないと思うけど、なんだか気味が悪く感じるし、家に帰ったら早めに消しておこう。何かのトラブルに巻き込まれてからじゃ遅いし」



男性は独り言ちながら頷くと、携帯電話をスリープモードにしてそのままポケットにしまった。



「これでよし。さて、このままくよくよしてても仕方ないし、とりあえずさっさと帰ろう。今日だって疲れてるし、風呂に入ったり晩酌したりしながら疲れを癒そう」



それを想像した事で男性の表情は多少明るくなった。そして男性が先程よりは軽くなった足で歩き始める中、ポケットの中の携帯電話の画面が独りでにつき、画面の中ではばっくんが静かに笑っていた。

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