第3話 壁の穴の目

食事も水もなく衰弱して頭を強く何度も打ってもうろうとした意識の中、私は帰宅時間は考えなければならないと思い部屋に帰って鍵をかける。

それだけでは心配で更に別のところに身を隠す、もし見つかったらと考えたけれど虚ろな目も家に帰ろうの他の考えもない。

「そうか、ずっと一人でそこに居ればいいんじゃないかなー」ドンドンドンドカンドカンドカン扉が殴られる。


トモコがいない時間が伸び始めたので私は家に帰ろうと最低限の手荷物の支度を始める。

見え続ける幻覚と走馬灯に抗いながら確認しておいたサンダルを履いて新聞配達員が活動している早朝に小さな手荷物を持って帰路につく、誰にも会わない駅までの道を足早に駆け抜け駅に入る。

通勤のサラリーマンの波に飲まれもうトモコに見つからず安全であると確信が持ててほっと息をつく

見え続ける幻覚と走馬灯、それでも早朝の空気の気持ち良さに胸が躍る。


久しぶりに会う家族はどんな顔をするだろう?

過ぎ去った時間はそのままで帰宅しても私は気が狂ったままでいなければならないけれど、これから何でもできる、どこにでも行ける、ここ数日の水とわずかな食糧で凌いだそれより豪華な食事しかこの世にはない。

元々病弱な私は帰宅してもそんなに長い時間は生きられないだろう、それは残念だけれどやっとトモコのいない幸せな日々だ。

とうとう家のある駅について気持ちは逸り心は浮足立つ、でも衰弱した私は幻覚か走馬灯が見え続けているし歩くこともままならない。


ドアベルを押して久しぶりの声を聞く、ドアが開いてなぜいるのか尋ねられたがただいまとだけ言って家に入る。


台所に座って出してもらった久しぶりの飲み物と食事に泣きそうな気持を押し殺してゆっくりゆっくり私は素敵な朝食を食べた。

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明日の花 流星未来 @ryusei_mirai

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