第5話 病児保育

 婦人科に通い始めたPMS女は半年ほどすると徐々に落ち着きを取り戻した。

 まだケンケンはしているが、一時に比べれば天使のようである。そもそも彼女は仕事も早く、PMSなんて物に振り回されなければ良い人間なのだ。それなのに、毎月毎月思春期大爆発で、窓ガラスは割らないまでも、人々(殊後輩)の心を壊滅的に破壊するものたから、みんなが手を焼いていたのだ。

 完全に損をしている。

 しかし、脳内で起こる変化は客観的に捉えることが困難なため、本人が気づくまでに時間がかかる。だからそんな女性を見かけたら、婦人科行った方がいいとアドバイスしてあげるのが、本人にとっても周りにとっても最善の解決策なのだ。

 お陰様で、美和ちゃんたちを必死になって守ろうとしてくれた上司もげっそり痩せ細っている。彼女の監督不行き届きというわけでもない。むしろ積極的に介入してくれたからこそ上司を上司とも思わないPMS女の苛烈な報復を受けたのだ。

 全く持って誰も得をしないこの阿鼻叫喚の世界は何だろう。

 本当に、この年になっても女の何たるかがわからない美和ちゃんである。

 

 しかもまだまだ感染症にかかりまくりのあきちゃんである。夜中、何か熱いなと思ったら朝から高熱で保育園には預けられない。となると、美和ちゃんは六時半前に、スマホを持ってダイニングテーブルで待機することになる。小児科の受診予約を入れるためだ。

 あきゃんのかかりつけ医は病児保育もやっている駅前の小児科だ。利便性が良いせいか、六時半から開始されるWEB予約は争奪戦となる。

 あれー? あきちゃん何かぐずってる?

 寝室で声がして、ちらりとあきちゃんの様子を伺って時計を見たら六時三十一分になっていた。

 慌ててチケットを取ったが後の祭りだった。僅か一分で、番号は二十四番。十人で一時間の計算なので、あきちゃんが受診できるのは昼前だ。

 詰んだ。

 もう、休むしかない。

 しかし、明日は会議があって休めない。なんてことになると、病児保育を利用するわけだが、病児は病児で、バスタオルやら着替えやら、ご飯やおやつや、わんさか荷物を持って病院に行き、諸々終わらせて遅刻して出勤するか、場所によっては早退してお迎えに行かなくてはならないという、なかなかに過酷なシステムだ。

 それでも、病気の子供を預かってもらえるので共働き夫婦には大助かりなのだが、いかんせん予約が取れない。

 ある日、病児保育のキャセル待ちを確認するために、二つの病院に四十回ほど電話したが繋がらず、泣く泣く休んだ日があった。

 こんな日に義母や実母に頼れたら良かったが、実母は県外だし、高齢の義母にはその体力がなかった。

 高齢出産は本当にメリットがない。自分だけでなく、周りも年を取っているからだ。

 美和ちゃんはその日以降、病児に預けるのをやめて、どんなに後ろ髪を引かれても容赦なく休みを取ることに決めた。

 本当に、職場の理解は大切だ。

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美和ちゃんは休みたい 畔戸 ウサ @usakuroto

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