第44話 援軍
二人がやる気になったその時だった。
ダーン‼
その場にいた全員が反射的に音のした方へ向いたと同時に、何かが天井を突き破って真下にあった七海の車を踏みつぶす。
「いやあああああああああああああ。わ、私の車が‼」
砂と埃が舞い破壊した者の姿を隠す一方、車のボンネットが潰れてリア部分が浮き上がって空を見上げている。あんなの素人が見ても分かる――確実に廃車行きだろう。その事実を突きつけられた七海は頭を抱えて絶叫する。
工場に轟く七海の悲鳴は置いといて、全員の興味を引いているのは車を破壊した者が誰なのか、だ。
果たして一体誰が、こんなふざけた登場をするのだろう。
「うふふ。うはははは。最高だったな。まるでジェットコースターみたいで心が躍ったわ!」
砂煙のカーテンから現れたのは、二メートルの巨体で筋肉質の男が、潰れたボンネットの上でダブルバイセップスを見せつけていた。
「あ、あれは、剛刃力!」
「サウスリーダー! どうしてこちらへ」
自分が敬愛しているサウスリーダーの登場で目と口を大きく開いている水上をよそに、当の本人は高笑いを上げながらポーズをサイドチェストへ変える。
「はははは。もちろん、お前たちの加勢に来たのだ」
「加勢に来たって……一体誰が今青山の護衛を――」
「安心しろ。俺よりも強い人物が護衛をしている。それよりも走矢よ。この俺一人だけと思ったら大間違いだぞ」
「何だ――」
と、の言葉を口にしようとした刹那、今度はリア部分に何かが飛来する。
粉々に砕け散ったリアの部品と共に漆黒のスカートが舞い上がる。向けている頭には白いカチューシャが映え、艶のある長髪が空中に一瞬だけ黒い花を咲かせた後、女性はゆっくりと立ち上がった。
「お久しぶりです、ご主人様」
女性は端正な顔を走矢へ向ける。
「ああ。一ヶ月ぶりだな。どうだ? 私がいなくて寂しかったんじゃないか?」
「ご冗談を。他の皆様も所用でいませんでしたので、掃除や洗濯もはかどり静かで快適な時間を過ごすことができました」
「はぁ、相変わらず可愛くないな。そこは、寂しかったですご主人様とか――」
「ご主人様! 寝言は寝て言え……です」
「あぐっ‼ この野郎」
「ふふ」
「ふははは。二人の会話はとても面白い。いつまでも聞いていたが、そろそろ再会のあいさつはそれぐらいにしてもらえんかな?」
「……」
「……」
一ヶ月ぶりの再会と彼女の頼もしさから少し気持ちが高ぶってしまったようだ。
「……ですね」
さっきまでのおちゃらけな顔は鳴りを潜め、再び戦う戦士の顔となっていた。
「時雨、隣にいる七海と川本ももちゃんを護衛しろ。いいな」
「かしこまりました。ですが、ご主人様にご報告したいことが二つあります」
「何だ?」
「まず一つ目は……これです」
時雨は一度ももへ視線を向けた後、自分の長いスカートの裾を掴んで大きく広げると、何とその隣には――川本みなとがきょとんとした様子で正座をしていた。
「……へっ⁉」
「お、お父さん」
「も、もも!」
川本みなとは飛び込んでくる娘を胸で抱きしめる。
「お父さん。よかったよ」
「すまなかった、もも!」
「なっ! 川本みなと! なぜ、貴様が生きているんだ!」
感動の再会を味わっている彼らとは対照的で、千両寺冬也は殺したと思っていたはずの川本みなとが現れて狼狽えている。
そんな奴らを無視して時雨はさらに会話を進める。
「二つ目ですが、援軍は我々だけ――」
ドカーン!
時雨の言葉は突然の大きな爆発音にかき消されてしまう。
「くっそー、今度は何なんだ⁉」
走矢たちの背後側にあった壁が破壊され、そこから軽自動車を筆頭に装甲車四台が流れ込んでくる。
まさか、千両寺冬也め。
戦力は出し切ったと言っていたのは嘘で、まだ戦力を隠し持っていたと言うのか。
走矢は仁王立ちで腕を組む千両寺冬也を睨みつけると、彼もゆっくりこちらへ顔を向ける。だが、眉間に皺を寄せて首を傾けている仕草は、とてもじゃないが切り札を出した者の表情ではなかった。
千両寺冬也でなければ、一体誰が――。
軽自動車が止まり中から出てきた人物を見て、走矢は思わず目を見開く。
【こちらは対DIF特殊部隊だ。DIF千両寺冬也! 川本みなと殺害事件並びに人工島以外で許可のない能力の行使で、君に逮捕状が出ている。すみやかに能力を解除して出てきなさい。それができない場合は、武力を行使させてもらう】
「流山隊長‼ そうか。私としたことが、彼らの存在を忘れていた」
東京で起こるDIF関連の事件は、DIF特殊部隊が必ず派遣される。ましてや、今回の事件にはDIFの存在があることは早くから知られていたので、彼らが調査を行っていたとしても何ら不思議ではない。
というか、公園からここまで派手にやり合ったから、そりゃ驚いて駆けつけてくるわな。
拡声器を車の中に置いた流山がしっかりとした足取りで走矢へ近づく。
「大丈夫でしたか? 時田教官」
「流山隊長、それにみんな」
車から次々と降りてくる元部下たちは、みんな口元に笑みを浮かべていた。
「大体の事情は署長から伺っています。これより対DIF特殊部隊総勢三十名は時田教官の指示に従います。いいな、お前ら!」
「「うおおおおおおおおお!!」」
初めて会った頃と比べると良い顔になった。
自分たちの力が通用せずニューライトブルーシティーから逃げ、東京に現れるDIFにすら満足に戦えず悲観に暮れていた一ヶ月前とは違い、みんな自信に満ち溢れて輝いている。
一ヶ月間、DIFの指導をしたかいがあったものだ。
「援軍感謝する。君たちが来てくれてとてもうれしいよ。この一ヵ月の集大成をこの場で思う存分発揮してくれ……君たちと一緒に戦えることを誇りに思う!!」
「「うおおおおおおおおお!!」」
「「やってやるぜ!」」
彼らのやる気が最高潮に達したのを見た走矢は、力、時雨、そして水上へ視線を送る。彼らもみなやる気満々のようで、力は両拳を合わせ、時雨は目を細めて薄笑いを見せ、水上は静かに傾く。
「さて、そろそろ勝負をつけようじゃないか! 千両寺冬也!」
真夏の契約 岡豊泉寺 @uedatakashi
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