第43話 覚悟
「簡単な事だ。もう時間稼ぎは必要なくなったのでね」
その時、千両寺冬也たち側の奥から、エンジンを吹かせながら車が順繰りに入ってくる。
その数、十五台。
あれが雷の道で連れてこられなかった残りのメンバーなのだろう。
千両寺冬也は走矢たちを倒すのに合計約八十人で来ていると言っていた。その時点で約五十人を雷の道で連れてきたということは、つまりやってきた援軍の人数は約三十人というわけか。
「頭が痛くなってきた」
二人を守りながらあの数の敵と戦うのは面倒だな。
そうだ。守ることを止めて、攻勢に転じてみるのも悪くないな。
本気で戦えば、あんな有象無象の集団など問題もない。多少東京の一部に被害がでるかもしれないが、あいつらを野放しにしているよりかはましだろう。
よし、これならば今回の事件もすっきり解決でき――。
「走矢」
「時田」
二人の言葉で我に返る。
「あんた、悪い顔が出ていたわよ。もしかして、今とんでもないことを考えてなかったかしら」
「雨宮さんの言う通りだ。いいか、ここはニューライトブルーシティーではなく東京だ。大事な事だからもう一度言うぞ。ここは東京だからな。その意味が分かるな」
二人に釘をさされてしまった。
そこまであからさまに出していただろうか。
やはり彼女みたいなポーカーフェイスは苦手だな。
「あ、あの人は」
ももの視線を追った先を見て、走矢の目が鋭くなる。
車から出てきた黒のロングコートとフェルト帽を着た男性の姿を忘れるはずもなかった。
「お久しぶり、と言ってもまだ数時間しか経ってはいませんがね。また会えてうれしいですよ。お嬢さん、そして……時田走矢さん」
「……」
コートに隠した日本刀に赤いオーラを纏わせて戦うDIF。
バリアを扱えるのがランクCの証ならば、オーラを使えるのはランクBの証。
そこからさらに研鑽をして、自身をDIFへと変えてくれた住人をオーラで具現化できていたら、彼のランクはAとなるのだが――果たしてどうだろうか。
「時田、あんな奴とどこで知り合った?」
「私も聞きたいわ」
「ももちゃんにたかる鬱陶しいハエを倒した後にやってきた奴だ。オーラを纏っていたからただ者じゃなかったから、一戦だけ交えて吹っ飛ばしたんだが……何者なんだ?」
水上と七海に尋ねると、二人の表情が一気に曇る。
「カイル・ウエストショア。『血だまりのカイル』と呼ばれているDIFランクAの暗殺者よ」
やはりか。
「暗殺者と呼ばれてはいるが、奴の戦い方は暗殺とは名ばかりでな。相手の前に姿を現し、刀での真っ向勝負。奴が暗殺に成功すると真っ赤な血だまりの上に立っていることから、『血だまりのカイル』と呼ばれている」
「ほう。『血だまりのカイル』とは、大層な二つ名だな」
とはいえ、さすがはAランク。
しおかぜ程度の技ではさすがにダメージは負わないか。
これはいよいよ、二人を守りながら戦っている余裕はなくなったぞ。
走矢は水上へ顔を向けて
(なしでいけるか?)
と、口パクで伝える。
彼も一瞬だけ目を閉じた後、ゆっくりと首を縦に振る。
(無理)
さっきは否定的だった水上も、今は走矢と同じ意見だったようだ。さすがに三十人も増えて尚且つ、ランクAの暗殺者が加わったこの状況では、周りの被害を気にしている場合ではない。
「七海、今から本気を出す……言っている意味は分かるな」
走矢と水上の視線を受けた七海は、反論するでもなく逆に力強く頷く。
「もちろんよ、私たちに構わずやってしまいなさい。これくらいの修羅場、何度味わってきたと思っているのよ」
「頼りにしているよ、七海。それからトネール!」
(な、何よ)
「私たち二人は、全力であいつらと戦うから君たちを守る余裕はない。二人を守れるのはトネール、君だけだ。絶対に二人を守り抜けよ」
(わ、分かったわ。任せなさい)
トネールの言葉を聞いた走矢は、一歩前に出て千両寺冬也と対峙する。
「ついに動くか! お前ら、気合を入れろ! ニューライトブルーシティー十二災害の一角を打ち倒すぞ!」
千両寺冬也が部下たちに発破をかけ、全員が戦闘態勢に移る。
「水上、準備はできるな」
「ああ。もちろんだ」
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