第42話 狙われるもも
今にも火蓋が切られそうなぐらい緊迫した彼らとは違い、走矢は至って冷静に周りの状況を見ていた。
水上が千両寺冬也たちを釘付けにしてくれている間に、何か対策を立てたいのだが――さて、どう動こうかね。
使い捨てとはいえ、DIFが使用するバリア系統をほぼ無効化できる威力を放つ精霊石を装備した約五十名――水上が一人殺ったが、正確な人数が把握できない――に、千両寺冬也と彼以外のDIFがおそらく十名――DIF特有の気配が見えるので間違いない――が現状の戦力。
それに対してこちらは戦えるDIFが二人、人間一人と護衛対象のDIF。
圧倒的な力を持っているからとはいえ、守ることに不得意な水上は攻撃に専念させるとして、問題は戦えない二人を走矢一人で守りながら戦うことなんだが、ちょっと厳しいのが現実的なのかな。
制御装置を外した精霊石の想定外の威力には驚いたが、『エレメントフィールド』と『光鏡風景』を組み合わせたら、完全に精霊石の攻撃を防げるはずだ。
万が一、『光鏡風景』が突破されたとしても――問題ないな。
走矢は視線を車へ向けると、すでにもぬけの殻だ。
これは七海の指示だな。となると、やはりいた。
ももと七海は走矢の近くまで移動している。
走矢の防御力の強固さを知っている七海は、おそらく水上の『ソウルウォール』が破壊されたことを受けて、すぐに移動したのだろう。
さすがだ、七海。
走矢が心の中で称賛していると、七海と視線が合い「どうよ」と言いたげなウインクを見せる。
それに頷いて答えた走矢は、顔を元に戻した時であった。
今度は千両寺冬也と視線がぶつかってしまう。
まずい。
「逃がさん!」
砂嵐で開けた天井から、千両寺冬也の操る鳥たちがなだれ込んでくる。
狙いは――ももだ。
「させるか!」
手を広げた状態で上空へ向けた途端、十本の指が輝き始める。
「シャイニングバスター!」
指先からビームがマシンガンのように放たれ、飛来してくる鳥たちを次々と落としていくが、鳥は一向に減ることなく走矢たちを襲うため急滑降してくる。
相変わらず、この鳥の仕組みが分からない。一体どうやってこれほどの規模の鳥を生成しているんだ。
いくら空を見回してもその理由が分かるはずもなく、ビームと鳥の戦いは拮抗状態へ入り時間だけが過ぎていく。
『あの数をものともしないなんて』
「すごいでしょう。あなた達を護衛している人は、すごく頼りになるんだから」
小っ恥ずかしい会話が耳に届き、顔や耳が急速に熱くなっていくのを感じる。あんなことを言われたら、期待に応えなければならないだろう。
「ギアを上げるぞ!」
ビームのスピードが上がり、拮抗していた戦いはどんどん走矢へと傾き始め、やがて上空には晴天が顔を出していた。
「やりましたね」
『さすがだね』
「それでこそよ」
三者三様が走矢へ賛辞を贈る中、当の本人だけは千両寺冬也を睨みつける。
「どういうことだ、千両寺冬也。途中で攻撃を止めるとは」
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