第41話 対峙

『ゴロゴロ』

 耳に雷鳴の音が届き、嫌な予感を覚えた走矢の視線が上空へ移ろうとした瞬間、ジグザグの稲光の一筋が砂嵐目掛けて落ちて吹き飛ばしたのだ。

『バリバリ、ドーン!』

 破壊された砂嵐が辺りに散らばり視界を奪う中、空気を引き裂く稲妻が不協和音を奏でてくる姿は、走矢たちをあざ笑うかのようだ。

 やがて砂嵐も終わり目を守っていた腕を下ろすとそこには、スーツ姿の男性が周りに放電っさせながら立っていた。その背後には、黒塗りの車が少なくても三十台は止まっていた。

「千両寺冬也」

「おいおい、どうやって三十台の車をここまで持ってきた」

 確かに水上の指摘は当然のことだ。

 鳥が千両寺冬也の立っている方向から飛んできたので、おそらく入口はそちらにあるのだろうが、砂嵐が雷で吹き飛ばされて収まるまでの僅かな時間で、三十台の車をこの場に持ってくるなど不可能。

 千両寺冬也だけをマークしていたが、彼よりも厄介なDIFがいるとでもいうのか。

「簡単な事だ、時田走矢。貴様がやったことと同じことをしたのさ」

「私と同じこと? まさか……風のウインドロードか」

「風のウインドロード、素晴らしい名前だ。ならば、俺のは雷のライトニングロードだな。あれのお陰でこんなにも早く到着できた。まぁ、貴様の道とは違って出来は悪かったせいで、全ての車を走らせることはできず、雷の影響で車の電気系統は全ていかれてスクラップ同然となっちまった。だが、この人数で貴様を倒せると思えば安い経費だ」

 風のウインドロードを見ただけで模倣したというのか。

 走矢は千両寺冬也の能力に目を見張る。

 風のウインドロードに必要なものは、道を創る想像力と一定の幅と長さを一致させる繊細さ。そして道が消えないように維持するエネルギーと集中力。これら全てが一つでもかけると道は一瞬で壊れてしまう。

 決して見ただけで簡単に模倣できない。

 ましてや想像力と繊細さに欠ける魂・変化型のDIFが創れる代物ではない。

 これは思っていたよりも、骨が折れるかもしれないな。

「舐められたものだな。その程度で私たちを倒そうだなどと」

「舐める? 冗談を言ってはいけない。俺は誰よりもニューライトブルーシティーの住人の怖さを知っているつもりだぞ。十二災害の一角、時田走矢」

「何だと?」

「俺は十二災害と呼ばれる者たちの戦いを空から見た。人々が災害と呼ぶ意味が分かる。並みのDIFでは歯が立たない。ニューライトブルーシティーの住人ですら恐れるDIFを、俺たちみたいなニューライトブルーシティーから逃げた負け犬が太刀打ちするならどうするればいいのか。その行き着いた先が、数で圧倒するしかないと思ったのだ」

「それでもやはり、俺たちからすれば軽視されているとしか思えんが?」

「ほう。それなら受けてみるかい? サウスエリア警備会社副隊長、水上康二」

 千両寺冬也は近くにいた黒服の男性に顎で合図をすると、彼は左手の中指にはめた指輪の宝石を水上へ向ける。

 宝石から黄色の発光が大きく点滅した次の瞬間、宝石が割れたのと同時に閃光が水上の『ソウルウォール』へ衝突。

 激しいぶつかりが行われ弾かれるかと思われた刹那、水上の左頬を掠めていく。

 そして――まるでガラスが地面に落ちて砕けた時に似たような音と共に、水上の『ソウルウォール』は砕け散った。

「聞いてないぞ」

 走矢は自分の目を疑った。

 制御装置を外した精霊石の力にも驚いたが、何より水上の『ソウルウォール』を貫通し破壊する威力があるとは――。

 水上の『ソウルウォール』の強度はランクBに相応しく、ある程度の攻撃は――ランクC以下――完全に防ぐ。それこそ全力の『ソウルウォール』となると、走矢をもってしても破壊するには容易ではない。

 それを簡単に破壊したとなると、精霊石に込められた力はランクAに匹敵するのではないか。

 そうなれば、走矢の『エレメントフィールド』もどれくらい軽減できるか想像がつかない。

 まったく、人に危害が出るとは聞いていたが、DIFのバリア系が通用しなくなるとは聞いていない。

 どおりでTWGが動くはずだ。

 こんなものが世に出てしまったら、世界が混乱しあちらこちらで紛争が勃発してしまうぞ。

「……」

「あはは、見たか水上康二、そして時田走矢! これが力を解き放った精霊石の力だ。ここにいる奴らで約五十名。まだ到着していない者たちを合わせると、合計八十人の集団だ。これだけの数がいて、俺がお前たちを過小評価していると思うか?」

 掠めた左頬に触れ手についた真っ赤な血液を認識した水上は、不敵な笑みで返す。

「面白い。こちらも本気で相手をする必要が出てきたぞ」

 今の攻撃で水上は完全にやる気満々になったな、と走矢が気づいた次の瞬間、

「うわあああああ」

 先ほど水上に向けて攻撃を仕掛けた黒服の男性が叫び声だけ残して消えている。

「何が起こった!」

 状況を見ていなかった千両寺冬也が、恐怖で引きつってへたり込んでいる連中へ問いかける。

「か、影です。影に喰われました!」

「影に喰われる? ま、まさか」

 部下を殺った人物に思い立った千両寺冬也は、真っ直ぐ水上を睨みつける。

「攻撃をしてきたらされる。これは戦いにおいて当たり前のことだと思っていたが、どうやらお前の部下はそこがまだ理解できていなかったようだな」

 水上が影に手をかざすと、彼の影から金色のネックレスと指輪が吐き出される。

「ネックレスには緑色の宝石、指輪には赤の宝石か。風と炎の精霊石かな?」

 ネックレスを振り回し、指輪を指で真上に弾いて千両寺冬也へ見せびらかす。その金色のチェーンと銀色の輪には、赤い血がべっとりとついていた。

「やってくれたな……水上康二!」

「それはこちらのセリフだ、千両寺冬也。ここから生きて帰れると思うなよ」

 水上を中心に彼の影が一人でに広がり直径三メートルの円ができる。その影の中からは、エメラルドのようなグリーンアイズが、群がる千両寺冬也たちをじっくりと品定めをしている。

 片や部下を殺された千両寺冬也の怒りが、次々と他の部下たちに伝染していく。へたり込んでいたメンバーたちも、弔い合戦とばかりにやる気が満ちており、全員がそれぞれの構えをしていて、彼の一声で攻撃をする準備は完了しているように見える。

 まさに一触即発の状態。

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