第39話 危機一髪

「見えた! あれが旧長屋道製鉄所ね。みんな、このまま突っ込むわよ」

「突っ込むな! ただでさえ、スピードの出し過ぎで車体が浮きそうになるのを風の力で押さえつけているんだぞ。これ以上出されたら横転するぞ!」

「諦めろ時田。気持ちがハイになっている彼女に、俺たちの言葉が通じるとは思えんがね」

「ちくしょうおおおおおお!」

 走矢の怒号は風の彼方へと消え去っていく。

 その間も高ぶっている七海はアクセルを踏み続け、走矢が横目で計器を確認したところ驚異の時速百六十を超えても、まだまだ上がっていく。最早一個のミサイルと化した車が目的地へ向かって突き進んでいく。

「トネール! もう少しだから頑張って!」

『もちろんよ。任せて』

 絶え間なく押し寄せてくる鳥の大群を撃ち落とすメンバー、そして風の道と車体の安定を調整している走矢にも疲労は見えるものの、もうすぐこのドライブも終わると分かり必死で力を出していく――その時だった。

「あん? おいおい、あれは何だ⁉」

 走矢の視界にチラつく眩しい光を感じ取り視線を右へ動かすと、まるで獲物を見つけたヘビの如く、ビルとビルの間を高速で蛇行しながらこちらへ接近する巨大な光の螺旋があった。

 あの速度から考えて、二十秒もすれば車に直撃するだろう。

「はぁ!! 何よあれ! ちょっと、どうにかしてよ、走矢!」

「ふざけるな! 風のウインドロードと車体を制御するので精一杯の私に、どうしろっていうんだ!」

 と文句は言うものの、七海が焦る気持ちは痛いほど分かる。

 あれはやばい。

 展開している水上の『ソウルウォール』では防ぎきれず壊れ、走矢の『エレメントフィールド』でも車に支障がでない威力まで軽減することはできない。

 それが理解できているのだろう、水上があれを目視した瞬間、攻撃に回している四つの内の二つを接近する巨大な光の螺旋へビームを放った。

「させるか!」

 二本のビームが直進するが、飛来する巨大な光の螺旋に触れた瞬間、反射して大空の彼方へ消えていった。

「弾かれた! 時田!」

「言われなくても分かっている!」

「何が分かっているのよ! 説明してよ!」

「今の状態じゃあれを止める術はないってこと」

「止める術がないって、どうするのよ」

「それを今考えているから、少し集中させてくれ……よし、これしかない。七海、私の合図でブレーキを踏んでくれ」

「わ、分かったわ。走矢を信じるわよ」

 七海の期待に応えるため、走矢は風の道を創りながら来たるタイミングを見計らう。その間も光の螺旋は確実にこちらに狙いを定めて迫る。

「まだなの!」

「ぶつかるぞ! 時田!」

「時田さん」

『人間!』

 全員の期待を受けながらも走矢はその時が来るのを待つ。そして三秒後には車全体が光の螺旋に飲み込まれるそのタイミングで叫ぶ。

「ブレーキ!」

 七海がブレーキペダルを踏む。

 激しい摩擦音が耳に轟き、タイヤの焦げた臭いが立ち上る中、光の螺旋は角度を調節して減速する車を飲み込もうとする。

「ゲートオープン!」

 走矢の声と共に、車の前方に真っ暗な穴が空間を引き裂いて現れ、車は飲み込まれる寸前にその穴をくぐり抜けた。

 その直後、車は激しい砂埃を上げながらスピードを落としていき、五秒後に無事静止した。

「はぁ、た、助かった。全員無事⁉」

「走矢は無事だ」

「康二も問題ない」

「えーと、ももとトネールも無事です」

『疲れたわ』

「よかった……はぁ~」

 無事が確認できたことで七海から安堵のため息が零れると、彼女につられて走矢たちも同様に口から零れた。

「久しぶりに死を感じたぞ」

「だな。だけど、のんびりしている時間はない」

「やっぱり居場所はバレちまっているか?」

「逃げる場所と言ったらここしかないからな」

 隣で額をハンカチで拭う水上は、

「もう少し休みたかった」

 と不満を口につつも左側のドアから、走矢は右側のドアからそれぞれ外へ出た。

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