第38話 動く冬也

 窓から右腕を出した時田走矢が前方へ手を広げると、緑色の道が空へと続いていくではないか。彼らは迷うことなくその道を使い、渋滞に巻き込まれることなく進んでいく。それは時田走矢の能力で創られた彼ら専用の高速道路だった。

 誰もいない。スピード出し放題。そして旧長屋道製鉄まで直通の三拍子揃った高速道路。

 これでは、時田走矢たちに先を越されてしまう。

「させるか!」

 冬也が両手を空へ掲げると、大気に静電気が発生。その静電気が形作り鳥となり、一羽、また一羽と増えていき、やがて百匹にもなる黄色い鳥の大集団ができる。

「行け! あの目障りな車を破壊してこい!」

 冬也が命じると、鳥たちは次々と大空へ羽ばたき、高速道路を疾走する車の上空に陣取った鳥たちは、ミサイルのように車へ急降下していく。

 しかし、そこは歴戦の猛者たち。

 多彩な攻撃で襲い掛かる鳥を倒していく。

その中で突出しているのは、車の四方の影から放たれるビームだろう。

公園の休憩所スペースで部下をいなした、影から伸びる巨大な触手の先端から出すビームで間違いない。

「ニューライトブルーシティー、影、巨大な触手、ビームっと」

 四つの情報をDIF図鑑で検索すると一発でヒットした。

「水上康二。ランクはB。魂・変化型のDIFで、貸し与えている魔物はシャドウオクパス。戦闘スタイルは巨大な触手で薙ぎ払い、先端のビームでの攻撃か。で、ニューライトブルーシティーサウスエリアの警備会社で副隊長をやっていると」

 記憶に違いがなければ、サウスエリアの警備会社の隊長が、走矢と同じ十二災害の一人だったはずだが、今回は来ていないようで少しホッとした。とはいえ、数名の部下を軽くあしらい、鳥の大群を撃ち落とす精度の高いビームを見れば、水上康二が脅威であることは一目瞭然だ。

 さすがは副隊長。

 時田走矢だけでなく彼も警戒しなく――。

「おいおい、だめだ。このままでは、あいつらの方が先についてしまう」

 走矢の創る風の道は旧長屋道製鉄までの最短ルートで行け、いくらスピードを出しても他の車がいないのだから迷惑がかからない。対して部下たちの車は、大量の車の間を縫って走らねばならず、必然とスピードが出せず走矢たちとの差がどんどん開いてしまう。

 冬也の妨害も車に辿り着く前に撃ち落とされてしまいあんまり機能していない。

 ならば、どうすれば彼らを妨害できるだろうか。

「俺がやるしかないな」

 両手で叩いた瞬間、冬也の場所が一瞬にして他のビルの屋上に移動する。

 この場所にいた黄色い鳥と場所を入れ替えたのだ。

そして彼の正面には、爆速で走る走矢たちの車が見える。

「ここで消えてもらおう」

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