第31話 ”王”の称号――動き出す黄金の王青山龍太郎
今まで守られているだけだった男がついに動き出す。
一歩踏み出すたびに、大きなプレッシャーがのしかかる。
軽く宣言するやる気満々の言葉だけで、リカードの心を折りにくる。
先ほどまで戦っていたサウスリーダーが、ちっぽけな砂粒に見える。
ここまでリカードの体を、心を乱してくる理由はただ一つ。
青山龍太郎が世界で数少ない“王”の称号を持っているからだ。
一人で世界を動かせる者は存在しない。
だが、様々な能力が跋扈するこの世界において、たった一人で世界の経済を底上げできるDIFとなると数は限られてくる。そのような希少な能力を持つDIFは、世界全体で守らなければならない最重要人物。
世界が求める物をたった一人で補う彼らを、得た能力+“王”と呼んでいる。
唯一の例外は、“竜王”と呼ばれているTWG第六席。彼はこの決まり事ができる前から“竜王”の二つ名で呼ばれているからである。
そして、青山龍太郎のDIFは精霊型、魂・変化型、魂・召喚型に次ぐ第四の型、アース型と呼ばれている。
全ての生命の母である地球が授けてくれたアース型は、この地球上で失われていく資源を力として使うのが特徴である。
青山龍太郎が得たアース型の能力は鉱物。
その中で古来より人々を魅了し最も価値のある金属――黄金。
King of Gold――“黄金の王”が、彼に与えられた“王”の名前。
世界で使われている金のシェア率は九十九%と、ほぼ全ての金が青山によって生み出された物である。彼の出現により、宝飾品から工業用品、医療用品、通貨、芸術品といったものにまで、惜しみなく金が使用されているのだ。
全ての金を青山龍太郎に頼り切っている今、彼の命が失われるということは、世界の財産を失ったと同義であるため、世界は常に彼の安全を守るため、ランクSのDIFのボディーガードをおいている。
さらに彼らに攻撃を仕掛ける行為を行った時点で、世界最強の集団TWG全員から標的とされてしまうので、優れたDIFでも絶対に”王“たちだけには手を出さないのだ。
その中でも青山龍太郎は例外で、DIFの初期から活動されていて、天蓋魔境だった人工島を生き抜き、荒くれ者を力で束ねたことからも彼の強さは広く知られ、ボディーガードのいらない”王“の称号者の一人でもある。
『出てきましたか、黄金の王よ。あなたとは戦いたくなかったのですが……』
「何を今さら。二人の勝負がつかん以上、私が戦わなきゃいけないだろう。だが、安心しろ。君が負けても、このことはTWGに報告はしないでやろう。それなら少しは楽になったんじゃないか」
自分が負けることを想定していない提案ではあるが、リカードにとっては魅力的だった。負けてもTWGに処罰されなくてすみ、DIF専用の牢獄へ送られるだけでいい。
つまり、命があるということだ。
いくら“呪い”をつけられた相手が牢獄に服役しているからといって、そこまで来てリカードの命を奪うようなことはしないだろう――と思う。
『それはありがたい。青山龍太郎の慈悲に感謝いたします』
「おう。ってなわけで、連絡はしないでくれよ、片倉君」
「えっ?」
「うん?」
秘書を見た瞬間青山の時間が止まる。
意味が分からずリカードも視線を秘書へ移す。彼女の手には、光り輝くスマホがあった。
確かあれは、“王”の称号を持った者に渡されるTWGへの連絡用スマホ。
それを耳に当てている意味は――もしかして。
「……やっちゃった?」
「……はい」
申し訳なさそうに、秘書がスマホのパネルから、スピーカーをタッチ。
『……了解した。これより、“王”を暗殺しようとしたリカード・レインを抹殺するためTWGを動かします。現在動かせるのは……第六席です。至急、ニューライトブルーシティーへ――』
「ちょっと待った!」
青山が焦った様子で大声を上げる。
『どうかされましたか?』
「竜王に来られるのはまずい。一発の攻撃範囲が大きすぎて、予想される被害がでかすぎます。他にいませんか。第四席や第九席とか」
青山が必死で来て欲しいメンバーを伝える。
しかし――
『残念ながら全員で払っております。なので、やはり第六席を派遣します』
「……はい」
そして青山の検討虚しく、電話は無情にも切れた。
「よし、さっさと終わらせるぞ」
「へっ?」
「何を呆けている。竜王がここに来るまで時間がある」
「具体的には二分程」
「シャラップ、レディ。つまり二分以内に君を倒せばいいことよ」
残された時間はあと二分。
危機的な状況とはいえ、たった二分でリカードを倒すというのはおごりが過ぎるのではないだろうか。
『あなたにそれができますか、黄金の王よ。護衛のサウスリーダーでさえ、できなかったことなのですよ』
「証明してやるから、かかってきなさい!」
『できるものならやってもらおうか、黄金の王!』
ストライクガイアベアーが右ストレートを青山へ繰り出したその瞬間、
『なっ……⁉』
青山を守るように天井、廊下、座席から膨大な液体の黄金がストライクガイアベアーの右腕を包み込むと、根元から綺麗に飲み込まれていった。
『これはいった――』
「驚いている暇はないぞ」
その言葉通り、右腕を喰った黄金は蛇のように素早い動きでストライクガイアベアーの体全体に巻き付き、まるで浸食していくみたいに黄金が全身を覆いやがて身動きが取れなくなってしまった。
『そ、そんなバカな。吸われている』
さらに酸が少しずつ黄金によってどんどん吸収されていく。抗おうにも動けず、がっちり絡みついた状態で酸が減っていく状況では、何の手立ても思いつかない。
頼みのゾイレも力なく首を振っていることから、これ以上の抵抗はできないということだろう。
『ここまでか。これが黄金の王の力か』
「そうだ。天然の金ではできないことが、私の黄金ならば可能だ。車内の壁、廊下、座席などに擬態するなど容易い。伸縮自在に動き、他の液体を吸収しそれを黄金へと変えるなど造作もない。だから言っただろう。私と君は相性がいいとね」
鉱物である金をここまで自由に使いこなす能力。
さすがはニューライトブルーシティーの頂点であり四人のSランクを従える男。
一介のAランクの暗殺者が勝てる道理などなかったのか。
『残念ですが私は私はここまでですね。潔く撤退させてもらいましょう』
後は、もう一人の暗殺者サイレントに任せることにしよう。音の精霊と契約している彼女ならば、自身の周囲の音を消すことができる優秀な暗殺者だ。
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