第29話 剛刃力の能力
目の前で嵐のような連続パンチを繰り出すサウスリーダーの猛攻に、リカードの酸人形は全く歯が立たたない。それ自体はそこまで問題にすることではない。酸人形の真骨頂は触れれば、周囲にまき散らす酸で相手を溶かすことにあるからだ。
しかし、サウスリーダーの両腕は綺麗なもので、とても酸に触れて溶けている腕とは思えないぐらい綺麗だ。
「一体、どうなっているんでしょう。確か、渡された資料に彼の能力が……」
ランクS、剛刃力はガイヴァイスと呼ばれる、身体強化と再生力に特化しているゴーレムと貸与している魂・変化型。さらに、身体を動かすスピードを上げるために、風の精霊とも契約している、と書かれている。
なるほど。
嵐のようなスピードは風の精霊の力。
しかしサウスリーダーの腕は、見た感じ鍛え抜かれた彼の腕で変化した様子がない。ということは、彼は本来の力を出さずに戦っていることになる。
完全になめられている――がそれも仕方がない。
実際にリカードの攻撃は全て防がれているのだから。
『まったく嫌になりますね。能力を使わず腕力だけで私の攻撃を防ぐとは』
「なら、能力を使わせるよう頑張ってみたらどうだ」
『むっ』
と煽られてしまうものの、言い返せないのが現実。
なぜならば、リカードの酸を防いでいる最大の要因が、剛刃力が展開している『エレメントフィールド』と『ソウルウォール』だからだ。
使用者を中心として球体に展開し、触れた全ての攻撃を弾き無効化する魂・変化型のバリアと、同じように展開しながら触れた全ての攻撃の威力を軽減する精霊型のバリアなのだが、剛刃力は全身に、この『ソウルウォール』を変形させ薄い膜のように張り付けていた。
その結果、酸人形が殴られた時に飛び散る酸は『エレメントフィールド』で威力を弱められ、肉体へ届く前に『ソウルウォール』の壁に阻まれてダメージを与えることができない。というより、彼のバリア効果が高すぎて、殆どの酸が『エレメントフィールド』だけでおさえられ、『ソウルウォール』まで届かない。
たまに『エレメントフィールド』を抜いても『ソウルウォール』に無効化される。
リカードの戦術が完全に殺されているのだ。
『困りましたね。私の得意な室内で相手を殺せないのは初めてですよ』
「というより、戦術の幅が狭すぎるでしょう。何の捻りもなくその酸人形だっけ? 突撃させるばかり。どう思う、龍?」
「素材はいいのに、本人が能力の強さに胡坐をかいた結果だろ。おそらく、Sランクとまともに戦うのは初めてなんじゃないの。他のランクならば、その程度の攻撃で倒せても、Sランクに挑むには戦術や攻撃の威力共に不足だね」
「うむ。もう少し研鑽してから挑んでくるがいい」
彼らの会話を聞いた酸人形は急に動きを止める。
酸人形を通して届いた言葉をリカードは、唇を噛みしめていた。普段ならば、彼らの戯言を聞き流して攻撃を続けていただろう。
しかし、自分よりも上のランクであり、自分の攻撃を全て捌いた相手とその上司の言葉は、なぜか、リカードの心に深く突き刺さる。
スコットに誘われ暗殺組織に入り、これまでかなりの人数を暗殺し、それ以上のDIFとも戦った。みなランクは自分と同等で強かった――まともに戦えば勝てない相手でも、室内での戦いともなれば、リカードに敵う者はいなかった。
例え、『エレメントフィールド』や『ソウルウォール』を出されても、酸人形の攻めで貫通し、破壊できていた。
だからだろう。
自分は室内の戦いにおいては最強だ、と。
その慢心が今の状況を作っているのではないだろうか。
「本当に腹立たしい」
自分では気づくことができず、敵である彼らに教えてもらうとは情けない。
「くっ!」
自分の頬を両手で叩いて反省をする。
今までの慢心していた自分と決別するために。
「よし、反省は終わり。ここからどうしていくかだが――」
(方法はあるわ、リカード)
聞き慣れた声と共に現れたのは、彼と契約をしている酸の精霊ゾイレ。
「久しぶりだな、ゾイレ」
(そうね。あなたが力を求めたから来たのよ。ほら、無駄話なんてしてないで、彼らに見せてやりましょう。酸人形の本当の力を)
数年ぶりに現れたと思ったら、かなりやる気じゃないか。
それの酸人形の本当の力だって。
そんなことを言われたら、心が躍っていくじゃないか。
「久しぶりにタッグを組みますか」
(ええ。リカード、私と思考を繋げなさい。そして私が思い浮かべている生物を、酸人形で作ってみせなさい。今のあなたならできるから)
「任せろ」
ゾイレと思考を繋げる。
彼女が思い描いている生物を酸人形で具現化させる。
これは――。
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