第27話 回想 二か月前の出来事

 ――二か月前

「バカな! なぜ、あなたがここにいるんだ!」

 リカードは幽霊でもみたような表情で、自分の逃げ道を塞ぐ男性を見る。

「なぜ? それは簡単だ。お前が敵だから。それ以外の理由はない」

 コートを着た金髪の男が、右手で指パッチンをするとその手には闇よりも深い二メートルはある鎌があった。

「ぐぬぬぬ」

 噂でしか聞いたことがなく実物を見るのは初めてだが、あの武器を見ただけで体の震えが止まらない。

 まるであのデスサイズの切っ先が心臓に触れているような感情を抱いてしまう。

 最高の暗殺者にしてこの世界の均衡を守るTWG第四席カルロス・ゾードが持つ、デッド・オア・アライブの力なのか。

「それにしても、謎の多いコードネームアシッドが、こんなひ弱な男とは思わなかった」

「なっ⁉」

「お前程度、一瞬で刈り取れる気がするが……果たして、お前はこいつから逃げられるかな」

 デッド・オア・アライブから溢れ出す漆黒の闇が、カルロス・ゾーンの背後に集約する。その闇は少しずつ形を作り、やがて巨大な人型となる。

 ヤバい。

 本能が警告をしてくる。

 このままでは確実に命を刈り取られる。

 この状況を打破するに最適な行動を頭の中で考えている間にも、人型は少しずつその姿を作りやがて、一つの存在が現れる。

 それはガイコツの全身像だった。

 ただ、ガイコツは正面ではなく後ろを向いている。

 その手にはデスサイズを握っていた。

「さぁ、抵抗しないと、お前の命はあと僅かだぞ!」

 高速で鳴り響く本能の警告。

 あのガイコツが姿を現してから、警告音が高鳴っていく。

 一体、どうすれば――そんなことは決まっている。

 カルロス・ゾードと戦っても勝てるわけがない。

 となれば、ここは逃げの一択。

「リカードは、懐からサバイバルナイフを取り出し、自分の心臓へ突き刺す」

驚くカルロス・ゾードの表情を見ながら、リカードは微笑み自分にこの力を貸し与えた住人と交信をする。

『対価は貴様の命の鼓動――寿命――の一割だ』

「ああ。頼む」

『対価は受け取った。お前が望む場所へ転移させてやろう。頭で思い浮かべるがいい……了解した』

 体が液体となり人としての形が崩れていく。

 どんな場所でも転移できる、アシッドワープ。その代償として、自分の寿命の一割と、一年間は使えなくなるが、ここで殺されるよりはましである。

「ふふ。これで失礼させてもらいますよ。カルロス・ゾード」

 それを最後に、リカードの景色は一瞬にして変わり、辺り一帯が広大な海が視界に入る。

 背後を見れば見慣れたジャングルが鬱蒼と茂っている。

ここは自分の組織がある島。

初めて使ったが、無事に戻ってこれた。

「た、助かった。あれが世界の守護者TWGか。正直、生きた心地がしなかった」

 いつものように簡単な暗殺依頼だと思ったら、とんだパンドラの箱を開けてしまったようだ。

 圧倒的な力の差と、忍び寄る死の影。

 あんな化け物の前で、果たして戦闘意欲が衰えない者がいるのだろうか。

 もう二度と会いたくないものだ。

「酒でも飲んで、疲れた体を労うか」

「それは無理だ。部外者が立ち入っていい場所ではないからな」

「えっ⁉」

 驚いて振り向いた先には、フォールダウンのリーダー、スコット・リッチャーが立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る