第22話 真実

「解せんって、何か引っかかることがあるの?」

「千両寺冬也がDIFと知っていたはずの青山が、なぜ川本みなとに対して何の対策も取っていなかったのかと思ってな」

 誰に対しても明るく気さくな人柄の青山ではあるが、仕事となればかなり用心深く、起きる可能性のある不測の事態に対して、何通りかの対策をしているのだ。

 今回の例では、ももを保護するにあたって、すぐに連絡を取り東京にいた走矢を派遣。さらに追加として水上や七海を送る。そして、自分も合流するために現在移動していることからも分かるだろう。

 そんな青山が、調査する対象の危険性を把握してなかったとは思えないのだ。

「確かに、言われてみれば、おかしいわね」

「だとすると、川本みなとへ何の対策もしなかった理由は何だ?」

 七海、水上、そしてももからの視線が突き刺さる。

 走矢は一度空を見上げ、一頻り考えた後一つの可能性にたどり着く。

「これはあくまでも私の考えだと思って聞いてもらいたいが、もしかしたら川本みなとはDIFだったんじゃないか?」

「そんなバカな!」

 全員がももを見つめる。彼女は驚いた面持ちで一瞬固まった後、首を横に振った。

「そんなことは……だって、お父さんは一言も――」

「言えないだろうね。もし、知られたら強制的にニューライトブルーシティーへ行かなければならない。そうなると、家族と離れ離れになってしまうからね」

「でも、DIFは隠し通せるものじゃないわ。使っていれば必ずDIF図鑑に載るもの」

「水上」

「分かっている」

 走矢が、言うよりも早く、水上はDIF図鑑で検索をかけているようだ。

「図鑑には見当たらない。本当にDIFだったのか?」

「その図鑑が記載される条件を私たちが知らないんだから、川本みなとがDIFではないという理由にはならないさ」

 そう言いながら走矢は、スマホを取り出す。

「どこに電話するの?」

「直接本人に問いただす……そうだ。僕のスマホは使えないんだ。七海、スマホ貸して」

「はいはい」

 七海のスマホで青山へ電話をする。

 二回のコールの後、

『もしもし――』

 と青山から声が届く。

「走矢だ。青山、ちょっと訊きたいことがあったんだが……取り込み中か?」

 受話器からは青山のほかに、誰かの奇声っぽい音が聞こえてくるような気がする。だが、青山はまだ列車の上のはずだ。

 なんだか嫌な予感がする。

『おう、モテる人間はつらいな。それが邪魔者だったなら、これほど悲しいことはないがな。それで、用は何だ?』

「邪魔者って、お前、今襲われているのか⁉」

 やはり嫌な予感があたったようだ。

『いや、すでに制圧したよ。しかし熱烈な歓迎だったぞ。何たって、ランクAの暗殺者を送り込んでくるあたり、完全に俺の命を奪いにきている。こりゃ、参った。あははははは』

 本人は何事もないような感じで高笑いしているが、かなりの大事である。

 青山龍太郎を襲うその意味をDIFとなった者が知らないはずはない。

「あ、暗殺者? 一体誰だ! そんなバカなことを、する、奴は……」

 そんなことをするバカな奴なんて、現在の状況から考えて一人しかいるはずがないじゃないか。

『お前が考えている奴で合っていると思うぞ。俺に仕掛けるなら、逃げ場所のない走る列車の中しかないからな』

「千両寺冬也め……で、そっちは大丈夫なのか?」

『問題ない。こんなこともあろうかと思って、りきを連れてきたからな』

「サウスリーダーが動いたのか!」

 思わず水上を見ると、本人も知らなかったようで、首を横に振っている。

 ニューライトブルーシティー最高戦力の一角のサウスリーダーが青山の元へいるのならば、暗殺者といえど無事ではすまないだろう。

 ってか、サウスリーダーのファイトスタイルを考えると、逆に列車が大丈夫か心配になってきだした。

『で、走矢は何を訊きたいんだ?』

 青山が襲われた驚きのせいですっかり忘れていた。

 こちらも重要なので素早く訊くとしよう。

「単刀直入に訊く。川本みなとはDIFDIFか?」

『ふむ。どうして、そう思ったんだ?』

 青山に問われた走矢は、その理由を説明する。

 用心深い青山が、千両寺冬也という危険なDIFの調査に川本みなとを指名したこと。

 川本みなと単独で調査をさせたまではいいが、彼の身の安全に対しては、用心深い青山にしては無策なところが引っかかると伝える。

『さすがは走矢だ。そこまで辿り着いているということは、二つ目のUSBメモリUSBが存在していることも突き止めているわけかな?』

「おい、二つ目のUSBメモリってのはどういう意味だ。ももちゃんが持っていた物以外にあるのか?」

 走矢は七海に視線を送ると、頷いてパソコンを操作し始める。

 そんな話聞いていないぞ、青山。

『おや、そこまでは突き止めてなかったのか。川本みなとが娘に託したUSBメモリをちゃんと見れば分かることだが、その中には千両寺冬也の犯罪を匂わせる程度で、決定的な証拠は何一つ存在していないはずだ。それもそのはず。本来ならそのUSBメモリは相手に渡っているはずだったんだからな』

「意味が分からない。ならなぜ、川本みなとはももちゃんに渡したりなんかしたんだ?」

 走矢はここでスピーカーにしてももにも聞こえるようにする。

 どこで千両寺冬也の手の者がいるか分からないのであまり使いたくなかったが、こればっかりは聞いておいた方がいいと判断したのだ。

『当初の予定では、敵にUSBメモリを渡した後、隠し通路から逃げる計画だったが、彼らが来るよりも早く彼女が帰宅してしまったことで計画が潰れてしまったようだ。慌てた川本みなとは敵に渡すはずだったUSBメモリを彼女に渡して逃がしたようだ……な』

「そんな……それじゃあ、私のせいでお父さんは……」

(もも)

 あまりのことでショックを受けるももに、トネールが寄り添う。これ以上は聞かせても意味がないと判断し、すぐにスピーカーを消して再びスマホを耳に当てる。

『これで答えになったかな?』

「ああ。それで、二つ目のUSBメモリの場所は?」

『それは――ブチッ』

「うっ⁉ もしもし、青山?」

 青山が重要な事を言おうとした矢先、突然通話が切れた。再度連絡を取ろうと試みたもの、

『電源が入っていないか、電波の届かない場所にいる』

 という音声が流れるだけだった。

 戦闘は終わったと言っていたのに――いや、青山は大丈夫だ。サウスリーダーがいる以上、最悪の事態は起こらないだろう。

「どうした?」

 水上が険しい顔で訊いてくる。

「電話が切れただけ」

「大丈夫なのか?」

「サウスリーダーがついているんだから大丈夫さ。それにあいつ自身も強いからな」

 ああ見えて青山はサウスリーダーと同じランクSだ。あいつの相手ができるのは、同格のDIFか世界最高峰のTWGクラスでないと。

「とりあえず、重要なことは聞けたからいいよ。おめでとう、ももちゃん。君のお父さんは生きているよ

「…………へっ?」

(…………はい?)

 落ち込んでいたももと慰めていたトネールは、驚愕の表情を走矢へ向けてくる。

「何で驚いているの」

「だ、だって、さっきの会話では一言も……」

「そもそも、ニューライトブルーシティーにいた青山が、どうしてその時の状況を全て知っているんだ? そんなの本人から聞いたからに決まっているじゃないの」

(確かに)

「ってことは、本当にお父さんは」

「生きている」

(よかったわね、もも)

「うん」

 死んでいたと思っていた父親が生きていた事実は、ももにとって最高の報告だった。歓喜のあまり目からはダムが決壊したように涙が流れ、トネールも嬉しそうに笑顔で小さな手を使って、流れていくももの涙をぬぐっている。

 素晴らしい光景だ。

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