第17話 千両寺冬也と血染めの紅葉事件(2)

「その事件を起こした人物が、千両寺貿易会社社長、千両寺冬也なの」

 驚きのあまり、目を見開いたまま固まっているもも。

 まぁ、誰だって、そんな話を聞けば、大体おんなじ反応をするだろう。

 ましてや、父親の命を奪い、自分を狙っている相手ともなれば余計に――。

「七海、その千両寺冬也を止めた奴は誰だ?」

「近くを通りかかった平等院さんの手で止められたわ」

「秋雨か。あのクラスじゃないと止められないとか、中々の化け物じゃないか?」

(誰よ、その人物は?)

平等院秋雨びょうどういんあきさめ。ニューライトブルーシティーの裁判官で、主にDIFを相手に裁判を行うDIF裁判官。彼の前ではどんな相手だろうと、DIFとしての力が使えず、平等に公平な判決を起こすことで有名な男だ。ニューライトブルーシティーの住人からは恐れられている人物だ」

「DIFの力が使えないって、そんなことがあるんですか?」

「もちろん、カラクリはある。秋雨のDIFとしての力さ」

 秋雨は魂・憑依型で命を落とした人間が死後、冥界の場で生前の行いを裁き六道と呼ばれるそれぞれの道を決める冥界の裁判官、ならびに地獄の王であり死者の生前の罪を裁く神の閻魔大王。

 彼のお方の力が付与されたガベルは、一定範囲内のDIFとしての力を大幅に下げる力を持つ。これにより、力の弱いDIFならば能力は発動すらできず、強い力を持つDIFでも通常以下の力しか出せない。

 そして、ガベルで有罪とされた者は、刑の執行機関を全うするまでDIFの能力を完全に失ってしまうのだ。

「すごっ」

(恐ろしいわね)

「あれ、でも時田さん。閻魔大王はこの世界の神ですよね。神世界の住人ではない気がするのですが……」

「これに関しては私たちも分からない。だけど付加されたDIFが言うのは、次元の壁が壊れた影響でこの世界の神々も、神世界へ召し上げられたらしい。だから我々人間に力を付加することが可能なのだと。それこそ、神話の多いヨーロッパやインドなんかには、魂・憑依型や魂・召喚型が多い印象だな」

 それこそ、ゼウスやオーディンと言った超有名どころに付加されたDIFもいるとか。

 いやー、絶対に敵対したくないね。

 勝てる要素が見当たらないから、一方的にやられそうだ。

「話を戻すが、これだけの事件を起こした千両寺冬也のどうなった?」

「基本的にDIFがDIFを殺しても罪になることはないけど、さすがの平等院裁判官も、DIFの心構えを学ぶためにやってきた者が、敵意のありなし関係なく殺されたことは、そもそも前例がなく判決に相当困ったようね。最終的に半年の監獄行きを求刑されたはずよ」

「ほう。無罪じゃなく半年の監獄行きを下したのか」

 DIFは世界で化け物と定義されており、そこら辺の動物が他の動物を殺しても罪になることがないように、DIF同士で起こった殺人は何ら罪に問われることはない。

 ただし例外として、国家を転覆しようとした、敵意を持たないDIFを十人以上殺した、特定のDIFに危害を加えた、能力を暴走させた、これらの場合はDIF裁判官の手によって裁かれ、近くの監獄へ収監されることがある――もちろん生きていればの話であるが。

 今回は百五十七名の内『敵意を持たないDIFを十人以上殺した』と判断したため、裁いたのだろう。

 ちなみに人間を殺した場合は特にお咎めなく、人間の法でDIFを裁くこともできない。

 化け物が罪を犯しても人間が作り出した法律が通用するわけもない。

 なぜならDIFを化け物と認定したのは人間たち。

 当然、人間たちから反発が起きたが、化け物と蔑んで人工島まで作らせて追い出したのに都合が悪くなると人間の法で裁け、という無茶な要求を始まりの九人が突っぱねたこと。

 さらに戦闘行為を娯楽としている幻生界の住人がそれに激怒し、貸与しているDIFを暴走させてふざけた要求をする国へ攻撃を仕掛ける、と脅したことで人間側も渋々ながら納得した経緯があったからだ。

 少しずつ人間からDIFを移り変わっている今、どんどん人間が生きにくくなっている時代でもあるのは、ある意味仕方のないことなのだ。

「ふーん。千両寺冬也の能力が気になるな。水上、ちょっとDIF図鑑で調べてくれ」

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