第16話 千両寺冬也と血染めの紅葉事件
そこには大量のネット記事が出てきた。
芸能、スポーツ、経済、各地方から、世界のニュースと様々なネット記事が溢れている。
(バラバラで一貫性がないわね。みなとは何を伝えたかったのかしら)
「うん。お父さんが何を調べていたのか、まったく分からないわ」
ももとトネールは、川本みなとの意図が分からず困惑しているようだ。
おそらく、ファイルを開くと事件の黒幕の名前がドーンと出てくると思っていたみたいだが、長年ジャーナリストとして危険な橋を渡っていたであろう川本みなとの立場からすると、安易に情報を渡さないための仕掛けなのだろう。
木の葉を隠すなら森の中という言葉があるように、一見無駄な記事を大量に紛れ込ませて、本当に必要な記事を隠していると見た。ということは、川本みなとはこのUSBメモリが狙われていること、さらに奪われる可能性を想定していた節がある。
――となると、あいつの行動が納得できないのだが――。
「安心してお二人さん。これは万が一敵に渡った時のために、あなたのお父さんが用意したトラップみたいなものよ。これに市長から教えてもらったパスワードを入れて……っと」
七海はキーボードをタッチしていくと、画面にパスワード入力の表示が出るが、何の迷いもなく入力していった。
すると、大量にあった記事が消え五つの記事が残った。
一つめは、ニューライトブルーシティーで起こったある事件。
二つめは、とある会社の若き社長のインタビュー記事。
三つめは、東京のある貿易会社を合併した記事。
四つめは、とある会社が貿易を行っている国のリスト。
五つめは、三人の死亡記事だった。
これらの記事に目を通すと、とある会社と人物を川本みなとが調べていたことが分かった。
「千両寺貿易会社を調査していたようだね。で、その社長が千両寺冬也か。ほう、二十二歳とはずいぶん若いじゃないか。しかし千両寺……どっかで聞いたことがあるような」
「千両寺冬也と言えば、二年前に『血染めの紅葉事件』を起こした奴だ」
「ああ、そんな事件もあったな」
「あれだけの事件を忘れるなよ」
水上はため息をついて呆れていた。
「あの、その『血染めの紅葉事件』とは何ですか?」
ももが手を上げて尋ねてくる。
「ニューライトブルーシティーの養成所で起こった事件なんだが……ふむ、私も詳しいことは忘れたからな。ってなわけで、よろしく七海」
「はぁ、分かったわよ」
というわけで当時、捜査を担当していた七海に『血染めの紅葉事件』のことを語ってもらった。
まず、DIFとなった者は、近くの人工島でDIFの能力を記したIDカードを作成した後、人工島内の養成学校へ行かなければならない。
そこでDIFにとって基本的な事を学び、能力の使い方を把握し、ニューライトブルーシティーでの過ごし方などを勉強する学校へ春と秋のどちらかへ半年行くことが義務付けられていた。
しかし、DIFになりたかった者たちが集まっている場所なので、自分の能力を自慢したり、強さの優劣をつけたがる奴がどうしてもでてきてしまい、いつの間にか派閥までできてしまう群雄割拠なところでもあった。
本来、止めるべき講師たちも、ニューライトブルーシティーで生きていく以上、求められるのは強さであると分かっているので、半ば暗黙の了解として黙認していた。
そして二年前の秋。
真夏の暑さが嘘のように消え、穏やかな秋風が吹き、少しずつ緑から黄色へと移り変わった木の葉たちが、風に乗って散っていく街並みの中を、新しい生徒たちがニューライトブルーシティーの養成学校の運動場に集まっていた。
今回も春と同じで強さに自信のある奴が手あたり次第、勝負を仕掛けて強さの優劣をつけていたようだ。
講師もいつもの風物詩だと思い、何も言わず自由時間としてその場を去ったという。
それが悲劇の始まりだった。
突然、一人の生徒が能力を暴走させ、その場にいたDIF全員を皆殺しにしたのだ。
止めに入った講師も含めて。
通報を受けて駆け付けた七海たちは、その凄惨さに数分間立ち尽くしてしまったという。
黒焦げでパッと見ただけでは身元が判明できない者、体の一部が欠損している者、そして出血多量で亡くなった者など、総勢百五十七名の命が一人のDIFに奪われてしまった。
そして移り変わっていく木の葉たちが、百五十七名の血で真っ赤に染まった様子から、この事件は『血染めの紅葉事件』と呼ばれるようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます