第15話 合流
「……⁉」
走矢は二人の様子を見て違和感を覚えた。
長い髪をゴムで一つにまとめ、肩から下げた茶色のバック、黄色のトップスと桜の刺繡がされたフロッキープリントスカートで歩く雨宮七海。彼女の格好はいつもの仕事着であるスーツ姿ではなく、明らかにプライベート用の服装である。
――なぜ?
そして隣にはスーツ姿で登場した水上康二――なのだが、顔面蒼白、足取りは酔っぱらっているかのように千鳥足で、触れたら今にも倒れてしまいそうなぐらい弱り切り、まったく覇気が感じられない。
――Why?
頭の中で浮かび上がった迷宮のような答えの出ない謎に立ち向かっている間に、七海はももに自己紹介を始める。
「あなたが川本ももさんね。私は雨宮七海。ニューライトブルーシティー警察の警部補よ。よろしくね。あと、あそこで車酔いしてる人が――」
「ニュ、ニューライト、ブ、ブルーシティー、サウ、サウスエリア、け、警備、副隊長の、水上康二……うぷっ、もう、ダメ」
口を押えながら水上は、近くにあった公衆トイレへ駆け込んでいく。
車酔いって、一体何があったんだ。
走矢が無言で七海を睨みつけると、彼女は「あはは」と乾いた笑いを浮かべていた。
「まあいい。到着して早々で悪いが、すぐにUSBメモリの中身を調べてくれ。ももちゃん、USBメモリを出してもらっていいかな」
「あ、はい。あの、川本ももです。こちらこそ、よろしくお願いします」
(トネールよ。よろしく)
「よろしく。いやー、青山市長から聞かされた時は半信半疑だったけど、本当にDIFになったのね。ってか、どうして、そんなに疲れているの?」
七海は二人に温かい視線を見せた後、ももからUSBメモリーを受け取りつつ、肩で息をする彼女を不思議がる。
「初めての技を成功させたばかりなのさ」
「ああ、精霊型のDIFあるあるねらしいわね」
七海は納得しながら、ももからUSBメモリを受け取る。
「これね。少し時間をもらえるかしら」
カバンからノートパソコン取り出した七海は、座っていた走矢の隣へ陣取ると、USBメモリを差して慣れた手つきでキーボードを操作していく。
やはりUSBメモリの中身が気になるのか、呼吸を整えるももとトネールは七海の背後からノートパソコンの画面を凝視している。
一人だけすることのなくなった走矢が、残りの肉まんを口に入れようとした時、タイミングよくトイレから顔色の良くなった水上が出てきた。
「ふう。すっきりした」
水上は休憩所内にあった自販機でお茶を購入。蓋を開けゆっくりと飲んで深いため息を吐いた瞬間、目と目があってしまう。
「……時田」
手招きをされた走矢は、肉まんを頬張りながら移動する。
「水上よ、色々と訊きたいことがあるんだが……」
「ああ、聞いてくれ。俺が体験したデスドライブの全貌を」
水上は遠い目をしながら、ここまでの悲惨な一部始終を語ってくれた。
――――
―――
――
―
「少し整理していもいいか?」
「ああ」
「水上と七海が青山から呼び出された時点で、あいつはプライベートな服装でやってきた。理由は休日で買い物に行こうとしていた時に呼び出されたから。それで、一度は依頼を断るものの、青山が一週間の休暇とホテル代は全額出すことを条件にしたことで納得し、依頼を引き受けて七海の車で出発。しかし、ニューライトブルーブリッジで渋滞にはまり、みるみるうちに七海のストレスが天元突破。渋滞緩和のため二車線から六車線になった瞬間、高笑いを上げながらアクセル全開でニューライトブルーブリッジを駆け抜けたと」
だから、仕事着であるスーツ姿ではなく女性らしさ全開のプライベート用服なのか。
――納得だ。
「そうだよ。百八十キロなんてスピード、初めて体験したぞ。生きた心地がしなかったわ」
その時のことを思い出したのか、両肩を抱きしめて震えている水上の姿を見たら、可哀そうになってきた。
そんな水上を不便に思っていたら、
「開いたわよ」
と七海の声。
二人は話を切り上げ七海たちへ近づき、それぞれ彼女の隣と肩越しから画面を覗く。
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