第13話 束の間の時間
大都会の中とは思えないほど、心地の良い場所を走矢は堪能していた。
高層ビルが立ち並ぶ都会の喧騒の街並みを抜けると、そこには大きな広場があった。
入り口付近には案内板があり、『オアシス公園』と書かれた名前の下には、公園利用の注意点、公園の全体図と共に駐車場、トイレ、遊び場、休憩所、の場所が記されている。
「へぇ、思ったより大きいな」
というのが走矢の印象だった。
休憩所の場所を確認して、ももと一緒に東側の入り口から中に入る。
道なりに進むと、大きな噴水が空高く舞い上がり、水しぶきの間から綺麗な虹がかかっていた。それを見て、小さな子供が指をさしながら、笑顔ではしゃいでいる姿が微笑ましく、自然と笑みが零れてしまう。
「休日は、駐車場が満車になるくらい、親子連れで溢れているんですよ」
ちょうど通り道に駐車場が目に入る。
「……満車だね。今日は休日だっけ?」
大体、四十台ぐらいは入るであろう、駐車場は見事に埋められており、さらに通り道の脇にも車が停車している。そこは駐車スペースではないと思うのだが――。
「うーん。これは、あれですね。昼食を取りに来たサラリーマンが、この駐車場に止めたんだと思います。ほら、駐車場の正面にお店がありますから」
言われてみれば、回転ずし、中華・ラーメン、お好み焼き、ファミリーレストラン、牛丼、カレー、カフェと、中々の激戦区で、駐車場も満車になっている。だから、店側に近い公園の駐車場に停めるのだろう。
というか、どうしてそこにこれだけの飲食店が並んでいるのか分からない。
ただ、選ぶ側からすれば、色んな食事ができるから嬉しい。
そんな光景を眺めつつ先へ行くと、滑り台、ブランコ、シーソーといった遊具が現れ、親と一緒に子供たちが戯れている。その先にある少し小高い丘の上に、屋根のついた休憩所があった。
走矢とももは、四つあるテーブルの内の手前側へ座って、昼食を取り始める。
ホットドッグ、肉まん、サンドウィッチと、片手でつまめるものを選択した走矢。対してももは、季節の野菜が彩られた幕の内弁当を、幸せそうに食べていた。
「おいしいかい?」
「はい。朝から何も食べてなかったから、とてもおいしいです」
空腹は最上の調味料なんて言葉があるように、お腹が空いている時に食べる食事は普段よりおいしくなるというが、彼女の表情が全てを物語っているな。
機嫌のいいももに、青山から連絡をもらってから、走矢と出会うまでの間の話を訊いてみた。
青山へメールを返信した後、お腹がすいたので食料を買いに行こうとしたら、ドアの前で黒服の男性二人と鉢合わせ。
彼らの態度と笑顔ではあるが目が笑っていなかったこと。インカム越しで、もものことをターゲットと呼んだことで、彼女は二人を敵と認識。
そしてこの場から、どう逃げようか迷っていたところ、トネールが二人の頭上に雷を落として助けたそうだ。
呆気に取られていたももに、トネールは彼女を守ることが目的であると告げ、そのために自分と契約して欲しいと提案してきた。
その提案を受け入れたももはDIFとなって、追っ手を倒しながら近くの空き倉庫に隠れて過ごそうとした。そしたら今度は魂・変化型のDIF、オオカミ男が投入されてしまう。
だがももはまだ力が使えないためトネールが足止めをしている間に、彼女が逃げていたら十字路で走矢と出会ったとのこと。
「なるほど。私が無事ももちゃんと出会えたのは、トネールのお陰だね。ありがとう」
(ふん。あなたにお礼を言われても嬉しくもなんともないわ)
と口では言っているが、仁王立ちで胸を張り、ももの頭上で喜色満面を見たら、まんざらでもないと誰もが分かる。
このツンデレめ。
「でも、全てはこのUSBメモリのせいなんだよね。時田さんは、これについて何か知っていますか?」
巾着袋から取り出した小箱の中から出てきた黒いUSBメモリ。
一体あの中にどんな情報が入っているのか、残念ながら詳しくは知らない。
「青山から聞いた話では、『とある人物を逮捕するのに重要な証拠が記録されている』代物らしい。君を襲った連中も、そのとある人物の手によるものだと思うよ」
(つまり、そのUSBメモリを見れば、ももを襲った奴が分かるわけね)
どこで覚えたのか、その場でシャドウボクシングをし始めるトネール。
完全にやる気満々だ。
電気を帯びた華麗な右フックを受けたら相手はイチコロだな。
「張り切るのはいいが、護衛している身としては、ジッとしてもらった方がありがたいんだけどね」
走矢が苦笑しながらトネールに釘を刺す。
(そんなこと、あんたに言われなくても分かっているわよ)
「え、ええ」
急に落ち込み始めるトネールに狼狽する走矢。
てっきり、強い口調で何か言い返してくるかと思っていたのに。
「あー、実はですね」
ももが苦笑しながら、トネールが落ち込んでいるわけを教えてくれた。
どうやら、トネールがももと契約をした時に、必ずももを守って見せると約束したそうだ。
実際人間相手には、トネールの力が通用していたのだが、DIFとの戦闘ではうまくいかず、走矢がいなければももを守り切ることは不可能だった。
そのことがトネールには許せなかったらしく、ずっと反省の言葉をももに思念で伝えるらしい。
自分の力に絶対の自信を持っていたトネールが、自分の力が通じず初めて他者に頼らざるを得なかった。
屈辱、挫折、悔しさ、がトネールの中で渦巻いているのだろう。
「なるほどね。でも、それは仕方ないかな。だって、それは精霊型の戦い方じゃないからね」
(……どういう意味よ?)
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