第9話 提案
全て過ぎ去った、遠い日々のことだ。
答えのないタラレバ話はもう十分だろう。
なのに、戻りたいと思った。もう一度あの場所に行きたいと思ってしまった。
思うやいなや、無意識に踏み出した一歩が、私をあの場所へ連れて行く。
私は今、高校の最寄り駅のホームにいる。
唯一2人の繫がりを感じられる場所だ。
このホームにいる間、私達は確かに見えない糸のようなもので繋がっていた。
言葉を交わさなくてもわかり合える気がした。
友達でも恋人でもただのクラスメイトでもない、名前のない関係。
電車が来るまでの間、他の子には見せない表情でとりとめのない話をした。
あなたの傍に少しでも長くいたくて、遠回りで運賃も跳ね上がるのに無理を通して通学手段を変えた。
今日からは同じ路線で帰れると少し誇らしげに宣言した時、Sは喜んでくれたっけ。
あなたはきっと私の変わらない所を愛していた。
誰にも流されない正しさを私の中に見ていた。
あなたは触発され変わろうともがく私を愛おしく思いながら、結局変われない所に安心してもいた。
一緒に東京へ行こうと言ってくれたのも、ここだった。
忘れもしない、あれは高1の冬の出来事だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます