第5話 後遺症
高田馬場は嫌いだ。
Sが一人暮らしする家から最寄りだと話していたから。
そういえば私が一人で上京した時、初めてSと電話したのもここだったっけ。
おかげで来る度に落ち着かない気持ちになる。
山手線に押し流される人混みの中で、ホームや電車の中にSの影を探してしまう。
いた所で、何と言葉をかけたらいいかもわからないくせに。
見つけたくない。見つけてほしい。
私が気づかないだけで、Sは私を見つけているのではないだろうか。だとしたらあえて声をかけないということになる。
本当はわかっている。
Sからすれば私はできれば消したい過去だと。気づかない振りを続けるのは美しい思い出のまま葬り去るためだ。それが彼女の優しさの示し方なら、私は従う他ない。
なのに踏ん切りがつかないのは、まだ心の何処かでSとの運命を信じているからだ。
これは私の賭けだ。
私も忘れないから、私をずっと覚えていて。
あなたを愛して知ったのと同じだけの苦しみを教えてあげる。
こんなのは献身でもなんでもない。自傷行為だ。
自己満足に過ぎない。
もうずっと前から、私の心は壊れているのかもしれない。
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