3話 謎の協力者と、偉大『だった』勇者

「そもそも、あの人間が手にしていた情報は、小悪党が手にしていい情報ではなかったわね。明らかに第三者……協力者がいたと思うわ」


 またまたアシュリンが代弁してくれた。


 その通りなのである。


 アイゼンハウアーが出してきた数字は、ヴィンスがアシュリンを探し、聞き出さないとわからないくらいに、王都側に一つも情報が無かった。

 だが、アイゼンハウアーはそれを調査の最初の段階で、既に証拠として提出していた。


 つまりそれは、第三者――協力者がいたということ。


 ヴィンスは、結論から述べた。


「アイゼンハウアーは誰かに依頼されて『勇者』を名乗ったんだよ」


 それが、最も辻褄の合う結論だった。


「アイゼンハウアーが協力者を探したってことはないの?」


 キーヴァは鋭い指摘をした。


「可能性で言えば、それも当然ある。

 だが、さっきも言ったように、王都側は魔族領の正確な地理、距離を知らない。

 そこを逆手に取りながら、勇者を名乗のって……

 なんて手間なことをするなら、そもそもギル山脈があることは知っていたはずだ」


 本気で騙すつもりならば、そうするはず――


「じゃぁ、誰かに依頼されたのは確実なんだね」

「ほぼな」

「だから」


 言葉を被せてきたのはアシュリンだった。

 そして、はっきりとした言葉で言った。


「一番問題なのは、誰が依頼したか――なのよ」


 その言葉には、どこか強い感情が垣間見えた。


 一体誰が、『勇者』を名乗るように依頼をしたのか――


 アイゼンハウアーが口封じにより殺されたという場合、一番の問題であり、一番の謎はそこなのである。

 なぜならば、依頼をした人物は王都側も知らない、魔族領の地理を知っており、魔族側が知らないであろう『王都側は魔族領の地理に疎い』ということを知っていたことになる。


 この条件を満たす存在が果たしているのだろうか。


 少なくとも、ヴィンスの頭の中には思い浮かんでいなかった。


「えっと……それじゃ、やっぱり調査したほうがいいんじゃない?

 そうすれば依頼した奴も分かると思うんだけど」

「確かにな」

「納得するんだ……」

「ああ、普段だったら俺もそうする」

「じゃぁ、そうしない理由は?」


 ヴィンスは、少し険しい顔をして話を続けた。


「理由は――急がないとまずいことになると思ったからだ」


 深刻な顔で話すヴィンスだったが、キーヴァにはどうも伝わっていないようだった。

 さらに話しを付け加えることにした。


「アイゼンハウアーの件が、仮に口封じだった場合、相手はアイゼンハウアーと自分の繋がりがバレるのを恐れて、アイゼンハウアーを殺した――そうなるよな?」

「うん」

「それはつまり、素性がバレたらまずい奴が、アイゼンハウアーに接触したということになる」

「……うん」

「……アイゼンハウアーだけだと思うか?」

「え?」



「その人物が接触しているのは、アイゼンハウアーだけだと思うか?」



 キーヴァはハッとし、そして慄然としていた。

 どうやら、ヴィンスと同じ疑問に辿り着いたようだ。


「当然可能性の話だし、俺の仮説が当たっているとは限らない」


 そう前置きをした上で、ヴィンスは話しを続ける。


「でも、そのアイゼンハウアーに接触していた奴が『仮に』他の勇者達にも接触しているなら――アイゼンハウアーと同じ対応をする可能性は、『ある』」

「それはやばいじゃん‼️」


 キーヴァの指摘はごもっともである。

 そう、やばい。


「だから、その接触していた人物が新しい策を打つ前に、『偽物の勇者』の調査を終わらせないといけない。そう思ったんだ」


 ここでやっと、キーヴァが求めていた『説明』に辿り着けたと、ヴィンスはふと思った。


「終わらせるって……キングロード城塞に行けば、調査が終わるってこと?」

「ああ、俺は次の調査で『勇者』を見つけるつもりだ」

「キングロード城塞にいるのって確か……」


「偉大なる勇者・ノア――この国で最も有名な勇者……そして、四〇年前に行方不明になっていた勇者だ」

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