12話 ソレの名は『嘘つきアシュリン』

「あーもう‼ ついてきた私が馬鹿みたいじゃん‼」

「大丈夫だって」

「どこが‼」


 でかい声過ぎて、身体が仰け反った。


「一応、考えがあるんだよ」

 キーヴァが疑念の目を向けていた。信じていない目だ。


 なんと言えば信じてくれるだろうか――


「へぇ、どんな考えなのかしら?」


 どこからともなく声が聞こえてきた。

 辺りを見渡しても、ヴィンスとキーヴァ以外の人影は見えない。


 キーヴァでも、ヴィンスの声でも無い声――


 2人は同時に思った。



 嘘つきアシュリンだ。



 緊張が全身を走る。

 そんな中、最初に切り出したのはヴィンスだった。


「……アシュリンだな?」

「道に迷ってるのかしら?」


 アシュリンの声は初めて聞くが、想像通りの声だと、ヴィンスは感じていた。

 異様に落ち着き、相手を見下し、こちらが助けてあげているという上から目線な声だ。


「お前に会いに来た」

「あら、殺しにでも来たの?」

「違う。聞きたいことがある」

「道案内ならしてあげるわよ」

「その必要はない」

「まず、まっすぐ進んで、見えてきた木を左に曲がって―――」


 アシュリンはこちらの話を聞こうともしなかった。


 これは魔族特有の反応である。

 基本的に魔族は人間を自分より弱き者として扱っている。

 差別的だと言う人もいる。

 しかし、相手は魔力の塊のような生物なのだ。

 己が強いと思っても別に不思議ではないと、ヴィンスは考えている。

 我々人間だって、魔力を持った人間を『勇者』と崇めているのだから――


「いいから顔だせクソ野郎‼」


 キーヴァの荒々しい言葉遣いに、ヴィンスは我に返った。

 にしても汚い言葉使いすぎてびっくり。


「あら怖い。何か恨みでもあるのかしら?」

「恨まれてるに決まってんでしょ‼

 あんたが邪魔してるせいでここを通れないんだよ‼」


 霧の中から、アシュリンの笑い声が聞こえてくる。


「そんなことで恨まれてるの私?」

「この世界で一番ね‼」


 キーヴァは言葉に力を込めて言った。


「……マリスのほうが恨まれてると思うけどねぇ」

 言葉の応酬が続きそうだ。そうなると話が進まない。

 ヴィンスは堪らず、割って入った。


「そろそろ本題に入っていいか?」

「本題なんて最初からあったかしら?」

「お前に聞きたいことがあるという本題だ」

「……私は『嘘つきアシュリン』よ?」

「そうだな」

「だったら、正しい情報を貴方に教えると思う?」

「そうだよ‼ こんな奴に頼っても意味ないって‼」


 キーヴァもアシュリンに同調した。

 気が合いそうだなこの二人。

 そう心の中で思いながら、ヴィンスは二人の言葉を否定した。


「いや、お前は教えてくれるよ」

「何を根拠に……」


「お前は優しいからだ」


「……はぁ?」

 霧の中から聞こえてきた声は、明らかに困惑していた。

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