10話 霧の中を探して
掴んだ首を激しく振るキーヴァ。
ヴィンスの頭は激しく揺れている。
残像が見えるくらいに。
「なに測ってない距離勝手に想像で決めてんの‼ そんなの正式に採用するな‼」
首を激しく揺らされながら、ヴィンスはキーヴァに同意していた。
とっても。
激しく。
でも、そろそろ。
止めてくれないと吐いちゃう。
そんなこんなで、やっと、キーヴァが手を離してくれた。
「あー……死ぬ……」
「そんな簡単に人間は死なないから」
「俺の身体でそれを証明するのはやめてくれ」
意識が定まり、ヴィンスは再び喋りだした。
「要するにだ、アイゼンハウアーは俺たち枢密院の常識を『逆手』に取ったんだよ。
しかも、これの嫌らしいところは、逆手に取られたと気づいたとしても、
調べようがないってところだ。なんせ答えは戦争相手の領内なんだからな」
そんなところを、すみません距離図らせて下さい、えへへ。
なんて言って入らせて貰える訳はない。
「じゃあ、ひっくり返すなんて到底無理ってことじゃん。
結局ここに来た理由はなんなの?」
「正確な距離を知るために来た―――
いや、正確な距離を知っているものを探しに来た、が正しいか」
そう、これが本来の目的。
分からないなら聞けばいい。単純明快な答えである。
「ここにその距離を知ってる人がいるの?」
「ああ、いる。会えるかどうかは分からんがな」
いや、確実に会える。
ただし、問題なのはその後だ―――
「まぁ……こんだけ濃い霧だ。
遭難や事故を防止するために待機役と探索役でわけてもいいな」
「どっちが待機役?」
キーヴァはヴィンスに問うた。
「お前」
「えーやだー、暇じゃーん」
「だったら、誰を探してるのか分かるのかよ」
「教えてくれれば探してくるよ?」
「どうせ覚えれないだろ」
すかさずキーヴァはヴィンスの首を掴んだ。
「どういう意味?」
「なんでもありません……」
キーヴァをなんとか宥め、ヴィンスはやっと開放された。
まだ少し首が痛い。
どうやら2人で入るしか無いようだ。
ヴィンスは諦めたように、キーヴァに手を差し出した。
「それじゃ……ほら」
キーヴァはその手をキョトンと見つめていた。
「……どしたの?」
「いや、手を繋ぐ」
キーヴァは何かを察したのか、呆れた顔をした。
「まさか、それで遭難防止とか言わないよね……?」
「少しは賢くなったな。その通りだ」
「わぁ、画期的ぃ」
明らかに馬鹿にしているような言い方だった。
「嫌ならここで待ってろ」
「もう……冗談じゃん」
そういうと、キーヴァはヴィンスの腕に、手を回した。
それはいわゆる、ラブラブなカップルが町中を並んで歩く時にやっているような。
そんな手の回し方だった。
「……歩きづらいんだが」
「お互い様でしょー」
一方のキーヴァはご満悦のようだ。
何故そんなに楽しいのだろうか。ヴィンスには分からなかった。
だが、どうにも離れてくれないようなので、このままボイル峡谷に入ることにした。
何故なら、日は既に傾き始めていたからだ。
さっさとボイル峡谷に入って、協力者を見つけなければ―――
ヴィンスは改めて覚悟を決め、ボイル峡谷の濃い霧の中へと足を進めた。
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