8話 一寸先の闇
翌日。キーヴァとヴィンスはトバカリー城塞を後にした。
昨日話していた通りに―――ではない。
2人は新たな証拠を見つけるために、東へと足を進めたのだ。
そこは、魔族領の目と鼻の先―――
「着いたな」
「ここがあの有名な……」
「そう、ボイル峡谷だ」
ボイル峡谷。
ヴィンスとキーヴァの眼前に広がる谷の名前だ。
だが、谷というには異様な風景が広がっている。
「いつ見てもすっごい光景。絵本の世界みたい」
「ああ、剣山のように尖った岩山、晴れることのない濃い霧。
おとぎ話みたいな風景だから、観光客にも人気だったらしい」
「らしい?」
「魔王軍と戦う前の話」
「……昔すぎない?」
おおよそ1千年ほど前の話だろうか?
「まぁ、今じゃ絶対に誰も近づかないだろうけどな」
「そりゃそうでしょ。だって数日前まで戦争してた場所だよ?
そんなところを観光してたら能天気だよ」
そう、ここは数日前まで戦争が行われていた場所。
今は休戦状態なので、戦争に巻き込まれることはないが、魔王軍と王都軍が和睦したわけでも、平和条約を結んだわけではない。
いつでも、戦争の引き金を引くことはできるのだ。
そんな場所に誰が観光に来るだろうか。
「あれ、でも……」
キーヴァは辺りを見渡しながら、何かに気づいたようだ。
「兵士が駐在してないんだねここ。魔王軍とかひっそり来そうじゃない?」
至極当然の意見だ。
しかし、それには単純明快な理由がある。
「駐在できないんだよ」
「どういうこと?」
「少し中に入ってみれば分かる」
そういって、ヴィンスはキーヴァの腕を引いて、一歩中へと入った。
たったの一歩。
それだけなのに、2人は霧の中に消えてしまったのだ。
そして、キーヴァの大声が辺りに響いた。
「なんんんんんんんんんんんんにも見えないんだけど‼」
霧の中からキーヴァが、転びそうになりながら戻ってきた。
遅れてヴィンスも出てきた。
「つまり、濃い霧のせいで攻めることも、
守ることも出来ない場所だからもういいやってお互い放り投げたってことだ」
「な、なるほどね……」
「だから、いつしか冒険者や勇者達が、
安全に魔族領に入るためのルートとして有名になっていったわけだ」
「よくこんなところ通ろうと思ったよね……何も見えなくて怖かったんだけど……」
「完全に見えない訳では無い。よく見ると地面が見える」
「気づかないよ‼」
力強く否定するキーヴァだった。
そして、乱れた服を整え、改めて問うた。
「で、ここで何するの? 観光に来たわけじゃないでしょ?」
その通り、ここを訪れた訳は観光などではない。
「当然、アイゼンハウアーの証拠をひっくり返すために来た」
「それなんだけど、どうやってひっくり返すつもりなの?
言ってたよね、アイゼンハウアーは正規の書類で、証言に矛盾が無いって」
「そう。今ある王都の情報に照らし合わせても、
アイゼンハウアーに疑惑は一つもない」
「じゃぁ、ひっくり返すって何を指してたの?」
「これ」
そう言ってヴィンスは一枚の紙を取り出した。
それはアイゼンハウアーの証言に則って作られた旅のルートだった。
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