3話 罠にかかる

「まーじでムカつく。私を給仕か何かと勘違いしやがって」


「だから取り調べに同行させたくなかったんだよ……」


 ヴィンスは、やっと咳が落ち着き水を飲んでいた。


「でさ、お兄ちゃん」

「ん?」

「まさか、あいつが魔王を倒した『勇者』なんて思ってないよね?」

「うーん……」

「え……まさか、思ってるの?」

「思ってる。だが―――」


 瞬間、キーヴァがヴィンスに飛びつき、押し倒した。

 椅子が倒れ、凄まじい音が広場に響く。

 流石に兵士達も、何事かとヴィンス達に視線を向けた。


「絶対あいつなわけない‼」

「話聞けよ……」

「だってあいつ私より弱いもん‼

 私よりも弱い癖に魔王倒したとか絶対ありえないでしょ‼」

「分かったから手を離してくれ。そして、どいてくれ」


 キーヴァは掴んでいた手を離し、素早くどけた。

 ヴィンスは呆れた顔をしながら身体を起こし、埃を払った。


「書類上では100%『勇者』で間違いない。だが、それは書類の上だけだ」

「それは、裏があるってこと?」

「そう。多分あいつは、王都の情報に疎い」


 ヴィンスは、倒れた椅子を戻し、再び座った。キーヴァも、自分の席に戻った。


「それっぽい様子あったっけ……?」

「『前情報』だよ」

「え? あの情報に間違いはないよ、私も知ってるもん」

「そこじゃなくて、王都では知られてないって俺が言っただろ」

「あ、あれ意外だった。まさか知られてないなんて」

「知ってるに決まってるだろ」

「え?」

「カマをかけたんだよ」


 ヴィンスはコップに入ってる水を一口飲んだ。


「あいつはまんまと引っかかって、王都の情報に疎いってことを露呈させたのさ」

「うーん……まだちょっと分かんないかも……」


 キーヴァは、ピンときてないようだ。


「この『前情報』は40年前、大冒険家であり勇者であるノア・ウィリアムズが魔王城から帰還し、語った事から知られるようになった。それは知ってるな?」

「もちろん。孤児院時代にお兄ちゃんが、目を輝かせながら、いっぱい話してくれたよね、『偉大なるノアの魔王城探検録』だっけ?」

「よ、よく覚えてたな……」


 ヴィンスは、不意に幼少期の思い出を語られ、赤面していた。

 咳払いをし、話を戻す。


「実はこの『前情報』、王都が正確な情報と認定したのは去年なんだ」

「ええー、そうだったの⁉」

「仕方なかったんだよ。この『前情報』を持ってきて生還したのが、今までノアしかいなかったんだから」

「あれ、でも去年認められたってことは、知らなくて当然じゃない?」

「確かにそうだな。だが、アイゼンハウアーは言い訳ができない」


 そう言ってヴィンスが取り出したのは、一枚の書類。


「……なにこれ?」


 キーヴァが目を丸くして言った。


「通行申請書」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る