4話 バリーナ城塞にて
きっかり1時間後、馬車は北部のバリーナ城塞に着いた。
古びた見た目ではあるが、この城塞は魔王軍との戦闘における要所の1つである。
馬車を降りると、ヴィンスは息が白いことに気づき、ふと顔を上げた。
眼の前にそびえ立つ名峰ズェーゴ山には雪が積もっていた。
確か、例年よりも10日早い積雪と言っていただろうか。
たった10日ですっかり冬景色じゃないか。
そんなことを考えていたら、身体がブルッと震えだした。
流石に寒すぎると感じたヴィンスは、足早に城塞の中へと入って行った。
中へ入ると守備を任されている老将ディアミド男爵がそわざわざ迎えに現れてくれた。
「お待ちしておりました。さぁ、こちらへ」
ディアミドに案内されながら城内を進んでいく。
城内は石造りで殺風景ではあるが、それが城塞というものだ。
変に着飾っている城塞は大抵ろくな運命を辿らない。
「どうですかな。
一度、部屋で暖まれては? 今日は一段と冷えますから」
白い息を吐きながら、ディアミドが訪ねてきた。
「心遣い感謝します。ですが、すぐに仕事に取り掛かります。
長居しては、皆さんの邪魔になりますので」
「はは、邪魔になどなりませんよ。
魔王が討ち取られたという知らせが入ってから、ピタッと魔王軍の動きが止まりましたからな。今は少々暇ですよ」
ヴィンスはその言葉にハッとさせられた。
そうか、魔王が倒されたということは、魔王軍の動きも止まるのか……。
考えて見れば当たり前のことだ。
だが、それに気づけなかったのは、現場を見ていなかった証拠だ。
この仕事を任せられて正解だったかもしれないとヴィンスは思い始めた。
そして、もう一つ大事なことを思い出した。
「そういえば、留置に問題はありませんか?」
「ええ、ご命令通り。衣食住は過不足無いように対応しております」
「キーヴァ・オドハティは何か言ってますか?」
「いや、特には……まぁ退屈そうではありましたな」
「はは……そうですか」
そう、この城塞にはキーヴァ・オドハティが留置されている。
このような対応をしているのはキーヴァだけではない。
『勇者』と名乗り出てきた他4名も、同じようにそれぞれの場所で留置されている。
留置と言っても、犯罪者として扱っているわけではない。
調査が終わるまで外出を禁じているだけであり、衣食住については手厚くサポートするようにと命令していた。
最善の対応でないことは、ヴィンスも重々分かっている。
だが、なんの拘束もせずに彼らを野放しにするのはあまりにも危険だ。
嘘だとしても、本当だとしても、今の彼ら彼女らは、いろんなところから注目を集めているのだから。
「ここです」
ディアミドが堅牢そうなドアの前で足を止めた。
そして、、数枚の書類を懐から取り出し、ヴィンスに手渡した。
「これは……?」
「キーヴァ・オドハティ殿の調書です。兵士がまとめました」
「あまり接触はしないようにと……」
「そうしていたらしいのですが、兵士が入ると必ず話しをするらしく、嫌でも耳に入ってしまうと」
ヴィンスは苦笑いをしながら書類をめくった。
そこには、いくつかの単語が羅列されている。
「魔獣討伐に四天王攻略……地獄の扉と冥府の扉……そして、魔王討伐と」
「正直、かなり鮮明でしてな。
一部の兵士は彼女が『勇者』だろうと確信している者もおります」
「……どうですかね」
「まぁ、特に魔法が使えるのが信憑性を高めていますな。
やはり、魔法が使えるというのは特別な存在ですからねぇ」
魔法。
この世界に存在する特殊な力のことを総称してそう呼ぶ。
魔族にとっては当たり前の能力ではあるが、我々人間にとっては特殊な能力である。
それを有している人間は大変貴重であり、軍や政界、そして『勇者』となって多くの人々を助けているのが一般的だ。
だが、あくまで“一般的には“だ。
「とりあえず、これは受け取っておきます」
「どうぞどうぞ、お役に立てれば幸いです。では私はこれで‼」
ディアミドが離れていくのを確認し、ヴィンスはドアをノックした。
「どーぞー」
返ってきた声気だるげな少女の声が返ってきた。
ヴィンスはゆっくりとドアを開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます