第2話 カフェにて

 夕暮れの陽光が窓から流れ込む学内のカフェで、僕はノートパソコンの画面を食い入るように見つめていた。画面には、愛里2.0のコードが複雑な迷路のように広がっていた。


 僕は、大学の情報科に通う2年生。名前は、ハルト。内気な性格で人見知り。人工知能作りが趣味で、人格保有型AIに興味あり。


 僕と同じテーブルを囲むマークはくすくすと笑って

「おいおい、おまえのバーチャル愛里、故障したおみくじみたいだったな。中身よりお説教のほうが多かったろ」とナプキンを投げつけてきた。


 こいつは、マーク。僕と同じ情報科の同学年で、よくつるんでカフェで駄弁っている。僕は、マークとのくだらない会話からアイディアを閃くこともしばしばある。


 僕は生ぬるいコーヒーをかき混ぜながらため息をついた。


「うん、わかってるよ。何ヶ月もかけてコード書いただけにさ。結局、コードだけじゃないんだな。」


 マークは椅子に寄りかかって、きらきらした目で言った。


「そうかもな。おまえはポップスターの本質を、つまりあのゴージャスさと計算された完璧さを掴みたかったんだろ?本物の会話とはちょっと違うだろ。」


 彼の言葉が僕の心に響いた。「なるほど、確かに」と僕は考え込んだ。


「うーん、やっぱりダメだったな。愛里2.0は完璧なAIには程遠い…」

と、僕は溜息をついた。


「完璧なんてあり得ないよ。それに、人間だって完璧じゃない。」


「確かに…人間は欠点だらけだけど、だからこそ愛されるんだよな。」


 マークはニヤリと笑って、


「ハルトは面白いアイデアを思いつくよな。完璧なAIじゃなくて、人間らしいAIを作ったらどうだ?」


「人間らしいAI…確かに。もっと人間らしい、ゴチャゴチャした人生を送ったようなデータがあれば…」


 僕は次に向けてのヒントを掴もうとしていた。


「単にデータが足りなくて、パーソナライズしきれなかっただけなのかも」


 マークはスマホを操作しながら、


「そういえば、最近話題のバーチャルYouTuber、炎上系で人気らしいよ。」


 別の話題に早々に移ったマークをよそに、僕は考え込んだ。


「リアルな生活…必要なのは、インタビュー記事、SNS記録やプロフィールだけじゃなくて、より多くのリアルなデータなのかもしれない。」


 画面をぽんぽんタップするマーク。


「どうだ、ハルト?次は炎上系AIに挑戦してみる?」


 僕には次のアイディアが浮かんでいた。


「いや、次はポップスターじゃない。データが足りない。もっと…より大量のデータがある、人生そのもの。等身大の人生を送ってきた誰か。」


 愛里と期待通りのおしゃべりが出来なかったのは残念だったけど、根っからの技術オタクな僕の関心は、人格保有AI実現そのもののアイディアに移行していた。


 窓の外の活気ある街並みに目を移した。人々は笑い、口論し、急いで通り過ぎていき、それぞれが自分だけのユニークな物語を持っている。


「ああ、やってみる価値はありそうだ!ありがとう、マーク!」

と、僕は振り返って言った。


 マークは笑って首を振った。


「おまえは実験野郎だな、ハルト。でもまあ、厄介事に巻き込まれなきゃいいけどさ…」


 たまに話がかみ噛み合わなくなるけど、僕らはいつもこんな調子。


 次のAIモチーフ候補者はまだ謎のままだった。あらゆる可能性が僕の頭の中で渦巻いていた。

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