107話 恩人

「勇人、ちょいちょいっ」

「ん?」


試着室の中から声がしたので、

カーテンの目の前まで行く。

そこから小さい声で美来が

話す。


「他の人いる?」

「いや、いないけど、、

 それがどうかした?」

「できれば他の人には見せたくない。

 勇人にだけ、見てほしい、、」

「またそんなこと言って、、

 揶揄ってんの?」

「違う!あ、そだ」


そうしてカーテンから顔だけ出して

俺の腕をつかんで引き寄せた


「うえっ!?」

「はい一緒に入って〜?」


未来に引っ張られて試着室のなかに

入った。

狭い場所で二人で向き合う。


「どう?似合う?」

「えっと、、、うん」

「ふふっ、よかったぁ。

 これで似合ってないとか言われたら

 どうしようかと思ったっ」


手を後ろで組んでこちらを

上目遣いで見てくる。

あまり直視すると失礼なので

なるべく顔だけをみなければ、、


「似合ってるとかいってくれたけど

 さっきから目ばっかりあってるね?」

「あんま見ないようにしてるだけだよ、、

 俺はそんな変態になりたくない」

「紳士だねぇ」


そういって微笑む。

実際少し見ただけでもやはり似合ってる。

すらっとした未来に合っているし

何より彼女のスタイルが良い。


「なら、これも買おうかな。

 ね、今度海行こうよ!

 この水着着て、一緒に遊ぼ?」

「それは普通にいいと思う。

 他のやつも誘って、

 みんなで行くか」

「、、ふぅ〜ん」


少し頬を膨らませて

俺を見上げて来た。


「なんだよ、、?

 俺なんか言った?」

「いや別に?なんでも

 ありませんっ!

 はい、着替えるから

 早く出た出たっ」

「はいはい、、、」

 

背中を押されて試着室の中から出た。


そのあと、未来が着た水着を

買ってから、その店を出た。

そのあとも、未来は終始ご機嫌で

いつも笑顔だった。

普段の図書室で見るような感じではなく、

年甲斐の女の子のように。

他の店を見る時も、

かなり距離が近かったようにかんじた。


ショッピングモールを出て、

噴水がある公園を二人で

ゆっくり歩く。


「あれ、もうこんなに

 時間が経ったんだ、、、」

「まぁ、色々みて回ったしなぁ、、

 その度に二人で話してたし、、」

「時間忘れちゃうなんて

 小説読んでる時しか経験しなかったのに

 勇人と話すといつもそうだなぁ」


隣を歩く未来が

感慨深いといったふうに

うなづく。


「未来ってさ、小説読む

 きっかけとかあったのか?

 いつも本読んでるみたいだけどさ」

「きっかけかぁ、、

 まぁ、あるにはあるよ。

 元々、私外で遊ぶの好きだったし」


意外だった。

どうしても静かなイメージが先行して

いたので、今日のような感じは

イメージできなかった。

元は元気なタイプだったのだろうか、、

では、何故今は違うのだろうか、、


「知りたい?」

「気になる。でも、

 無理に聞かない」

「やっぱ優しいね」

「違う。未来が俺にしてくれたことだ」

「え、、?」


きょとんとした未来を連れて

俺は公園のベンチに向かう。

そうして二人で並んで座り、

未来の方を見た


「あの時未来が俺の話を聞いてくれたから、

 今の俺がいる。

 助けてくれたその未来に対して、

 誠実であることなんか、

 俺にとっては当たり前なんだ」

「私はただ、知りたくて

 強引に話を聞いただけだよ、、

 話してくれたのは、勇人じゃん」

「その強引な優しさに

 俺は救われた」


あの時、話を聞いてくれて、

俺も心が軽くなった。

やりたいサッカーを封じ込めていた俺。

そんな俺の話を聞いて、

少しでも気持ちを楽にしてくれた。

一人にさせないと言ってくれた。


「話せないなら、話さなくていい。

 でも、もし一人で何か悩んでたり、

 止まったりしてるなら、

 俺は未来を一人にさせない。

 君がくれた言葉だ」

「勇人、、、」



「全部決めていい。話すも話さないも。

 俺はどんな答えや過去でも

 未来を尊重する。

 恩人、、だしな」


いろんな人に救われた。

中学の時も、意識できてなかっただけで

色々な人に世話になっていた。

自分一人の力、それを形作るために

捨てたものが今、

高校で優しい人たちによって

再生され始めている。


「勇人ってさ、、

 そういうところあるよね」

「そういうところ?」

「無意識な優しさだよ。

 人のことを無意識に助けちゃう。

 いつも、自分のためって

 おもってるでしょ」

「まぁ、、」



「全部自分のためとか言っておきながら、

 人を助けてる。私はそんな勇人の優しさに

 惚れた。だからこそ、そんな勇人の

 友達であることが何より嬉しい、、」


はにかむように笑う

綺麗な顔が夕焼けに照らされ、輝く。


「それと同時に、、怖い。

 勇人と、話せなくなることが」

「怖い、、?」

「うん、、、勇人はもう

 みんなに知られてるし、クラスの人とも

 仲が良い。話す機会も、

 私は図書室だけ。そんな現状を

 変えたくて、今日誘ったんだよ、、」

「なるほど、なら、

 呼ばれでもしたらすぐ飛んでこうか?」

「なにそれっ。でも、ありがとっ

 そう言ってくれて安心、、」


隣に座っている未来が

頭を俺の肩にのせる

横からいい匂いが

鼻腔をくすぐる。


「安心だ。勇人がいれば安泰

 一家に一人欲しい」

「俺は家電製品じゃないんだけど、、」

「そのくらい頼りにしてるって意味。

 なぁんでわかんないかなぁ、、」


夕焼けに照らされて、その二人は

静かにお互いの体温を感じていた。





そう、その二人を見ていた

者がいるとも知らずに

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