108話 熱気
夏休み某日、
陽千高の第一グラウンドにて
その日、猛暑の中サッカー部が懸命に
練習をしていた。
「テンポ上げろ!」
「マークしっかり!」
「気持ち切り替えろッ!」
どの生徒にもやる気が見られ、
暑い日差しに負けないほどの熱気が
グラウンドを満たしている。
お互いに声を掛け合い、お互いが
強くなるために奮闘する。
そこは純粋なサッカープレイヤーの素養
であり、団体スポーツでは欠かせないものだ
「千葉こっち!」
「おうッ!」
無論一年である彼らもそう。
むしろ一年生が学年の中で1番、
やる気と熱が溢れていた。
「橋本!」
「よっしゃきた!」
千葉洋介からのパスを受け取り、
橋本翔がサイドを駆け上がる。
それに応えるように
中央に人が密集していく。
その中の密集の少し後ろ、
密集とは違う場所でパスを待つ
高鳥周
「やるじゃんその動き!」
その高鳥に鋭いクロスを上げる
そのクロスをそのまま、
高鳥周はダイレクトで
ゴールに叩き込んだ。
「ナイシュー、、」
かなり鋭いスピンクロスだったが、
完璧に合わせて来た。
「ナイスクロス橋本。
その調子で頼むぜ」
「おう、しっかしまぁ、
全員やるきになっちゃって」
「お前が言えることじゃないだろ?」
一年生が燃える理由はただ一つ。
工藤勇人の存在と力を
間近で見せられたからだ。
「いえーい!これで俺ら3点目!」
「油断すんな夜羊、お前ら。
まだ終わってねぇんだぞ」
「えぇ〜?少しは喜んでも
いいじゃ〜ん」
高鳥と肩を組んで
喜ぶ夜羊。
それを宥める千葉
「高鳥、今のゴール。
どう思った?」
「自分でも良いゴールを入れたと
思ってる。ただ、、、」
質問をした千葉をはっきりとみたあと、
高鳥周は言った。
「勇人が敵にいたなら、
間違いなく止められてた」
「だろうな。そんなゴールじゃあ
いつまで経ってもアイツに勝てない。
まだだ、まだ俺たちはアイツに
かってねぇんだ、、」
視野が広い工藤がいたなら、
あれだけ後ろで待機しているところを
見ればすぐ止められる。
密集する前から高鳥の動きに
違和感を感じて、目を離さないだろう。
工藤なら、それくらいの読みは
お手のもの。
「だからまだ先を見据えるんだ。
アイツがこのサッカー部に入って
くるんだぞ、置いてかれてもいいのか?
俺らなんか置いていくぐらい、
なんてことないだろうからよ」
「確かに、工藤ならやりかねないね。
ま、正直ワクワクするけどねっ!」
「ワクワク、、、?」
夜羊に対して呆れたような
目を向ける橋本。
「だって、いよいよ工藤も加わるなら
もう無敵じゃん♩」
「まぁ、、、それも分かるけどよ、、」
流石に恥ずかしいので皆には
言えないが、千葉洋介もかなり
楽しみではある。
工藤とはいつも敵として戦っていた。
彼の持つ思考力と読みに何度
苦渋を飲まされたか分からない。
だがそれと同時に、その力が
味方になればどれほど良いかと思っていた
「千葉のトップ下の組み立て。
橋本の器用さと視野が広い工藤の
ダブルボランチ。フォワードにも
俺や夜羊を始めとして
いい感じのやつはいる。
こりゃ、、いけるぞ、、、!」
「それに、千葉と工藤の連動っしょ?
やばいねこれはっ!!」
テンションが上がって
肩を組もうとする夜羊を
千葉は払いのけた
「暑苦しい、、、!」
「ワクワクするっしょ?」
「はぁ、、なら、
精々その工藤に落胆させないためにも
もっと動けよ、、お前ら。
工藤との連動を実現させるために
動きをもっと洗練させろ。」
「「おっしゃ!!」」
工藤のパスワークを完璧に活かす為、
それぞれのオフザボールを
もっと練習させる。
そうすれば工藤と自分の
選択肢も無数になり、
さらに攻撃の火力は増すだろう。
そして、
「そんなこと言ってるけど、、
千葉も抜かるなよ?
お前も工藤と連動できれば、
まじで強ぇ武器になるぞ、、」
「あたり前だ。
俺ももっとレベルあげる。
工藤も置いてくぐらいな。
お前ももっと動けや高鳥?
工藤のパスがある状況でのお前の
強さってのを俺に見せてくれよ?」
「はっ、上等だクソ指揮者」
こうしてサッカー部の生徒たちは
さらに練習に熱が入る。
「それにしても、攻めに偏ってんな、、
橋本の器用さと工藤のあのディフェンスが
あるとは言え、相手は高校生だ。
それだけじゃ心許なくないか?」
宮本が近づいてきて
千葉にそう語りかける。
「それに関してはこれからの俺たちの
課題だな、、
俺ら全員の守備の面での底上げ。
だけど、、いい感じの肉壁に
なりそうなやつならいそうなんでな、、」
「は、、?そんなやついたか?」
「多分そいつ自身が
気づき始めてる。
自分の強みをな、、、」
そういってとある男の方を見る。
この紅白戦。
相手は上級生ばかりの中、
それでもボランチの位置で敵を
ことごとく止めていた男だ。
その男はもともとサイドハーフだったが、
あのクラスマッチを得て、
そして工藤の助言を得たことで
ポジションのコンバートができている
ように感じた。
「なるほど、、、確かにあれが
中央にいるだけでも厄介だし、
センターバックにいても高さがあるから
競り負けない、、、か」
「守備の要として働けるなら、
それがいい。今までの動きから
一新してあの戦い方ができるなら
良い壁になる」
攻めではなく守り。
技術の面をそのまま守備に使い、
攻めの経験があるからこそ、
敵の攻撃に対して読みもできる。
そんな長身の男は、
千葉の視線に気がつき
近くに来た。
「千葉、あとそれから高鳥、、
ついでに夜羊も、、」
「はぁ!?俺ついで!?」
「いちいちうるせぇ、、、
んで、どうした牧田?」
「頼みたいことがあるんだ」
それぞれの生徒に違いはあれど、
それぞれが各々の形で成長していく。
その中でも一際成長の度合いに目を見張る
ものがいた。それが、、
この長身の男、牧田大二郎である。
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