106話 仮初の

「なんか遅くね、、、?」


勇人は試着室の前の椅子のソファに

座ってそう小声で独り言を言った。

ソファの背もたれに身を預け、

少し上を仰ぐ。


「あんまし気に入ってもらえなかったか、、

 まぁ、めちゃくちゃシンプルに

 しちゃったし、、、」


清水美来の細いスタイルに合うかと

安直に清楚な感じを選んだのが

間違いだったか、、?


「女子の服なんかもっと分からん、、

 自分のことで手一杯なのに、、」


自分のオシャレでさえあまり

分かっていないのに、

誰かに似合う服を考えるなんて

もっと分からない。


それが女子ならなおさら、


「ごめん清水さん、、、」

「なにがぁ?」

「え、、?」


声がしたと同時に試着室のカーテンが

開かれた。

そこには、勇人が選んだ服を着た

清水美来がいた。


「ふふん、どう?

 着てみたよ〜!」

「おぉ、、、」


勇人の心配をよそに、

清水は笑顔で勇人に

近づいてそこでくるりと

ひと回転する。


「うん、いい感じ!

 感想は?」

「思いのほか似合ってる、、!

 すげえな、、

 なんでも似合うんじゃね?」

「そう?やったねっ」


その場所で小さくガッツポーズを

する清水美来


「ま、工藤くんが選んでくれたもの

 だけどねぇ。

 センスあるじゃん!」

「俺のセンスじゃないよ。

 清水さんが可愛いからな」

「へっ!?」


当たり前のことを言うように、

はっきりと目を見て勇人が

褒める。


「可愛いから、そりゃなんでも似合うよ」

「え、、なんでそんな、

 いや、その、、、」


しどろもどろになって

顔を赤くする清水美来。

それを見て、、


「っふ、、」


勇人は少し笑った。


「ちょっと!?なんで笑ったの!?」

「いや、清水さん顔真っ赤だからさっ。

 可愛いなって思って」

「だから!もうっ、、、」


勇人の頭をゆらゆら揺らして

講義する。


「うあうあ」

「もう、、もうっ!

 こんの、、女子の純情を

 弄んで、、!」

「さっきの仕返しだよっ。

 清水ちゃん?」

「むっ!」


頭を揺らすのをやめて

座っていた勇人を立たせた。

試着室の荷物を持ったあと、

勇人の手を握り、導いていく。


「あら、どした?

 元の服に着替えないのか?」

「うん、この服気に入ったし、、

 でも、、、」


手を繋いだ勇人の方を見て

ニヤニヤし始める。


「なんか納得しないし?

 もっとドギマギさせてやる、、」


そうして会計を済ませたあと、

二人は

手を繋いで別の場所に行った。










「うっそぉ、、、

 ここに入んの?」

「へへんっ。

 びっくりした?」


清水美来に導かれるまま

歩いた先にあったのは

水着の専門店だった。


勇人が手を離そうとしたので

手を強く握る。


「逃しませんよ?」

「ここは洒落にならないっ、、、

 たのむ、悪かった、、」

「ダメでーす!

 水着も見てもらいたいから

 一緒に入るよ?私と一緒なら

 多分カップルに見えるから大丈夫」

「大丈夫ではないだろ、、」


強引に勇人と手を繋いで

中にはいる。


「はい、私に似合うやつ

 また選んで?」

「や、こればかりはほんとに

 わかんねぇよ、、、?」

「うん、そう言うと思ったけどね?

 なら、、」


そう言ってどれか選ぼうとした

ところで、店員の人が

二人に声をかけた


「何かお探しですか?」

「あ、そうですね、、、

 そうだなぁ、、」


少し考えたのち、

こう答えた


「ビキニ探してて、、」

「それならこちらですね!

 案内しますけど、、

 彼氏さんはどうされます?」

「え、、彼氏?」

「はいっ!彼女さんの

 水着を一緒に選びにこられたのかと

 思ったんですが、、」


そう言われて勇人はその勘違いを

解こうと思ったが、、


「そうなんですよー!

 全く私の彼氏はここにいると

 緊張して落ち着かないみたいなんです、、

 ね?勇人」

「え、、ちょ、、」

「ふふっ、ウブな彼氏さんですね。

 緊張しなくてもいいですよ?

 結構カップルで来られる方も

 多いので」


いやそこじゃない、、と

勇人は心の中で言った。

清水の方を少し見た時、

してやったりといった顔をしていた。


「さ、緊張してないで行くよ勇人!」

「待てってっ。もう少し

 落ち着いて、、」

「やでーす!」

「仲良いですねっ、、!

 ビキニはこちらにあるので

 ごゆっくりどうぞ〜?

 奥に試着室もあるので、

 彼氏さんに見せてあげてくださいね?」

「はいっ!ありがとうございます!」


そんな勇人にとっては要らぬ気遣いをして

店員はその場から離れていった。


「はい勇人、いまならなんでも

 着てあげるよ?

 特別に、、ね?」

「う、、、」


耳元に息を吹きかけて

囁くように言う。


「勇人が着せたいの、、

 なんでも着てあげる、、

 サービスだよ?」

「いや、遠慮して、、」

「とか言いつつ、何か私に着せたいの

 あるんじゃないの〜?

 例えば、、あれとか」


そう言って指差した先には


「ぐっ、、、」

「あれとか、、どう?」


視線の先には、

黒色のストラップビキニがあった


「想像しちゃう?

 私があれ着てるの。

 いいんだよ?着て欲しいなら

 着てあげる。私が気に入ったら

 買ってあげてもいい、、、

 勇人と遊ぶ時に着てあげるよ、、?」

「だからさ、変なこと言うなって、、

 今日テンションおかしくね?」

「いいじゃんたまにはさ?

 私だって、こんなふうに誰かと一緒に

 水着選んで、その場でその人に見せたい」


明らかにたかが外れている。


だが、男のサガというやつだろうか、、

無意識のうちに勇人も考えてしまう。

あれを着ている清水美来の姿を


「可愛い、、、!

 顔真っ赤っ、、!」

「うっさいよ、、、!」

「うん、あれ着る!

 き〜めたっ!」

「まじで言ってる、、、?」


その黒いビキニを持って

試着室の方に向かう。

その時も二人の手は繋がれたまま。

側から見れば完全にカップルだ。


「まぁ彼氏の要望だし?

 彼女としては叶えてあげたいもんねぇ」

「その設定いつまで続くんだ、、?」

「さぁ?でもしばらくは

 このままで、、、!」


そういってとびきりの笑顔を

浮かべる。

その顔を見て、勇人も少しだが

気持ちが軽くなった。

何故だろうか、、、どこか、、


「じゃ、待っててね?

 覗いたらダメだぞ〜?」

「そんなことしないよ、、、

 着替えるなら早く着替えな?

 未来」

「、、、、うんっ!!

 すぐ着替えるっ!待ってて勇人!」


さらに笑顔になった未来が

カーテンを閉めたあと、、

ほてった顔をひっそり仰ぐ勇人だった。

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