105話 真夏の友情
「どう、美味し?」
「うん、思ったよりは俺も馴染みのある
味だったわ。美味い」
世界的にも有名なコーヒーの
チェーン店。
そこで俺は初めて飲み物を買った。
「工藤くん、スタバ行ったこと
なかったんだね。
コーヒーとかよく飲んでるのに」
「興味というか、行ってみたいとは
前から思ってた。でも、なんか
勇気出なくてさぁ、、」
さすがに、あのオシャレな雰囲気に
自分が浮かないかと心配になっていた。
「そう?結構様になるよ?
工藤くんかなり落ち着いてるし、
別にオシャレじゃないってわけでもから」
「でも、落ち着かないんだよ、、、
あの静かすぎる雰囲気とかさ、、
一人じゃ流石に、、」
「ふふっ、これは良いこと聞いたっ。
なら、私と一緒ならいいじゃん。
また二人で行くなら、問題ないでしょ?」
「それなら、、そうだな」
正直心強い。
どうにも最近、新しいことを始めることに
億劫になっている。
だからこそ、こうやって連れ出してくれる
人がいるだけで新しい気分が味わえる。
「また行こうね?今日は奢られたけど、
次は私が奢ってあげるっ!
毎月新作も何個か出るから、その度に
二人でっ!」
「へぇ、毎月出るんだな、、」
それなら、みんなが度々学校で
話しているのもわかるかもしれないな。
毎月何個か新作が出て、そのたびに新しい
味が楽しめるわけだし、、、
「ハマりそうだけど、
いかんせんカロリーが高そうな
感じするな」
「ぷっ、、
そんな女子みたいなっ、、
カロリー気にするんだ?」
「そりゃそうだろっ。
ていうかなんで笑うんだよ、、」
口を抑えて笑いを堪える清水さん。
「だって、いっぱしの乙女みたいなこと
いってるからさっ、、
もう、工藤くんはふとんないって〜」
そういって俺の二の腕を
触って来た。
なんか今日はやけに元気だし
ボディタッチがおおいな、、
「清水さんこそ、なんでそんな
気にしないんだよ、、
女子だし、飲んでばっかじゃ
体重増えるぞ?」
「あっ!?そんなこと言って、
私はそんなバクバク食べたり
飲んだりしませーん!」
ポカポカ俺を軽く
叩いてくる。
「まぁ、行った分だけ動けばいいか。
普通に美味しいし」
「うん、気に入ってくれたならよかった、、
それにしても、、」
清水さんは周りを見て言う
「なんでこんな暑いのに外で
飲んでるんだろ私たち」
「だって店の中は俺には無理」
「この意気地なしっ」
「えぇ、、、」
仕方ない、
陰キャ気質の自分には
無理なのだ。
「案外可愛いとこあるよね。
なんでそんなこと気にしてるのかって
私は思うけど」
「可愛くないだろ、、」
「可愛いですよ、工藤ちゃん?」
「さてはバカにしてるな?」
「ふふん、そんなことないよ〜?」
こんなふうに思い切り笑っている
清水さんは初めて見たな。
いつも図書室にいてしずかに微笑んでいる
印象が強いから、
珍しく感じる。
「よし、じゃ次行こうか!」
「次?どこに、、」
「行ってからのお楽しみっ!
と言うか、今日はいっぱい付き合ってよ?
私のこと忘れてたんだから、
その分埋め合わせしなさいっ!」
「忘れてはなかったんだけどなぁ、、
まぁいいや、うん。」
そうして俺は清水さんと二人で
ベンチから立つ。
「埋め合わせ、ね。
なら急いで行くか」
「うん!」
まだまだ暑い日が続く。
それと同じで、目の前の彼女も
テンションが上がっているんだろう。
清水さんと同じで、俺も。
そうして勇人たちが次に行った場所は
服屋だった。
「俺でほんとにいいのか?」
「工藤くんだから良いんじゃん?
どの服が私に似合うか見極めるのが
仕事ですっ!」
「了解ですお嬢、、」
「お嬢、、、?」
服選びにつきあって欲しいと
清水は勇人に言う。
そうした自分の体を見下ろす
「ファッションショーみたいな?
私って大体女子としか遊ばないから、
たまには男子に意見でも聞いておきたい
なって」
「なるほどね、、
なら、俺じゃなくても、、、」
「あぁ〜私また忘れられるのかぁ」
「だから忘れないし
忘れたことないって!?」
勇人にそう言ってわざとらしく
悲しそうな声を出す。
「はいはい、俺が見るよ。
だから早く選びなよ」
「いや、工藤くんが選ぶんだよ?」
「は、、?」
首を傾げて不思議そうな顔をする。
「工藤くん好みにできちゃうんだよ?
今なら私を好きにできちゃうよ?」
「なんか言い方が、、」
「わ、えっちな視線感じる」
「そんな気はないっ!」
「ふふ、ほらほらこっち見なよ〜?」
顔を背けた勇人の頬を指でつつく。
清水美来はこうやって男子に
服を選んでもらうことは今までなかった。
だが、
「信用してるからこそ、
選んで欲しいんだって」
彼と関わって数ヶ月。
彼は自分を信用してくれる人を
無下にすることはない。
そのことを清水美来は知っている。
工藤勇人とこうやって気軽に
話せる機会はもうあまりないのかも知れない
色んな意味で目立っている彼は、、
いつも隣に誰かがいる。
だからこそ、図書室に来て
自分と話してくれることがたまらなく
嬉しいと感じていた。
純粋に彼といるのは楽しいと感じていた。
「うぅ〜ん、、、
似合う服かぁ、、、」
今もこうやって、
自分のために真剣な顔をして選ぼうと
してくれている。
その他人を思いやる気持ちこそ、
彼が色々な人から好かれる理由なのだろう。
そんな彼なら、
自分も怖くない。
どれだけ恥ずかしいことをしても、
見離さないとわかっているから。
自分のことを、、忘れないと分かるから。
「これかなぁ、、」
「ならさっそく、、」
選んでくれた服を持って
試着室の中に入りカーテンを閉じる。
彼が選んだ服を着て
一度鏡を見た。
「おぉ、、、いいかも」
透明感のある服装。
白いTシャツをインナーに、
カーディガンを羽織る。
紺色のボトムスを下に着ている。
清涼感が溢れているというか、
見た感じ印象が爽やかな雰囲気だ。
「こんな感じのが
好きなのかなぁ、、」
彼のことを考えて、、
ふと、気づいた。
「あ、、、、」
鏡に映る、、
少しはにかんだような笑顔。
頬が少し赤くなった自分を。
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