104話 寂しがり屋の苦悩
私服に身を通し、
俺は夏の暑い昼時に家を出た。
今日はとある約束があり、
これからカフェに向かうところだ。
俺自身、カフェなんて行ったことは
ほぼない。
どうやら誘って来た人物の
おすすめの場所のようで、
かなり楽しみにしていた。
暑い日差しを受けながら、
足を進めていく。
俺は案外歩くのが好きだ。
中学の時、隣の校区まで毎日のように
遠い距離を歩いていたこともあり、
それが癖のようになったのかも知れない。
「だけど、、、
さすがにあっちぃな、、、」
これではたどり着く前に
汗をかいてしまいそうだ。
「待たせるわけにもいかないし、
早く行くか、、、」
なるべく早く、そして汗を
かかないように目的の店に急いだ。
木製のドアを開け、その店に入る。
からんからんと鈴が鳴り、
空調が効いた涼しい室内に入る。
店員の女性の人に待ち合わせだと
伝えたところ、
奥の方から手が上がった。
そのまま手を上げてくれた
待ち合わせの人物の場所に移動し、
対面に座った。
「や、元気してる?」
「おう、それなりには、、」
「ならよかった。すいません、
アイスコーヒーを一つ」
そう店員の人に伝えて、
待ち合わせ相手である清水さんが
俺を気遣う。
「暑かったでしょ?ここまで来るのに。
だから、いつでも頼めるようにしてたの。
ここ、私の友達がバイトしててね」
「そうなんだ、、
なら、さっきの人も?」
「そっ、中学の友達っ!」
先ほど俺を店の中に案内しようとして
くれた店員の人は清水さんの
友達だったようだ。
「なんか、雰囲気がいつもとちがうな」
「あ、触れてくれるんだねっ。
どう?結構頑張ってみたんだけど、、」
いつもは降ろされている綺麗な
ミディアムヘアーは頭の後ろで
結ばれている。
私服姿は初めて見たが、
俺が持っていた清水さんのイメージとは
かなり違って見えた。
少しゆったりとしたボーダーのTシャツと、
明るいデニム地のショートパンツだ。
「こう見ると、活発そうな印象を
持ちそうだ」
「うん、最近は暑いから、
たまにはこういった軽めの服装も
いいかなって思ってさっ」
「暑いのは同感だ、、
どうにも軽い装いで出掛けたく
なるよな」
そう言う俺も、今日は
かなり軽めだ。
「もうちょっとおめかししなくて
よかったの?せっかく女子と
会うんだから、もっとバシッと
決めてくるのかと思った」
「どうにも暑くて、そんな気もなぁ、、、
失礼かも知れないけど、、、」
「ま、失礼ではないよ?
軽めでも結構気を使ってるのは
わかるから」
俺の服装を一瞥してそういった。
意外そうな顔で俺に問いかける。
「工藤くんって、オシャレするんだね。
なんかこう、サッカーばっかで
オシャレさのカケラもないのかと
思ってたっ」
「実際前まではそうだったよ?
気を使い始めたのなんて今年から」
「ほう、、、、
それにしては違和感なく着てるね。」
少し疑うような顔をして
こちらを見てくる清水さん。
俺の服は半袖のオープンカラーシャツに
ストレートジーンズ。
最近はこのシンプルな組み合わせが
楽で大体これを着ている。
「誰かに教えられたの?
まさか、、、、」
「はい、お待たせしました〜。
アイスコーヒーです、、」
「あ、どうも」
清水さんが何か言う前に
店員の人が来てアイスコーヒーを
持ってきてくれる。
その店員の人は清水さんの方を見て
意外そうな顔をした。
「未来の待ち合わせの人って、、
男子だったんだね、、、」
「そうだよー。珍しかった?」
「そりゃそうだよ、、
いつも本読んでたから、男子と
仲良いとこなんて見たことないし」
「まぁ、男子が私と仲良くなることは
少ないだろうなぁ、、
本読む男子なんて案外少数だろうし」
確かに男子が読者を趣味としている
ケースは少ないだろうな。
実際、あれだけ図書室も閉散としている。
「同じ高校の人なの。
工藤くん、私の友達っ。」
「へぇ、、、、」
今度はこちらをみて
何かを考える。
少し気まずいなと思っていたら、
話しかけられた。
「なんか、イメージと違う。
だって、陽千高の人でしょ?
もっとこう、、わいわいする人ばっか
だと思ってたからさ」
「まぁ確かにそんな人は多いよ?
でも、案外工藤君みたいな落ち着いた
人もいるからね。」
清水さんがちょっとした補足をした。
「そっか、、、よかった。
未来がそんな場所で馴染めるのかって
思ってたけど、それならいいや。
よろしくね?工藤くん」
「うん、よろしく」
「私は外村加奈。同い年だし、
軽い気持ちで話しかけてよ。
あ、でも値引きはしないからねっ?」
「今のところそれは大丈夫。
コーヒーありがとう、
ありがたく頂くよ」
「はぁーい」
そう返事をして外村さんは
別の仕事に移るため
カウンターの方に向かった
「あれで結構めざといというか、
色々見て動くタイプだから、
工藤くんと似てるかもね」
「そうなんだな、、
高校は?どこに行ってるんだ?」
「日向坂だよ。あの」
「え、、まじか、、?」
日向坂といえば、ここら辺では有名な
進学校だ。
偏差値が高くて、もともと女子校だった
お嬢様学校が最近共学になったことで
できた私立の高校だ。
偏差値が高い代わりに、
女子のレベルが高いとか言われてるのを
耳にしたことがある。
「あったまいいからなぁ、加奈は」
「あそこってかなり偏差値高いだろ、、
相当勉強しなきゃ通らないだろうに、、
頑張るなぁ、、、」
「昔から努力家。
そこも似てるかもねっ?」
進学校だし、将来的に有利らしいので
希望する人は多いらしいが、
元々狭い門の場所。
行ける人はやはり少数だ。
「それより、工藤くん。
こんな感じで話すの結構久しぶりだよね。
クラスマッチの前くらいから、
色々あって話せなかったじゃん?」
「まぁ、、ね。クラスマッチの練習とかも
あったし、何よりそのあとが結構
大変だったよ、、、」
「遠くからだけど、見てたよ?
勧誘されてたね」
色々な部活から誘いがあったことは
すでに知っているようだ。
「もう、気軽に話せなくなっちゃったなぁ」
「そうか、、?そんなこと
ないと思うけど、、、」
「工藤くんから見たらね、、、
でも、私として話しかけるのに
勇気いるんだよ?」
辟易したといったふうに
首を左右に振る。
「いつもクラスの人に囲まれてて、
いつだって誰かと一緒にいる。
だから、話しかけようにも
話しかけらないの!よりによって、、
図書館にも来てくれないしっ!」
「あぁ、それはごめん、、、」
「今日だって、誘うのにも
ちょっと躊躇っちゃったもん、、、
迷惑じゃないかなって、、、」
意外と繊細なのかも知れない。
そこまで気を回そうとしていたのか
「だから、来てくれるか不安だった、、
返信が来た時、嬉しかったよ。
私のこと、忘れてなかったんだって」
「当たり前じゃん。友達だろ?
確かに色々関わる人とかは増えたけど、
それでも清水さんを忘れることはない。
断言できる。」
こういってはなんだが、、、
なんか寂しがり屋というか、
心配性なのかもな、、
「それに、まだまだおすすめ聞きたい。
また俺は清水さんから聞いた本
読みたいしな」
「そっかぁ、、、よかったぁ、、、」
「なんでそんなこと思うんだよ。
友達のこと忘れるわけないだろ?
俺の読書仲間の清水さん?」
「ふふっ、それなら安心だっ!」
気に病むことなんかないのに、、
「ならさっ、これから二人で
出かけない?一緒に買い物とかしよっ?」
「うん、そうしようか。
久しぶりに話したし、その分を
巻き返すってところか」
「そう!よし、そうと決まれば
さっそく行こうっ!」
そんな大切な友人が笑顔なのを見て
俺も心が軽くなるのを感じる。
そう、友達とはこんな感じで
軽い感じがいい。気負う必要もない。
不安そうな顔なんて、
きっと彼女には似合わないから、、
「いこっ!工藤くん」
「おうっ!」
寂しがり屋の友人の心配を
吹き飛ばすように、暑い日差しが
外を照らしていた。
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