103話 指きりげんまん

「今話していた人、、

 あまり声は聞こえなかったが、

 口ぶりからして協会の方だろう?」

「えぇ、まぁ」

「そんな方とコンタクトが取れて、

 尚且つそんな協会の方に誘われた形で

 イベントに参加する、、」


そんな考察をしながら

俺の目の前にいる美希ちゃんの

お父さんは俺を見据える。


「私の勘違いなら本当にすまない。

 だが、どうにも違和感というか、

 明らかに一目置かれているだろう?」

「確かに、協会の人の連絡先を

 知ってて、普通は一般の人が

 参加させて欲しいって言う

 イベントに、逆に参加してくれって

 お願いされてるわけだからね、、」


お母さんの方も違和感を感じて

こちらを見てくる。

ちなみに俺の隣にいる美希ちゃんは

首を傾げている。


「勇人君、やっぱり君があの

 工藤なのかい?サッカーをあまり

 知らない私でも、名前だけは知ってる」


思い出すように、

噂で聞いたであろうことを

話し始める。


「サッカーで凄まじい活躍をしている

 中学生がいるとかで、友人から

 話しを聞いたことがあってな、、

 なんでも、上級生相手でも圧倒できる

 くらいだと、、」

「あ、私も聞いたことあるよ。

 私は名前は知らなかったけど、

 凄く強い子がいるっていう話は

 有名だったよ」

 

お母さんも心当たりがある様子。


そうか、、、

そんなに色んな意味で注目を集めていた

らしい。

昔の俺は


「まぁ、、、、そうですね、、、

 その工藤は、、多分俺のことかと、、、」

「そうか!!それならよかった!」


そういった矢先、

嬉しそうな顔で俺の手を握り

握手をする。

気分が上がったような顔をしている。


「なら安心だな、、

 正直、私はそのイベントには

 行けなさそうなんだ。

 仕事があるからな、、」

「あ、そうなんすね、、」

「だから、そんな君なら美希を守って

 くれそうだとおもってなっ!」

「なにから守るんですか、、、?」


なぜか分からないが信頼されたらしい。


「私から改めて頼むよ。

 美希のことをな、、

 怪我だけはさせないでくれよ?

 私の可愛い娘だからなっ!」

「はい、最大限気を遣います。

 いい思い出になるように俺も

 頑張りますよ」

「ありがとう、、」


ほんとに親バカなんだな、、、


「お兄ちゃんって、

 有名な人なの、、?」

「少し、、、ね。それより、

 楽しみだな美希ちゃん。

 風邪ひいたりしないように、

 元気でいてね。

 あと、お母さんとお父さんの言うことも

 ちゃんと聞くんだよ?」

「うんっ!わかった!」


満面の笑みを浮かべて

こちらを見る。

どうやら完全に機嫌は良くなったみたいだ。


「では、俺は帰ります。

 イベント楽しみにしてます。

 美希ちゃん、それじゃあね」


俺は椅子から立ち上がって

帰ろうとしたが


「え、、、、お兄ちゃん、、

 帰っちゃうの、、、?」

「う、、、」


帰って練習の続きをしたいんだが、、

泣きそうな顔を見ると罪悪感が、、、


「はい美希、お兄ちゃんはこれからも

 いっぱいすることがあるの、、」

「することって、、、?」

「勉強だよ。

 美希ちゃんにサッカーを教えるために、

 サッカーの勉強をね」


勉強というか単純に練習するわけだが、

そう言った方が美希ちゃんも

わかりやすいだろう。


「ごめんな?お兄ちゃんも勉強

 頑張るからさ、美希ちゃんも

 サッカー思いっきりできるように、

 宿題を終わらせておくんだよ?

 お兄ちゃんと約束しようか」

「うん、、、、」


椅子に座っている美希ちゃんの

小さな小指と俺自身の小指を

交わし合う。


「ゆびきりげんまんだ。

 宿題頑張ったら、お兄ちゃんが

 サッカーを教えてあげよう。

 きっと誰よりも上手になるよ?」

「ほんと、、?お兄ちゃんと

 またお話しできる?

 お兄ちゃん、どこにもいかない、、?」

「行かないよ。だからこその約束だ。

 お兄ちゃんとまた会うまで、

 美希ちゃんもがんばれ。

 そしたら、二人で一緒にサッカーしよう」

「うんっ!美希頑張る!」


小さな小指と約束を交わし合う。


「はい、ゆ〜びきりげ〜んまんっ、

 うっそつ〜いたら針千本の〜ますっ」

「ゆ〜びきったっ!!」


純粋な子である。

この子の笑顔を守るためにも

頑張らないとな

最後に美希ちゃんの頭を撫でて、

俺はその場を後にした。












「美希、お兄ちゃんにまた会う為に

 お勉強がんばろうね?」

「うんっ!!」

「えらいぞ美希!

 それでこそ私の娘だ!」


最近の幼稚園では宿題が

出されることもある。

我が子は大丈夫かと心配していたが、

どうやら心配無用のようだ。


「お勉強がんばって

 お兄ちゃんびっくりさせる!」

「ふふっ、そうだね?」


すっかり彼のことを

気に入ったようだ。

そんな彼に改めて感謝しながら、

その両親は我が子の成長に

思いを馳せた。

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