102話 心配

「ごめんなさい、、、

 無駄に時間をとらせてしまって、、」

「ほんとにすまないな、、

 こんなものまで、、

 改めてありがとうな勇人君。」

「いえいえ、そんな大袈裟な」


俺は帰り道の途中にばったり

会った親子と大型ショッピングモールの

フードコートに来ていた。


「飲み物まで、、、

 美希、お兄ちゃんにありがとうって

 ちゃんと言った?」

「うん。いった」


対面にいるお母さんから目を逸らして

俺を見上げてくる。

ある程度機嫌は良くなったみたいだが、

未だ喧嘩は継続中らしい。


俺の隣にちょこんと座って

ジュースをストローでちまちま

飲んでいる。


「それで、なにがあったんですか?

 あれだけ走って逃げてましたし、、

 なんか駄々こねてましたけど、、」

「少し長くなるぞ?勇人君、、

 色々あってな、、」

「丁度俺も暇してたので大丈夫ですよ。

 聞かせてください」


そうしてお母さんとお父さんから

事情を聞いた。


どうやら3人で買い物をしている時、

ふいに掲示板に載っているイベントの

ポスターが美希ちゃんの

目に入ったらしい。


それに興味を持った美希ちゃんだが、

記載されているそのイベントは

美希ちゃんの年で参加できるかは

分からなかったらしい。


「イベントの内容が内容だから、

 私たちもどうしようか少し考えてね、、

 美希は女の子だし、参加できたとしても、

 もしものことがあったらと思って美希を

 説得しようとして、、、」

「こうなってしまったと、、、」

「ふんっっ!」


不参加の方向に舵を切って

美希ちゃんを説得しようとして

こうなったらしい。

子供の好奇心を大人の理性で

抑えるのはやはり難しいようだ。

子供を持った大人の苦労を察する。


「ちなみに、そのイベントっていうのは

 何のイベントなんですか?

 さっきの口ぶりからして女の子が

 あまりしなさそうなことに感じました

 けど、、」

「サッカー!!」


お母さんに聞いたつもりだったが、

隣にいた美希ちゃんが元気よく

俺の方を見て声を上げた。


「やってみたい!!」

「美希?あまり大声出さないの、、」

「サッカー、、、、?」


あら、どっかでそのイベント聞いたこと

あるなぁ、、、、


「サッカーのイベントなんですか?

 もしかして、一般の人に向けた

 体験みたいな感じの、、?」

「よく知ってるな、そうなんだ。

 体験とはいえ、サッカーはかなり

 動くだろう?もし怪我でもしたらと

 心配になってしまってな、、、」


俺の対面にいるお父さんが

心配するように美希ちゃんを見る。


「どうやら県のサッカー協会の人が

 運営してるイベントみたいだが、

 それでも絶対ではないだろう?」

「確かにそうですね」


あの人が中心になっているのなら、

最大限気をつけてくれるだろうが、、

まぁ親にとって、子供が怪我を負うことに

なることが最悪だろうしな、

女の子ならなおさら。


「そういった理由があったから、

 なんとか美希を説得しようとしたんだけど、

 失敗しちゃったのか、、

 機嫌を損ねてしまって、、、、

 帰り道、それで駄々をこねてから、、」

「あそこで走り出した、、と、、」


その話を聞いて、どうしようか

考える。

かなり活発というか、元気な子みたいだし、

スポーツなんかまさに経験する

良い機会なのかも知れない

だが、目の前にいる美希ちゃんの

ご両親の心配も分かる。

まぁ、、まずは、、


「少し電話してもいいですか、、?

 聞いてみます、美希ちゃんみたいな子

 でも参加できるのかどうか」

「え、、、聞けるんですか?」

「えぇ、たまたま知り合いに

 運営に関わってる人がいるので、、」


美希ちゃんのような小さな子供でも

参加できるのかを聞かなくては。


丁度良い機会だ。

俺は電話をかける。


先ほど、ご飯を食べた時、

砂沼さんとは一応連絡先を交換していた。

砂沼さん自身と、サッカー協会の

連絡先のふたつ。


俺は砂沼さんに電話をかけ、、

そうしてすぐに通話モードに入った。


『もしもし、工藤君かい?

 さっそく連絡してくれたね』

「はい、工藤です、さっきはどうも。

 一つ聞きたいことがあるんですけど」

『ほう、なんでも聞きたまえ。

 丁度仕事がひと段落したところだ』


どうやらタイミングよく

時間が空いていたようだ


「今度ある例のイベントのこと

 なんですけど、あれって小さい子とかも

 参加できるんですか?」

『小さい子供かい?工藤君に兄弟はいないと

 記憶してるんだが、、どうして?

 知り合いに参加したいって言う子供

 でもいたのかい?』

「まぁ、、そんなとこです」


話が早すぎて逆に怖いが、

こちらの事情を即座に理解したようだ。


「ポスターに、参加できる年齢制限

 みたいなのが載ってなかったそうですよ?

 だから参加できるかわからなかった

 みたいで」

『なるほど、、、それはすまないね、、、

 問い合わせの電話番号の文字を

 小さくしたのがいけなかったか、、、

 あとで言っておかなきゃね、、、』

 

どうやら一応問い合わせの番号は

載っていたらしい。

だが、小さい文字みたいで

気づかなかったようだ。


「それで、参加できるんですかね?

 幼稚園の女の子なんですけど、、、」

『大丈夫、参加できるよ。

 保護者の方が同伴になるけど、

 一緒に体験はできる。

 しようと思えば、子供が軽い気持ちで

 できるようこちらも気を遣おう。』

「そうですか」


砂沼さんもこう言ってくれているし、

美希ちゃんの好奇心もある。

親御さんふたりの心配もわかるが、

俺個人としても参加してみて欲しいところだ


俺の中で、参加させる方向で

舵を切ろうと心を決める


「ありがとうございます。

 聞きたいのはそのくらいですね」

『そうかい。よしっ、分かった。

 それではね。

 私は仕事に戻るよ、、

 さっきの分まで仕事が山積みだ』

「、、、、、頑張ってください」


大変みたいなので早めに切り上げ

電話を切った。


「どうやら、参加できるみたいですよ?

 保護者の方がいれば一緒に参加させて

 もらえるみたいです」

「わーい!ならいいでしょ?

 お母さんっ!」

「そう、、だねぇ、、」


お母さんがすこし考える

素ぶりを見せる。


「大丈夫ですよ?なんなら、

 俺も美希ちゃんのことを気にかける

 くらいはできますから。」

「あら、勇人君も参加するの?」

「はい、今電話した人から

 誘われまして、、

 成り行きみたいな感じで、、」


どういう流れで体験をするのか

分からないが、

そこら辺はあちらが融通を利かせて

くれるだろう。


「美希ちゃん、サッカーやりたい?」

「うんっ!お兄ちゃん!私に

 サッカーおしえてっ!

 やってみたい!」

「よしきたっ!お母さん、

 参加させてあげましょう。

 サッカーの経験はあるので、

 怪我させないように教えますよ」

「そっか、、そうだね。

 そうしようか、、、

 なら、お願いね?勇人君

 美希に教えてあげて?」

「やったぁっ!!」


そんな感じで話が

まとまったのだが、、、

お父さんが声を上げた。


「勇人君、、」

「はい?なんですか?」

「一つ聞きたいんだが、、

 君の苗字はなんて言うんだ?

 美希が名前を聞いた時、下の名前しか

 言わなかっただろう?」


美希ちゃんから名前を聞かれた時、

咄嗟に俺は覚えやすいよう

下の名前だけ答えた。

そこが気になったのかも知れないな。


「苗字は工藤ですよ?

 工藤勇人、俺の名前です。」

「やはり、、そうだったか、、」


ふいにうつむき、

何かを考えている。

そのあと顔をあげ、俺の方を見て

問いかけて来た。





「なら、君があの工藤か、、、?

 よく噂で聞く、、」

 


 

 

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