5章  夏休み編

96話 変化

「よし、昼飯買いに行こうぜ」

「うん、購買行こっか」


昼休み、


1組の教室から出て、

廊下を歩いていく二人

鹿島悠太と橋本翔である


「それにしても、な〜んか見る目変わった

 よな。周りの俺たちへの視線がさ」

「まぁね。やっぱりクラスマッチでの

 大立ち回りもあったから。

 なにより、僕たちはサッカーのメンバー

 だしね」


先ほどからすれ違うたびに

目を向けられる。

今までの馬鹿にするような視線ではなく、

むしろ尊敬の念もあるような気がした。


「悠太はまぁわかるんだがな、、、

 俺まで見られんのはなんか

 慣れねぇよ」

「そこら辺は慣れるしかないね。

 橋本君だって、大活躍だったじゃん。

 そりゃ、他から注目されても

 仕方ないよ」

「わかんねぇ、、

 全部イケメンである悠太に向いてくれ、、

 落ち着かないのなんの、、」


やれやれと首を振り、

周りを一瞥する橋本。

その中に、一つ気になる

人物を見かける。


「ん、、?

 なんだあいつ、、」


好奇の姿勢が多い中、

一つだけ、

敵意のような視線を向けてくる

男子生徒。


あの男子生徒は

3組の生徒か、、


「なにあれ、、

 明らかに敵を見る目してるね」

「あぁ、、

 話したことないし、

 見たこともねぇな。

 3組のやつなんだろうが、、」


こちらに向けていた敵意を潜め、

その男子生徒は

3組の教室に戻って行った


「少なくとも、陽刻の奴ではないな。

 工藤や悠太とかと同じ、

 遠くから来たパターンか」

「僕も見たことないから、

 朝凪でもないと思う。

 どこだろう、、、」

「まぁなんにせよ、あれだけのことして

 俺たちの力証明しても、

 嫌いな奴は嫌いなままか」

「勇人くんが報われないね、、」


1組への風当たりは

よくなっていると思うが、

やはり全てとは言えないらしい


「んで、その報われない工藤はどこに?

 いつもなら教室にいて

 パンでも齧ってんだろ?

 教室にいなかったが、、」

「まぁ、あっちはあっちで大変だしね、、、

 多分、僕たちより酷いよ、、」


そうして鹿島悠太は

その友人の境遇を察して

ため息を吐いた












「はぁ、、、、」


誰もいない体育館の裏。

階段のところに座って

工藤勇人はため息を吐いていた。


いつもなら教室で友人達と共に

昼ごはんを食べているが、

今日はとてもそんなことできそうに

なかった。


「だ〜から俺が入るのは

 サッカー部だっての、、、」


というのも今日の朝から、

様々な生徒から勧誘を受けている。

バスケの時からバスケ部には

何度か声をかけられたが、

今は多種多様である。



『工藤!バスケやってくれよ!

 一緒にインターハイ目指そうぜ!』


確かバスケはギリギリ今年は

インターハイに行けなかったとかで、

一年生が

インターハイ目標を掲げ燃えているだとか

2年よりやる気があるらしく、

勧誘もしっかり行なっているようだ



『工藤!サッカーやらないなら

 テニスだろ!

 悠太もいるし入りやすいぞ!』


そういってきた担任である

中瀬先生。

いや、あんた俺にサッカーやってほしい

みたいなこと言ってたでしょ、、、


『卓球やろうぜ!』

『いや陸上部入ってくれ!』

『いや工藤の能力考えれば

 ラグビーだろ!』



ありがたいことではあるが、

こうも色々な人から声をかけられると

こちらも気疲れするし

他のやつにも迷惑がかかる。


だからこうして人気のない

体育館裏にまできてぼっち飯と

洒落込んでいるわけで、、


「もう決めたから遅い。

 俺はやっぱサッカーだ」


自分が一番熱くなれるのはサッカー。

それは何より、誰より自分が

知っている。

もうこの熱は止められる気がしない。


「にしても、久しぶりな気がするな。

 こんな静かな時間は」


こうして一人で外に出て

飯を食うのも案外いい。

夏真っ盛りなのでもちろん日が

暑いがここは日陰。

それに今日はいい感じに風が吹いていて

気持ちがいい


「風が絶妙で過ごしやすいな。

 こりゃ案外ありかもな」

「ここ気持ちいいもんね。

 風が吹いた時とかまさに」

「うおっ、、、」


その時、後ろから声をかけられる。

そこには体操服の浅野舞がいた。

手にはバスケットボールを持っている。


「おっす勇人。

 なに黄昏てんの?そういう時期?」

「俺はもうそんなの終わったよ、、、

 というか、昼休みにも

 練習か。熱が入ってるねぇ」

「もち!バスケ命!

 それが私だからね」


そう言い指の先で

ボールをクルクル回す。


「勇人こそ、この前のクラスマッチすごい

 熱入ってたじゃん。

 ここにいるのは、そこら辺の事情が

 あるからでしょ?

 声かけられてうんざりとか」

「まぁな。そんな感じで

 一人で寂しく昼ごはんだよ」

「なら丁度良しっ!」


「ね、ごはん食べたんならさ、

 ちょっと付き合ってよ。1on1

 食後の運動みたいな

 ラフな感じで、、」

「はいよ。制服のままだから

 あんま動けないかもだけど」

「私の練習着貸したげるっ。

 それならできるでしょ?」

「何着置いてんだよ、、、、」


そうして二人は

夏の暑い体育館で向かい合う。

お互いラフでいこうと言ったが、

もちろんそんなことには

ならず、いつのまにか本気になる

ふたりであった。











同じ時間、生徒会室にて



「光莉〜〜。結果出たって!」

「ほんと?どれどれ、、、」


この時期、高校三年生は

進路で忙しくなるのだが、

この二人はそうでもない。


同じ大学を志望している二人だが、

どちらも学力は申し分ないほど高い。

この学校でも有名になるほどの優等生であり

内申点も充分。

焦る必要がないのだ。


「会議の結果ですよね?

 生徒総会で工藤が出した案の」

「そ、悩みに悩んだんだろうね。

 許可と言っても、やっぱりすぐには

 行かないだろうし、、、」

「まぁ正直、こんなに期間が空いた時点で

 もうほとんど確定な気がするけどね」

 

近くにいた飯田友也も加わり、

生徒会に先に送られた

通達を見る三人。


そこには予想通り、

スマホの使用許可についての

記載があった。


「よっしゃ通ったぁー!

 これで色々楽になる〜!」

「工藤に感謝を言わなきゃな、、

 今日の放課後にでも呼んで

 伝えてやりましょう」

「流石としか言えないね、、、

 この一学期でどれだけいろんなことを

 してるんだか、、、」


佐山光莉の目から見ても、

彼の活躍は目覚ましいいものがある。

とても最初の一年とは思えないほどの

働き。


「この前のクラスマッチも

 凄かったもんね。

 光莉、授業そっちのけで

 試合見てたし」

「仕方ないでしょ?

 勇くんの試合なんて、

 もう滅多に見れないんだしさ、、」

「でも、工藤くんサッカー部に

 入るんでしょ?

 なら、また見れるね」


彼の決断の一助になれたことが

佐山光莉にとっては何よりも嬉しい。

また彼の活躍が見れることに

心が高揚する。


「もうファンだね、、、

 まぁ、光莉みたいな厄介ファンは

 いっぱいいそうだけど」

「誰が厄介ファンですか!」

「工藤くんも大変だねぇ、、、」



これだけ色々な人間に注目される中、

今度は何をしてくれるのかと

期待が膨らむ。


「見守るとしましょうよ。

 工藤のことも、他の奴のことも」

「そだね。今の一年生はかなり

 特殊なケースっぽいし、

 学校もどうするか気になるしね」


例年とはかなり事情が違う。

圧倒的な存在感を放つ一人の生徒。

それがなにかと風当たりの強い

一組の生徒ときた。

例年とは違うこのケースを

学校はどうするのか、、、


もし、自分が今より遅く生まれ、

工藤の同い年だったとしたら。

彼がつくるこの学校を見れたのかも

知れないなとすこし残念な気持ちを

抱える出雲藍であった。

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