94話 恋する乙女

「最近少し元気になったね。

 なんかあったの?佐藤さん」

「え?そうかな、、?」


授業の合間の休憩時間

少しはにかんだ顔でそう言われた。

今話してるのは同じクラスの

鹿島悠太君。

いわゆる、舞みたいな感じで

女子から人気の男の子。

爽やかな印象が強くて、

優しい人らしい。


「うん。なんか前と違って最近、

 浅野さんといる時以外でも結構笑顔だし、

 自然に男子とも話せてる気がする。」

「あ、そうなんだ、、、」


やっぱり、舞の言った通り

怖い感情がどんどん

薄れてるってことなのかな?


「なにかきっかけでもあった?」

「まぁ、、、うん。

 あったにはあった、、かな?」

「へぇ、、!どんな?」

「えっとね、、」


少し悩んだあと、

私は鹿島君に言った

舞と、工藤君のことを


「少し相談したの。

 舞と、サッカー部の人に、、」

「あれ、そうなんだ?

 浅野さんは予想ついてたけど、

 サッカー部の男子にも相談したんだ」

「そう、、、

 信頼できる人だし、、」

「ほう、、、

 佐藤さんが信頼してるなら、

 優しい人なんだろうね。」

「そう、、そうなの!」


私は舞に言われた通り、

工藤君のことを話す。

ありのまま、自分の思ったことを


「いつも気遣ってくれて、助けてくれて。

 サッカーもすごく上手いし、

 みんなのサポートも上手い。

 もうとにかく凄くてっ!」

「おお、、、、

 凄いテンション、、

 久しぶりに見た、こんな佐藤さん」


少し驚かれたけど、

そのあとも鹿島君は

私の話を聞いてくれた。


「あれ、佐藤さん元気じゃん!

 なんかあったの〜?」

「なになに?由紀ちゃん!

 今工藤君って聞こえたけど、

 もしかして恋バナ!?」


私の話を聞きつけて、

クラスの女子が集まって来た。

やっぱり、みんな興味が尽きないみたいだ。

こと恋愛については


「恋バナ、、なのかな?」

「少なくとも、僕はそう感じたよ、、

 明らかに好きな人の話をする時の

 テンションだったしね、、、」

「やっぱり!ついに鉄壁の要塞だった

 由紀ちゃんが陥落だぁ〜!」

「なにそれ、、、、?」


いつのまに変な呼ばれ方

してたの、、?


「ね!?私にもその工藤君の話

 聞かせてよ!

 由紀ちゃん撃ち抜いた男子でしょ!?」

「私も私も!」

「撃ち抜いたって、、」


実際、

ほとんど撃ち抜かれてるのかも

知れないけど、、


その時、ちょうどチャイムが鳴っちゃって

話は中断されたけど、

昼休みには質問攻めを食らった。


どうも、私のそういった話を

一切聞かなかったから、

みんな気にしてたみたい。

入学直後のこともあったから、

なおさら。


「へぇ、、、!

 じゃあ、山原のサッカー部の人なんだ!

 それで、サッカーでも活躍してると、、」

「でも合同チームって一年だけだよね?

 そのあと、新入生が入ってくるだろうから

 元の朝凪サッカー部単体に戻るはず、、

 なら、もう半年もないじゃん!」


今が11月なので、もう合同の期間は

半年もない。

合同が解消されれば、話す機会なんて

あるか分からない。

個人的に会おうにも、

高鳥君以上のサッカーバカだし、、、、


「というか、高鳥君以上って、、

 むしろ会ってみたいな、、、、」

「多分、サッカー部の試合を見にくれば

 会えるけど、、、」


でも、なんだろ、、、



他の女子と、、

あまり話してほしくない。


工藤君なら、サッカー一筋だから

多分ほとんど

話さないだろうけど、、




「はい、みんな!

 そろそろ解放してやりな〜。

 由紀の男を奪わないの」

「ちょっ!舞!」


話してると、舞が教室に戻って来た。


舞はバスケ部でも活躍してるし、

昼休みも体育館で練習頑張ってる。

今も結構汗かいてて、

タオルを持って首を拭いてる。


「はい、もうこれで心配ないでしょ?

 普通に話せてたじゃん。

 まぁ、工藤君の話の時だけ

 かなり露骨に笑顔だったみたいだけど?」

「む、、、、」

「よーし、ならもう大丈夫。

 由紀はただ、これから工藤君のことを

 見てれば良いさ。」



そう軽く言って

私の肩を軽く叩いた。





そんな感じで、私はこの時点でもう

トラウマのようなものは無くなっていた。


怖い以上に、

工藤君のことが気になっていた。


今思えば、恋の良さというか、

そういうのもだんだんわかって来てたん

だと思う。


私自身が恋というものを知って、

その良さというか、必死になっちゃう

ことも知ったから。


まあそれでも、あの出来事みたいに

なるのは

流石にないと思うけど


それから、どんどん日は経って、

中学最初の一年が終わる。

それと同時に合同チームも解消される。

結局、工藤君は私の気持ちに

全然気づくこともなく、

ずっと変わらなかった。


「今日で終わっちまうな、、勇人」

「そうだな、、

 楽しかったよ。一緒にやれて。」

「おうッ!!」


目の前で握手をしている高鳥君と工藤君。

その時、ふいに工藤君の声色が変わる。

真剣な話をするような、声

顔もどこか悲壮感があって、、、


「周。あと、、

 一応佐藤さんも。

 最後に伝えとこうと思って」

「?私も、、、?」

「そう、結構大事な話。」



そうして語られた、山原の裏の事情。


実力が高くなったことにより、

失われたもの。

それによって生まれる心の傷と、

強固な勝利欲


正直、、聞きたくなかった

そんな、息苦しさを感じる話。


気づかなかった。

そんなことがあったなんて、、


「は、、?なんだよそれ、、、

 なんで、、、、!

 なんでそんなことがッ、、、」

「ごめんな周。まぁ、結局のところ

 これはこっちの問題だからさ、

 合同チームである朝凪の人たちを

 巻き込みたくなかった」

「チームとか以前に、

 俺らは友達だろ、、?

 おかしいだろ、、!なんで勇人がそんな

 ことされなきゃいけねぇんだよ!」


怒った顔をして、

高鳥君が山原の人たちのところに

行こうとする。

工藤君抜きで笑い合ってるところに


「やめろ周」


けど、行こうとする高鳥君の肩を

強い力で掴む。

そうする工藤君の顔は、、

酷く落ち着いていて、、


「今更足掻いたところでなにも変わらない。

 俺は素直に、これからも強くなる。

 そんな奴らに元々構う時間なんて

 ないんだよ」

「けどよッ!」

「俺のことは気にすんな。

 もうどのみち乗り越えた話でもある。

 それに、もう俺らは敵になるんだぞ?」

「う、、、」



そう、もうこれから工藤君は

隣にいない。

工藤君が中盤で組み立ててくれたからこそ、

合同チームは無類の強さを誇っていた。

高鳥君も、他の人たちも、

その工藤君の強さに何度も救われた。


それがもう、終わってしまうんだ、、、


「この話を他の朝凪メンバーにするかは、

 二人に任せる。二人なら悪いようには

 しないってこれでも信用してるんだぞ?」

「なんだよそれ、、、、」

「工藤君、、、」

「そんな悲しい顔しないでくれよ、、

 まぁ、こんな話をした俺にも

 責任はあるか、、」



工藤君は高鳥君に近づいて、

肩をポンポンっと軽く叩いた


「勇人、、、」

「まあ、よかったじゃん?

 これで戦う時、心置きなく俺ら山原を

 ボコれるだろ?」


 

そして、高鳥君の胸に何かを

押し当てた。


それは、ユニフォームだった。

工藤君を象徴する、

7が刻まれたユニフォーム。


「今まで色々世話になった。

 改めてありがとな。

 やり合うことになったら、

 誠心誠意潰すからな?」


高鳥君の胸をグーパンチで叩く。

気合いを入れてあげるように、、


「あと、佐藤さんも。

 ありがとな。手当とか、

 正直かなり助かった」

「え、いや、私はなにもしてない、、、」

「ははっ、相変わらず優しいな」

 

優しいのは工藤君じゃん、、、

そんな声で言われたら、、



「前と違って、清々しい顔してる。

 よかったよかった、、」


私の頭を撫でて

優しい顔をする。


「佐藤さんなら大丈夫。合同じゃなくても

 応援してるからさ。色々頑張れ」



その温かい手が離れ、

工藤君は去っていった。


私の頭を撫でてくれたあの手。

その感触がいつまでも忘れられないし、

忘れたくもない。


これからも、あなたを見ながら

私は応援します。

あなたの強さも、優しさも、

一年だけだけど、ずっと見て来た。


自分のためだけに戦う。

自分が納得するまで強くなる。

でも人の弱いところにも寄り添えて、

いつだって人知れず何かの手助けをしてる。


そんなあなたに、わたしは恋をする









そして、、、、














「んっ、、、、」

「お、起きたか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る