92話 勘違い

「よし、帰ろ?工藤君っ!」

「おっす」


練習試合が終わり、部活の道具を

全て片付けたあと、

私は工藤君と帰路に着く。


工藤君の家はここからかなり遠いし、

私と方角が違うから

一緒に帰れるのは途中まで。


「ゆっくり話しながら帰らない?

 工藤君も試合で疲れてるだろうし」

「別に気にしないで良いけど、、、

 まぁ、ならゆっくり行くか」

「うんっ!」



今日の工藤君もやっぱり強かった。

ドリブル、パス。

視野の広さや体力。

あの試合からますます実力をつけて来て、

もう並みの二年生にも

負けないくらいになってる

合同チームが解消される時が怖いくらい、

工藤君の伸び幅は凄まじい。


「工藤君、いつも一人で帰ってるよね?

 みんなとは帰らないの?」

「、、、、まぁ、家の方向違うし、

 アイツらは親が迎えにくるからな。

 一緒に帰る機会は全然だよ。

 それに、歩いて帰るほうが

 足のトレーニングにもなるしな」

「、、そっか」


澄ました顔でそう言ってるけど、

やっぱり何か違和感を感じる。


一人で歩いて帰る子がいたら、

友達なら車で送ってくれそうだもん。

少なくとも、私はそう思う。


もし今私のお母さんがいれば、

工藤君も一緒に乗せて、

家まで送ると思う。



「いっつも一人で頑張ってるね、、、

 あ、ごめんね?いつも質問ばっかりに

 なっちゃってさっ」

「いいよ、佐藤さんの話に合わせて

 答えるの案外好きだし」

「う、、、」


今のは不意打ちです、、、


ちょっと心臓が跳ねる、、



「なら、たまには俺から一つ質問して良い?

 前から気になってたんだけど」

「へ!?なになに?

 なんでもきいてね?」

「なら遠慮なく。佐藤さんって、

 なんでマネージャーしてんの?」


心底不思議そうな顔で

私にそう言った。


「俺からしたらさ、なんでそこまで

 人のために尽くそうと思うのかなって。

 別に自分がサッカーするわけでもないし、

 俺にはそこがどうしてもわかんないから」


人に尽くすうんぬんは私が工藤君に

言いたいんだけどなぁ、、、


「練習するたびに何かしなきゃ

 いけないしさ。

 それこそ、好きな人がいるとか?」

「違うよ、それはない。

 みんな友達なんだよ。

 そんな特別な関係はない」

「なら、なんで?」


やっぱり、恋愛的な目的で

マネージャーをしてると勘違い

するよね、、


「誰かに振り向いてほしくて、

 私はサポートをしてるわけじゃない。

 でも、私がマネージャーをしてるのは、

 そんなサポートがしたいからなんだっ」

「要は、ただ人助けが好きと?

 恋愛的な意味合いも全くないと、、

 優しいね、佐藤さん」

「ふふっ、ありがとっ!」


工藤君から褒められると、

やっぱり嬉しくなって、

飛び跳ねちゃいそうになる。


「でもそれってさ、結構勘違い

 されそうじゃない?男子ばかりの部活に

 一人だけ女子って」

「うん、、

 やっぱり、男好きとか、そんな

 感じに思われちゃうみたい、、」

「なんかめんどそうだなぁ、、」


うんざりといった様子の工藤君

そんな工藤君に、

私は切り出した。


「でも、工藤君も人助けるの好きだよね。

 例えば、女子中学生とかさ?」

「、、、、なんのこと?」


はい、確信犯ですね、


今の間と、ちょっと動揺して

目を逸らしたこと。

さっきのことと今の二つ。


「隠さなくていいのに、、」

「だから、なんのことさ?

 俺はそんなの知らないよ」

「ま、そういうことにしとこ〜」

「なんだよ、、、」


別に工藤君が隠したいなら、

私はその判断を尊重したい。

迷惑かけたくないし、

嫌われたくもないし、、、


まぁ、そのことはもう分かってたから良い。

そんな工藤君だからこそ、

私も信頼して話せるし、

相談できる。




「ねぇ工藤君、、

 さっき私が言った、他の人から

 勘違いされるって話。

 工藤君、どう思う?」

「どう思う、、とは?」

「そんな勘違いされることに対して、

 もし工藤君がその立場なら

 どうするのかなって」

「はぁ、、、?

 うぅ〜ん、、、」


少しばかり考える工藤君。

私はやっぱり、勘違いされるのは嫌だ。

昔のこともあるし、勘違いされることで

自分のことを知った気になる人が

出てくるのも好きじゃない。


あんなことにならないために、

私がしっかり周りに伝えなきゃいけない。

恋愛なんて今は興味ないんだよって。


でも、それを信じる人は少ない。

多感な時期で、どんなことも恋愛に

繋げたくなる。

みんな他人の恋愛事情聞くの好きだし、、


「俺は気にしないなぁ、、、

 他の人からどう言われようとも、

 自分が納得できればそれで、、、

 勘違いされたとして、なにを言われても、

 あぁそうで終わりそう」

「工藤君らしい、

 強くて前向きな答えだね、、」

「まぁ、俺に恋愛経験がないだけで、

 ほんとはもっと複雑なんだろうけど、、

 女子はもっと大変そうだし」

「うん、、、

 ほんとに大変だよ、、」


勘違いからの告白とか、

もうたまったもんじゃない、、



「みんな、工藤君みたいに、

 物分かり良くて、ちゃんと話を聞いて

 くれたらいいのに、、

 人の中身を見る人があまりいないから、

 あんなことに、、、」

「、、、、、なぁ佐藤さん」

「ん?」


工藤君は今までの話を

まとめるように話し出す


「要はさ、全部の行動が恋愛につながる

 ことがあんま好きじゃないんだろ?

 マネージャーをするにも、周りが

 色々勘違いして、勝手に恋愛に繋げて。

 佐藤さんは、そのつもりないのに」

「うん、、正直、

 そんなことになるのが嫌なの。

 勘違いされて、そっちが勝手にいろいろ

 答えを出して、、、

 私の考えなんかおかまいなしに

 されそうで、、、」

「なら、、そうだな、、、」

 

工藤君は、私に一つ

投げかけた



「本当に好きな人ができれば、

 色々やりようはありそうだけどなぁ」

「へ、、?好きな人、、?」

「うん」


工藤君は前を見ながら、

あっけらかんとした口調で

そう言う。


「言葉じゃ周りが納得しないから、

 好きな人がいて、その好きな人と

 話してるとこを見れば、

 周りも納得するかなって。

 ほら、好きな人と話す時の女子って、

 やっぱり笑顔になるって言うじゃん?」

「好きな人、、、」

「それに、好きな人の話をしてる時とかも、

 自然に声のトーンが上がったりしそう。

 それを周りが見て、

 『あぁ、好きな人がいて、

  その人しか見てないんだ』ってなるよ」


工藤君の答えは、

言ってしまえば好きな人をつくるのが

一番早いというものだ。



「やっぱ、周りはあまり期待できない

 と俺はおもってるからさ。

 なら、ある程度こちらの思惑通りに

 周りの考えを誘導できれば良いかなと。

 そのために、できるなら好きな人が

 いたらやりやすいかなってだけ。」


「恋愛に繋げてしまうってのは、

 やっぱ変えられないと思う。

 だから、少なくとも勘違いしてほしくない

 人たちに向けて、君達と恋愛する気は

 ないって意思表示が必要だと思った」



工藤君の普段の行いから分かっていた。

頭の回転が早くて、優しい。


自分のことのように考えてくれて、

一緒に答えを出そうとしてくれる。


もし他の人に相談したなら、

また勘違いされてたかも知れない。


相談してくれるってことは、、

もしかしたら、自分のことが

好きなのでは?と。


でも、彼は絶対にそんなことはない。

私のことも真剣に考えてくれて、

気兼ねなく、私が無理しないように

あくまで軽く接してくれる。



「とまぁ、恋愛経験がなく、

 ただのしがないサッカー部の

 言葉ですが、、

 どうでしょうか?」

「ふふっ、なんで敬語なのっ?

 ありがとう、、、

 話を聞いてくれて」

「おう」


そう言って工藤君は

私の前に拳を上げる。

ハイタッチではなく、

握り拳を打ち合わせるグータッチ。



「頑張れ!佐藤さんの優しいとこは

 いつも見てる。

 それに助けられたこともある。

 だから応援してるよ。

 佐藤さんなら、周りに負けずに

 生きれる」


「うん!」



交わされるグーの手、




(あ、、、)


自分の手に残った、

工藤君の手の感触。


離れたくないって、

まだ足りないって、

思った。



「え、、?」



気づけば私は、

彼の手を自分の頬に当てていた。

頬に感じる工藤君の手。

自分より大きい、

頼りになる手。



異性の人に勘違いしてほしくなかった。

でも、、、






目の前の人は、、

勘違いしてほしい。

勘違いして欲しかった。



これは勘違いではなく、私は本心で

あなたを想っていると気づいたから

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