91話 影の優しさ
「うわ、、、、
場所結構近いね、、
由紀、気をつけなきゃね」
「うん、、、
というか、、この辺りって」
確か、山原中学校の校区だった気がする。
場所は小さい展望スポットらしくて、
密かに景色を見に行く人が
案外いるらしい。
そんなところで、女子中学生が
男の人3人に襲われそうになって、、、
『そんな女子中学生を救ったのは、、
同じ中学生の男子でした』
「男子、、中学生、、?」
ニュースを見てみると、どうやら同じ
中学生が女子中学生を助け、
そのままどこかに行ってしまったらしい。
女の子を励まして、
そのまま暗い夜道を一人で
「あらま!そんなカッコいいこと
する子がいるんだ!
ね、由紀。山原の校区だし、
知ってる人かもね?」
「うぅ〜ん、、、
そんなことはないんじゃないかな、、?」
「え〜〜?わかんないよ?
もしかしたら、由紀が気になってる
例の工藤君かもよ?」
流石にそんなことはないと思う。
助けた時間帯もかなり遅い時間みたい
だし、そんな夜中に工藤君が
展望スポットにいるはずがない。
第一、工藤君は
山原の人だけど、
家は山原の校区じゃないみたいだし。
『去ってしまった男子中学生に、
警察の方が感謝状を送ろうとした
そうですが、男子中学生が匿名を
希望したそうなので、名前は
公表しないそうです、、』
「ん?匿名希望?
どういうことなんだろう、、、」
お母さんも首を傾げている。
良いことをしたんだし、
名前なんて伏せなくても良い気がする。
むしろ、名前が広まることで
自分にとって良いことがあるかも知れない
なのに、なんで、、、
『では、その助けられた女子中学生に
その時の話を聞かせていただいた
映像があります、、、』
そうして、画面が切り替わる。
そこには、またもや匿名で、
声も加工されたものが流れてる。
その人が、その時のことを
話し始める。
『私はその時、少し色々あって
家を出てたんです。
それで、展望スポットのベンチに
座ってる時に男の人が3人来て、、
その人たちから乱暴なことを
されそうになったんです、、、』
乱暴なことって、、
要は、文字通り襲われそうに
なったってことなんだ、、、
そんな男の人に囲まれるなんて、
考えただけでもゾッとしちゃう、、
『腕を掴まれて、逃げれなくなって、、、
でもその時、声がしたんです、、
声がした方を見たら、
黒い短パンと、グレーのTシャツを着た、
ラフな格好の男の子がいて』
「黒い短パンと、、グレーのTシャツ、?」
気のせい、、だよね、、
服の組み合わせ、、、
工藤君の練習着とたまたま色が同じだ、、
そんなことが、、ほんとにあり得るの?
『サッカー部の男の子でした、、
私も以前からその子を見たことが
あったので。その男の子の足元には、
サッカーボールがあって、、』
「サッカー、、、ボール、、!」
私の中で今まで聞いた工藤君の話が
思い起こされる。
『工藤君さ、凄い体力あるよね、、
ランニングとかしてるの?』
『うん、一応毎日。
部活終わって家に帰ってそこから。
まぁたまに色々やることがあったり
した時は遅い時間に行くけど』
そんなことを言っていた。
もし、この助けた男子中学生が
工藤君なら、、
『その子は、私の近くにいた男の人の顔に
ボールを当てて、そこから笑って
男の人を挑発したんです。
なんでそんなことしてるんだろうって
あの時おもったんですけど、、
今思えば、男の人から私を離れさせる
ためだったのかなって、、、』
『3人相手でも動じてなくて、、
私をそのまま男の人たちから
守ってくれました、、、、
ほんとに、感謝してもしきれない、、
大きな恩が彼にできました。
いつか必ず、、その恩を返したいって
強く想ってます』
そう言って話は終わり、
ニュースキャスターの人たちが
それぞれで話す。
私は今すぐ確認したくなった。
工藤君に、、
「良い話だね、、、
恩を返したいなんて、
良い子で素敵な考えだ、、」
「恩、、、、
助けた男子中学生は、
お礼を必要としてるのかな、、、」
「どういうこと?」
疑問を持ったお母さんが聞いてくる。
私の単なる勘でしかない。
でも、もし工藤君が助けた男子中学生
だったのなら、お礼なんて
いらないとか言うと思った。
澄ました顔で、当たり前のことのように
誰かを気遣う。そして密かに、
誰かを人知れず救っている。
山原の人との関係に違和感を持っていた
私と高鳥君に対して、
なにもないと言うように、、、
私のハイタッチを察して、
気兼ねなくできるように軽いノリで
合わせてくれたり、、
私が男子と話すことがあまり出来ないのも
察しているようで、、
私が無理をしないよう、男子と関わる
ようなマネージャーの仕事を密かに
やってくれていたり、、、
皆がやりやすいよう、あちこちに
転がったボールを回収して
元の場所に戻したり、、
試合中のプレーだって、
誰かを輝かせることが多い。
そして一番厄介なのが、、
彼自身がそれを自覚してない。
勝つためにそうしてるとしか思ってない。
だからこそ、私はそんな工藤君なら、
恩なんていらないって言いそうだなって、、
「わざわざ匿名にしてるし、だれかに
見てもらいたくてやったわけじゃない
ように感じた、、
ただ、そう。困ってる人がいたら救う。
それを当たり前のことって
思ってそうな気がして、、、」
「そこまでわかるの?
なんか、その子のことを
理解してるみたいだね」
「なんだろう、、、、
さっきお母さんの言ってた、、
工藤君なんじゃないかっていうのが
現実味を帯びて来た、、」
「あれはただの冗談だよ、、、?」
工藤君に聞いてみなければ分からない、、
でも、工藤君と次会えるのは週末の
練習試合の時だ。
それまで待たなきゃ行けないのか、、、
「一か八か、聞いてみる。
もしかしたら、答えてくれないかも
知れないけど」
「そうだね。もしこれで工藤君だったなら、
褒めてあげな?凄いよー!ってさ」
「うんっ!」
早く会いたい、会って話したい
今はそう思うほど、
私は工藤君と仲が良くなったんだなって。
少なくとも、私はそう思ってる、、
そうして、週末の練習試合。
そこで工藤君に聞こうとした時だ。
試合が終わって、朝凪のみんなが
先生のところに集まる。
その時、私は道具の片付けをしていた。
片付けがとりあえずひと段落したので、
自分の荷物を片付けてる工藤くんのところに
向かう。
今なら他の人もいないし、
また一緒に帰ろって言おう。
二人になった時に聞いた方が
答えてくれるかも。
「工藤、、、君?」
そう思って話しかけようとしたら、
不意に私の横を誰かが
走り抜けた。
そうして走って工藤君の方に向かう。
誰だろ、、、
「あのっ!!」
「ん?」
私の横を通り過ぎた女の子が
工藤君に話しかけた。
私は咄嗟に近くの木に隠れて
様子を伺う。
なにやら神妙というか、
邪魔しちゃいけないような気がしたから、
(誰なんだろ、、
工藤君の知ってる人かな、、
友達とか、、?)
「君は、、あの時の、、」
でも、工藤君はその女の子を見て
心底驚いたような顔を見せた。
しかも君って、、、
友達ではないのかな、、
女の子は、少し躊躇するように
言葉を詰まらせたあと、
意を決したように大きな声で言った。
「あの時助けてくれて、ありがとうッ!!」
ほとんど叫ぶような声でそう言い、
その女の子はまたどこかに
走って行った。
その場に残された工藤君が、
呟くように言う。
「律儀な子だな、、、
お礼なんて、気にしないで良いのに」
そう言った工藤君と、
さっきの女の子のお礼で、
私は確信した。
助けたのは工藤君だ、、、
ほんとに助けたんだ、、、
それを見た私は、その後
彼を誘いまた一緒に帰る。
あの事件とは別に
彼に聞きたいことができたからだ。
それが、私を前に進ませると
思ったから。
彼なら、答えをくれる気がしたから、、、
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