88話 冷めた心

長い夢を見ていた


昔の夢だ、、、





「ごめん、、付き合えない、、」


その人のことは嫌いじゃなかっし、

むしろ一緒にいて楽だった。

ただ、それが恋愛感情と言われたら、

違う気がして、、



絶望したような、信じられないといった

相手の表情


私は罪悪感でいっぱいになって、

その場から離れようとした。

でも、



「おい、待ってくれよ、、、!」


気づいたら腕を掴まれて、

気づいたら壁に無理矢理押しつけられた。


自分より強い力も、自分より大きい体も、

相手の人の悲痛な声と表情も。

全部が怖かった


分からない

なんでこうなってしまったの、、、



必死に逃げようって思って、

でもできなくて、、


叫び声をあげようにも口を

抑えられて、、、



「テメェ、なにしてんだ、、?

 うちのマネージャーに!」



そんななか、高鳥君が来た

部活が始まるからと、まだ教室にいた

私を呼びに来たみたいで、、

その現場を高鳥君が目撃したことで、

なんとか助かった、、、










どうすればよかったんだろうか、、、

接し方を間違えたのだろうか、、

彼のことを、もっと見ていれば、

勘違いさせることも、、なかったのかも

知れないのに、、


「怖かったね、、、由紀、、、!」


お家に帰って、お母さんにすぐさま

抱きしめられた。

あったかくて、優しい擁護。


昔から知っている、私が安心できるように

気にかけてくれるお母さん。

救いだった、お母さんの前では、

私はいつも甘えてばかりだ、、、




私に告白して来た人は、それ以降

学校に来れなくなって、、、

いつのまにかどこかに行ってしまった。

安心した、

でも、友達として仲が良かった彼が

いなくなって、私は何故か寂しくなって、、


「由紀、、、」

「舞、、、うん、心配しないで?

 大丈夫だから、、、」


気遣ってくれる舞。

心配かけないように、、

少しでも早く私が立ち直ってる

姿を見せなきゃって、、、



「佐藤さん、大丈夫?

 なんかぼーっとしてない?」


そうクラスの男子が話しかけて来た。

いつも通り、、、

いつも通りに、、、!












『おい、待ってくれよ、、、!』




浮かんでくるあの表情、、




その人との、告白以前の普通の会話も、

同時に思い出した。

気楽で楽しい、そんな日常の一幕。

恋愛なんて考えていなかった、、

いや、私だけが考えてなかった時のこと。


それは、全て怖い思い出になってしまった。

最後にはあの悲痛な表情と、、

怒号が聞こえて来て、、、


私は男子と会話するのが億劫になり、

同時に要らぬ心配を多く抱え、

気づけば機械のような、

突っぱねる返事をしていた。



「大丈夫」

「え、そ、そっか、」



怖かった、、

普段の自分の接し方で行けば、

またあんなことになるんじゃないかって、、


だが、普段私はそんな冷たい態度を

とるようなことはない。

だからこそ、我慢するような、

自分が曝け出せない空気に嫌気がさして。


男子とほとんど会話しなくなるまで、

時間は掛からなかった。



「佐藤さん、なんか最近男子に対して

 冷たくなったよな。

 なんかあったんかな?」

「そういや最近、佐藤さんとよく話してた

 奴見ないよな。それ関連?」


サッカー部でマネージャーをしていた時に、

そんな会話が聞こえて来て、



「佐藤、一個頼みたいんだが、、」

「??」


水分補給用のボトルを作るため、

水道にいた私に

高鳥君が話しかけて来た。


「ビブスも二色用意してくれないか?

 今日、アップしたあと少し練習したら

 紅白戦やるらしいからよ」

「分かった」

「、、、、頼む」



助けてくれた高鳥君、

でも、私は彼にも心を開くことが

できなかった。


その気は無いのに、、

もし恋愛に発展してしまうことになったら



元々、サッカー部のマネージャーをしている

から、男子目当てなんじゃないかって

思われることが多い。

だからこそ周りからも、相手からも、

勘違いされやすい。


話したくない、

行きたくないなって思った。

そんな相手に失礼な態度しかとれないなら、

私は行かない方がいい。

そんな現実逃避をして、

私は一時期部活に行かなくなった。



助けてくれた高鳥君が、

私に対して気遣ってくれていることも

分かっていた。

だけど、周りがそれを見てどう思うかは

分からない。要らぬ誤解を招くかも知れない

それで高鳥君に迷惑がかかるなら、

それこそ自分が嫌いになってしまう。




「由紀、どうしたの?

 学校行く時間だよ?

 朝ごはんもできてるけど、、」

「・・・・・・・」


布団にくるまって、

私は目を閉じる。

お母さんの心配するような問いかけに

答えることもなく。

その私を見て、お母さんも少し

察したんだと思う



「無理しないでね?

 食べたくなったら降りて来て。

 学校には、私から説明しとくから、、」

「、、、、、ありがと」

「うんっ、それと、

 あとで由紀の話も聞かせてね?

 話したくないなら、それでもいいから」


そう言って部屋のドアが閉まる。

私は布団から天井を見上げて、

考えていた。

これからどうしようって





「合同になるみたいよ?

 サッカー部」

「合同、、、」


家でお母さんと話してる時に

先生から電話がかかってきて、

そう伝えられたらしい


朝凪中サッカー部は

一年生が9人しかいない。

三年生はいっぱいいるけど

二年生が一人もいないので、

三年生が引退してしまえば

試合ができない。


「だから、近くの山原中学校と

 合同チームになるらしいよ?

 あっちもあっちで、人数が

 いないみたいだから」

「部活、、、かぁ、、」



あまり気が乗らない。

合同チームになるなら、当たり前のこと

だけど人数が増える。

あっちの人とも話さなきゃいけないし、

その度に色々考えなきゃいけない。


もう、やめた方が、、


「由紀、朝言ってたことね。

 由紀が今何を考えてるのか教えて?

 もちろん、言える範囲で良いし、

 言えないならそれでも構わない」

「お母さん、、、」



心配そうな声で問いかけてくる。

私が悩んでることなんて、

些細なことなのに、、


勘違いさせてしまったから、

その経験から男子と話すのに億劫になって、

周りの視線と、相手の気持ちがなんだか

わけわからなくなって、、


自分が男の人に好かれる容姿なのは

昔から分かってた。

綺麗なお母さん似だし、お母さんからずっと

言われてた。

仲良くなるのも時間がかかることはない。


でも今思えば、容姿が良いから、

男子が寄って来てたのかもしれない

私は別に、男女の関係に

なりたいわけじゃないのに、、、


「大丈夫、、、

 今日は休んじゃったけど、、

 明日からはまた、、」

「でも、あまり今楽しくないでしょ?

 男の子と話す時とか、

 躊躇してるんじゃない、、?」

「え、、」

「わかりますよっ、、!

 そんなことは、、、

 何年由紀を見てると思ってるの」


少しカラッと笑って

私を見るお母さん。


「優しい子だから、考えなくても

 いいことまで考えちゃうね、

 由紀は悪くない。だから、私は待ってる。

 勇気を持ってくれるまでね?

 由紀が、最後の最後は

 勇気を持って前に進むの、

 お母さん知ってるんだからっ」

「うんっ、、、」

「迷惑とか、そんなことないよ。

 私が聞きたい。私が由紀に

 優しくしてあげたいから、今こうしてる。

 安心して話しなさい、、、

 お母さんはそれだけ由紀が好きなんだよ」

「うんっ、、、、!」


してあげたいから、

そうしてくれるといってくれた。


ほんとうに、、

いいお母さんを持ったと思う。

これだけ優しくしてくれて、私を

励ましてくれる。

そんなお母さんが、、私は大好き。



その後、私はお母さんに話した。

私が考えてること、悩んでること。

お母さんは静かに、時折うなづきながら

私の話を聞いてくれた。

 

 

「まあ、由紀と話すだけで、

 勝手にポロッと惚れちゃう子も

 いるもんねぇ。

 私の由紀は可愛いし」

「、、、なんか馬鹿にしてない?」

「まさか、本心本心!

 私の可愛い由紀が、

 純情な男子を撃ち落とすことが

 多いことは結構昔から分かってたしね。

 まぁ、こんなことになるとは、、、

 思わなかったけどね、、」

「、、、、、私は、どうすればいいのかな」


男の子とまともに話せないなら、

マネージャーだってできる自信がない。

元々、頑張ってるだれかの助けに

なりたいって思ったから、

サッカー部のマネージャーになったわけだし


自分のことから解決しなきゃ、

他の助けになんて言ってられない、、



「男の子と話すのは、嫌?」

「嫌じゃない、、、

 でも、前と同じことにならないかって

 不安になるの、、、」

「なら、誰か信頼できる男子はいる?

 例えばそう、助けてくれた

 高鳥君とか、、、

 その子なら、話せたりしない?」

「高鳥君、、」


確かに他の人と比べたら、

高鳥君はある程度信用できる。

私を見ることがなくて、

サッカーのことばかり考えてるから、、


「うん、高鳥君は大丈夫だと思う。

 サッカーばかり考えてて、

 他の人からもサッカーバカって

 言われてるくらいだし、、、」

「ふふっ、そりゃいいね。

 なら、まずは彼と話をして、

 それから慣れていけば良いんじゃない?」


高鳥君ならできるかも知れない。

サッカー第一の彼なら、、、


「うん、、、やってみる、、!

 行動してみなきゃ、、わかんないし、、

 高鳥君には、迷惑かけてばっかだし」

「よし、いい子だ由紀!

 部活のことでも、普段の学校のことでも、

 遠慮なく相談しなよ?」

「うん!ありがとうお母さん。

 頑張ってみる!」

 



そうして私は、高鳥君から始め、

徐々に調子を取り戻していく。

男子と話す時は少し、無意識で

壁をつくっちゃうけど、、

もう怖いなんてことはなくなっていた



「大丈夫かおまえ。

 無理すんなよ。壁作ってんの

 案外バレてんぞ」

「え、、、」

「まぁ、他のやつもある程度事情を

 知ってるやつが増えて来たみたいだしな。

 仕方ねぇって思うやつしかいねぇよ」


どうやら、私の事情を知る人が

増えて来たみたい。

誰かが言いふらしたとかじゃなくて、

少し考えれば自然と導き出されたらしい。



「大方、お前と仲良かった奴が

 どっかいって、、

 お前が男子と話すの怖がってるから、

 なんかされたんだろうなって

 みんな予想ついてる」

「うん、そんな感じ、、、」

「安心しろ。みんな気遣ってる。

 こんな状況のお前見て、お近づきに

 なりたいなんて思うバカは

 サッカー部にいねぇよ」


そういってそそくさと

練習を始めた高鳥君。


そっか、、、

高鳥君だけじゃなくて、

サッカー部のみんなも気遣ってくれたのか。






そこから、朝凪と山原が

合同チームになって、

初めての顔合わせ。


もちろん、相手の山原の人たちは

男の人だけで、マネージャーとかは

いなかった。

でも、前よりかは普通に男子と

話せてたと思う。




そこに、一人いた。



「よろしくね、工藤君」

「ん?あぁ、よろしく。

 佐藤由紀さん、だっけ?」

「う、うん、、、」


女子は私一人だけだし、

やっぱり山原の人からは

いっぱい話しかけられた。


でも一人だけ、そんな私の存在なんか

どうでもいいみたいな感じの人がいた。



「勇人ー!お前も佐藤さんと

 話さなくていいのかぁ?」

「俺はいい。

 それより、高鳥君。

 さっきのプレーなんだけどさ」

「ちぇっ、つれねぇやつ、、、」


山原の牧田君が工藤君に言っても、

ほぼ反応無し。

サッカーに夢中で、ずっと高鳥君と

何か話してる。



「工藤君、はい水!」

「ん?あぁ、、ありがとう」


練習試合の合間も、

私が気遣って水が入ったボトルを

渡しても、お礼は言うけど、

すぐ目線がフィールドのほうに行く。

ずっと誰かがサッカーしてるのを見て、

なにやら考えてる。



「なるほど、、、

 さっきの動きは、スペースを

 うまく使って味方が中に入れるように

 わざと囮になって、意識を散らしたのか」

「あの、工藤くん、、、」

「え、何佐藤さん」

「いや、勉強熱心だなって、、、」

「まぁね、」


そう言ってまたフィールドの方を

凝視する。


(ほんとにサッカー以外

 興味ないんだ、、、、)


まだ1日目なんだけど、

高鳥君以上にサッカーしか見てない。

自然とそう確信した。


少し安心した。

高鳥君みたいに、自分に興味ない人が

いることが。恋愛なんて二の次。

サッカーが全てみたいな人。



「またね、工藤君!」

「おっす」


彼とは自然体で話せた。

ドライだなぁと思ったけど、

今の私はなによりその塩対応が

楽だった。



そして2回目の合同チームでの

練習試合。




「なッ!?」

「フゥ、、、、うしッ!!」



彼は劇的に実力が

高くなっていた。


「すげぇな、、前会った時より

 めちゃくちゃ上手くなってる。

 やるねぇ工藤」


高鳥君もその工藤君の

劇的な成長に負けられないと

いった感じだった。



「初めて見た、、

 一年生で高鳥君と戦える人、、、

 すごっ!」


素直にそう思った。

高鳥君は一年生の中でも群を抜いた

実力者で、完全に朝凪のエースだった。

そんな高鳥君に喰らいつく人。



(あれから二週間しか経ってないのに、

 こんなに強くなるなんて、、、)


急激な成長を見せた工藤君。


「や、まだまだだ、、、

 まだ、これじゃ勝てない、、」



でも、それでも満足

出来てないようだった。


向上心の塊、どこまでも強くなろうとする

ストイックさ。

ひたむきな努力が身につけた力。



壁とか、勘違いとか、

そんなことも私はどうでもよくなった。



純粋に彼を応援したくなった。

どこまでも強さを追い求める彼を






そして、、、

私が、サッカーというスポーツに、、

彼に夢中になるきっかけの試合の日が

近づいてくる



その会場にいる人全員が



たった一人の少年に魅せられたあの試合が




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