87話 親子
「会いたかった〜〜!!」
「え、ちょ、、、!」
車から人が出て来たと思ったら、
いきなりこちらに抱きついて来た。
「ちょっとお母さんっ!
勇人くんから離れてっ!」
「うえ〜?いいじゃんちょっとは!
それより、やっぱ少し
男の子にしては小さいかな?」
俺の頭を撫でてそう言ってくる。
結構失礼だなこの人、、、
「えっと、、、
由紀の親御さんですか?」
「そう、佐藤夏美ですっ!
よろしくね〜勇人くん。
いつも由紀がお世話になってます!」
「は、、はぁ、、?」
一目見てそうじゃないかと思っていたが、
やっぱりそうみたいだ。
テンションというか、接し方が由紀と
似ている気がする。
「もうっ!いい加減
離れるっっ!」
「はいはい、、、
まったくうちの娘はせっかちだなぁ。
安心しな?勇人くんを由紀から
取るつもりはないから」
「なっ!?お母さん!!」
「あははっ!
ほんとに由紀は可愛いねぇ、、」
俺を離したとおもえば、今度は自分の
娘である由紀に抱きついて頭を撫でる。
こうしてみるとやはり親子、
顔が結構似ている。
だが、若く見えるので一瞬お姉さんが
迎えに来たのかと思った。
「恥ずかしいっ!離れて、、!」
「んふふっ。
確かにこれは恥ずかしいね」
このじゃれあいだってクラスの皆に
見られてるわけだしな、、、
佐藤夏美さんが由紀から離れて、
改めて由紀と話し出す。
「よし、帰ろうか由紀。
秋葉も待ってるよ?
さっきから早く帰りたい〜って
言ってる」
「あ、秋葉も来てるの?
買い物に行ってたとか?」
「そ、だから、あくびが止まんなくて
眠そうなの。
だから早く帰ろうか」
「分かった、、、あ!あと、、、」
そう言って由紀がこちらの方を見て
事情を説明する。
「勇人くんも一緒に送って欲しいの。
勇人くんのお母さん忙しいから、
迎えに来れないらしくて、、」
俺の家が自家用車がないことを
伏せた上でそういった。
気遣ってくれたようだ。
「うん、由紀から頼まなくても、、
私はもともとそのつもりっ。
さ、勇人くんも車に行こうか?」
「え、でも良いんですか?
見た感じ、妹さんがいるみたいですけど」
「気にしないでいいよ?
ご飯だって食べ終わってるし、
あとはもう秋葉も寝るだけだからね」
車の助手席に乗っている女の子。
小学校低学年くらいだろうか、
眠そうで退屈そうな顔をして
あくびをしている
「多分帰ってる途中に寝ちゃうよ。
だから気にしないで乗りな?
大丈夫!安全運転だから私!」
「そこは気にしてないです、、、」
もはや由紀より元気だな、、、
何歳なんだろうか、、
「よし、その前に、、、」
由紀が俺に近づいてくる。
「はい、シャツの襟立てて、
じっとしててね」
俺のネクタイを持って目の前に立ち、
俺の首の後ろを通して
ネクタイを結んでいく。
「なんか手慣れてるな、、
自分で結べるぞ、、、?」
「私が勝手にやってることだから、、
嫌ならやめるけど?」
「いやってわけではないけど、、、」
周りの視線が、、、
最後に首元でキュッと結んだあと、
笑顔でこちらを見上げてきた。
「じゃあ帰ろうか!勇人くん」
由紀から渡されたブレザーを着る。
もう考えることはやめよう、、、
そのあと、佐藤家の車にありがたく
乗らせてもらうことにした
その二人の一幕を見たクラスメイトは
((((((いや妻かよ!?))))))
全員、
心の中でそう叫んだ
「なにあの甘い空気感、、、」
「見てるこっちが顔赤くなりそうだね、、」
「むぅ〜!由紀〜〜ずるい、、!」
三者三様の反応を見せた。
そんなこんなで1組の打ち上げは終了し、
各々それぞれの方法で帰路についた。
「あ、やべ!工藤さんの連絡先聞くの
忘れた!おねぇ!
今度代わりに聞いてて!」
「はぁ〜、、、
工藤くんのLINEなら持ってるから、
あとで好きに連絡でもしな?
けど、迷惑かけないこと!」
「おっす!」
(ほんと好きだよねえ、、工藤くん。
まぁ、憧れらしいし、
工藤くんが迷惑じゃなければ
いいんだけど、、、、、)
中原日菜は心の中で
再び工藤に頭を下げた。
「妹の秋葉が助手席にいるから、
由紀と一緒に後ろにお願いね?」
「分かりました」
夏美さんに連れられ、
後部座席の方に由紀と座る。
車内は綺麗で、ところどころ小さな
ぬいぐるみとかが置いてある。
「可愛いでしょ?昔は由紀も
ぬいぐるみとか好きだったから、
その時の名残がまだ残っててね〜?」
「お姉ちゃん子供っぽいもん!」
「酷くない!?」
妹の秋葉ちゃんも案外元気な声で
そう言う。
「お母さん、この人誰?」
「この人は由紀の友達で、
工藤勇人くんって名前。
由紀と仲が良いお友達だよ?」
「ふぅ〜〜ん、、、?」
少し考えるような素振りを見せたあと、
俺たち二人を見て言った。
「じゃあ、お姉ちゃんの彼氏?」
「「は!?」」
「いや、お友達って言ったよね!?」
「だって、お姉ちゃんと仲良い男の人
なんて見たことなかったもん!
女の人はいつも見るけど!」
「まぁ確かに、由紀は仲良い女の子は
多いけど、男子はからっきしだからねぇ。」
「いいでしょ別に!
勇人くんいるし!」
(由紀、、、、
自分がなに言ってるか
分かってんのか、、、?)
俺がいれば良いみたいな言い方、、、
そんなこと言ったら、、
「あはは!
そうだね?勇人くんがいれば
由紀は良いもんね?」
「な!?なんか勘違いしてない!?」
うーん、、賑やかぁ、、、、、
一応結構夜も深いのに、
全然元気じゃん、、、
「行きますよ〜!
秋葉、シートベルトした?」
「うん!」
「ならよし!では、出発!」
そうして車が発進して、
暗闇の中を走っていった。
ここから俺や由紀の家までは結構あるので
時間はある程度かかるだろうな。
暗い景色の中を眺めて
着くのを待った。
「んで、、、
な〜んか身に覚えのある感覚だ、、」
窓の外をぼんやりと見ていた。
眠気が襲って来て頑張って耐えてた時に、
不意に肩に何か当たった。
そして俺の膝に由紀の頭が落ちるまで
ノータイム。
膝には寝息を立てて気持ちよさそうに
寝ている由紀。
交流合宿の時と同じじゃんか、、、
「まじか、、、」
「あら、そっちも寝ちゃった?」
運転をしながら話しかけてくる夏美さん。
よく見れば、助手席にいる秋葉ちゃんも
寝ているみたいだ。
「よければそのまま膝貸してあげて?
さっきの話、、
由紀が男の子に
これだけ信頼を寄せてるの、
珍しくてね、、、」
あまり腑に落ちない。
由紀は結構男子から人気を集めてるし、
作ろうと思えば男の友達くらい
いっぱいできそうだけど、、、
「やっぱ、視線って言うのかな?
下心というか、由紀に限らず
女の子ってそういうのに敏感だから」
「あぁ、、、
なんからしいですね。
邪な視線に敏感みたいな、、、」
「そういうこと。私の由紀は可愛いから、
そういった悪意に飲まれないか心配なの」
確かに人気な由紀は、そういった目で
見られることがあるのかも知れない。
「中学の時にね、、、
一度乱暴されかけて、
一時期ちょっとした男性不信みたいに
なっちゃったの、、、」
「男性、、、不信、、?」
なんだそりゃ、、、?
そんな素振りも、
話も一度も、、、
「これは勇人くんも聞いてなかったか。
勝手に言っちゃったね、、、
あとで由紀に謝らなきゃ、、」
赤信号で車が一度止まる。
そして、振り向いて俺の膝にいる由紀を
一瞥する。
「ほんと最初のほうだよ、、
中学に上がったばかりの頃、
由紀のことが好きな男の子とね、、
由紀もその男の子のことは結構信頼
してたみたいで、よく話してたよ」
乱暴なことって、、
「でもその男の子が由紀に告白したの。
速いよね、最近の子はそういうの。」
「その告白を、由紀は受けたんですか?」
「いや、断ったみたい、、、
でも、相手は納得しなかったみたいで、
無理矢理関係を築こうとした、、」
「納得いかなかったとはいえ、
私の由紀を無理矢理どうこうしようと
するなんて、許せない、、、!」
夏美さんのハンドルを握る力が
強くなる。
「そのとき、とある男の子が
たまたまそれを目撃して、
なんとかことなきを得た、、、
君も知ってる、高鳥周君だよ?」
「周、、、!」
由紀を救ってたのか、、
「それから、由紀は塞ぎ込んだ、、
助けてくれた高鳥君さえ、
ろくに信用できずにね、、、」
「でも今は、男子と普通に話してますよ?
そんな感じなかったですし、、」
「多分、そう見せてるだけなんだろうね。
由紀のなかで、おそらく基準というか、
少し壁を作った上で、男子と接してる。」
付き合うなどの関係にならない為に、、
ある程度自分と相手の間に壁を作る。
勘違いさせないために、、、か、。
「知らなかった、、
そんなことがあったなんて、、」
膝にいる由紀の頭を撫でる。
そんな辛いことが、、、
「サッカー部のマネージャーをしてたけど、
その時は流石に行けなくなってね、、、
高鳥君が励ましてたみたいだけど、
それも不発、、、」
どうしてもマネージャーをしていれば
男子と接することが多くなる。
また同じことが起きるかも知れない、、
勘違いをさせるかも、、、
そう言った不安を感じたわけか、、
「どうしようって私も思った、、、
辛そうな、怯えるような顔をした
由紀を見て、私も不安だった。
でも、なんとかある程度だけど
持ち直して、学校に行って、、
部活にも顔は出せるくらいには
なったの、、、、」
見たのは合同の時だけだが、
確かに由紀はいつも周の近くにいた。
少しは、周を信用してたんだろうな
周はあの時から俺と同じでサッカーに
真剣だったから、由紀も少しは
信頼できたのかも知れない。
良くも悪くも自分のことを
見ない周を、、、
「先生も事情を知ってるから、
小さな配慮もしてもらってたよ。
まぁ、それでも由紀は完全に直るまでは
いかなかったけどね」
「なら、、どうやって、、、
由紀はどうやって立ち直ったんですか?
そんな男子のほとんどが
信用できないような状態から、、、」
もはや男子と話すのすら怖かったのかも
知れない。
トラウマのようなものが植え付けられて
いても不思議じゃない、、
「そのきっかけは、とある日の、
人助けのニュースでしたっ」
「ニュース、、ですか?」
さっきのしんみりとした話し方とは
打って変わり、車に乗る前のような
陽気な声で話し始める夏美さん。
青信号になり、車が動き始める。
「由紀はそのニュースを見た、
残念ながら匿名処理がされてて
誰がそれをしたのか私には分からない。
でも、由紀は確信してたよ、、、
そして、私もさっき確信した。
誰を助けたかはわからないけど、
誰が助けたかは、、ね?」
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