84話 勝利に対する欲

「勝つんだよ」

「か、、つ、、、?」


大二郎の問いかけに、

半ば自然に俺はそう答えていた。


「才能も、努力も、そんなの

 どうでもいい。最後に勝てれば、

 そんなのは関係ないんだよ、、、

 大二郎、、お前は、なんで

 サッカーをしてるんだ?」

「え、そりゃ、、!

 サッカーが好きで、、

 そのサッカーで勝ちたいから、、、

 好きなもので負けたくないからだ!」

「ならそれだけを見ればいい

 それだけを考えればいい」


まだ理解していない大二郎に、

俺は自分の考え、自分の心を保つための

戦い方を言う。


「いつだって最後に勝つことを目的として

 行動するんだよ、、、

 例えば才能があったところで、

 勝ったっていう結果がなければ才能なんて

 持ってても意味がないからな」


「才能があろうがなかろうが、自分の好きな

 もので負けたくない。なら、それを

 叶えるために必要なものはなんだ。

 大二郎、、、お前が、

 俺や夜羊に勝つために、負けないためには

 なにをすれば良いと思う?」

「お前たちみたいな努力だ、、、、」

「なんでそう思った?」

「え、、、?」


頭にクエスチョンマークを浮かべる。


「だって、勇人や、千葉とかも、、

 そうやって強くなったんだろ?

 お前たちに並び立つために、、

 お前たちと同じように、、、」

「確かに努力をしたよ、だけど、

 それは俺のやり方だ。

 大二郎ができるかはわからない。

 自分にはできないと思ってしまったから

 こそ、なにをすれば良いか

 分からないんだろ?」


大二郎は言っていた。

才能しかない俺は、努力ができないと。

俺や千葉のように、狂気的に努力に

没頭することができないと。

なら、


「人には向いてないことがある。

 俺にも、千葉にも、、

 そして、大二郎にも、、、

 他人のやり方が自分にとって

 最善かなんて分からないじゃないか」

「じゃあ、なおさらどうすればいい?

 お前たちみたいな狂気的に努力することが

 向いていないなら、、、

 それこそ何をすれば、、、!」

「そこから考えるんだよ」

「は、、、?」









「自分が勝つために、何をすればいいか、、

 自分自身で答えを出さなきゃ意味がない。

 誰かに教えられたことじゃ、

 モチベーションにも限界があるだろ。

 自分になにが必要か、、、

 自分自身で答えを導き出して、

 やりたいって思ったときが始まりだ」


「自分で思いついて導き出したからこそ、

 やりたいって思う。他人からこうしろって

 言われた答えじゃ得られない。

 自分だけのオリジナルの考えや戦い方、

 それを叶えるんだ。」

「自分、、、だけの、、、」

 


「そう。橋本なんか、まさに

 代表的な例だと思うぞ?

 あんな闘い方、誰かに教えられて

 できるものじゃない。」


自分のことは自分が1番よく知っている。

なにができてなにができないか。

なにが苦手でなにが得意なのか、


今までの自分を振り返り、自分に合った

考え方と戦い方。それを自分で構築する。


橋本は、そう考えた末に、あの戦い方を

身につけたんだろう。


他人の技や戦い方を、自分の身体能力で

ある程度再現する。

再現した物と、本来自分が持っていた能力を

掛け合わせることで、再現した物以上の

力を扱う。


力を見て取れる観察力と、発想力。

思いついたものを実行に移せる実行力と、

見た物をそのまま真似できる器用さ。


自分自身の得意不得意がわかっている

からこそ、そういった正面からの戦いとは

違ったアプローチを思いつける。


戦い方も、努力も才能も、

やり方はひとつじゃない。


その真似する戦い方を

思いついた橋本は、それに見合った

練習を重ねた。

それは普通の練習じゃできないことだし、

彼専用のオリジナルの努力の形だ。


「努力の仕方だってそれぞれだ。

 個々人に見合った努力の形がある。

 要は、俺の努力の仕方を大二郎が真似

 したところでそこまでってことだ」

「俺自身に合った、、、努力。

 やり方そのものが俺に合ってない可能性が

 あるってことか、、、、?」

「そうだ。俺とお前は違う。才能とか以前に

 俺らは何もかもが違う。

 逆に、俺が大二郎の努力や戦い方を

 真似したところで、そこまでで終わる」


体格がある大二郎とそうじゃない俺。

戦い方に自然とその長所が組み込まれた

大二郎の戦い方は、俺が真似しても

大きい力にはならない。


逆に、俺の思考回路から生まれる先読みを

大二郎が使えるというわけでもない。

ロジックがわかったところで大二郎の頭が

それについていけるかは別だからだ。


「他人のやり方をそのまま猿真似したところ

 で、お前の真価が発揮されることは

 少ない」


「だからこそ、自分に合った方法で

 強くなることが重要なんだ。

 教えられたものでも、他人のもの

 でもない。

 お前だけのものを見つけろ」


これは俺自身の考え方だ。

この考え方自体、大二郎に合っているかは

分からない。


だが俺の考えで、少しでもコイツの

新しい道が切り開かれると信じて





「思いついたもの全てを叶えるため、

 自分だけの努力を重ねて、、、

 そして最後に、、、自分が納得

 できる結果を出す。それが俺の戦い方だ」

 


中学時代。他人の意見なんざ反吐が出る

と思っていた俺が、自分自身で考え抜いて

導き出した答え。



他より自分の考え。

他より自分の力を鍛える。

他に期待せず自分自身を愚直に強くする。

最後に勝利するという目標に向かって、、、


そんな、自己中心的な思考。





それが俺だ



「俺が言えるのはここまでだ。

 あとは自分で考えるんだな」

「、、、、、、あぁ」

「よし、そろそろ戻るぞ」



そうして二人で来た道を引き返す。

その帰り、俺と大二郎の間に会話はない。



大二郎自身が、何か考えを巡らせ、

思考していたから。

その邪魔にならないために


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